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お悩み:考える力が続かなくて早めに諦めるのだけれど、モヤモヤ感が残ってしまいます。

【初めての方へ】
催眠スクリプトは単なる物語であり、催眠的効果があるものです。どういう意味を持つものなのかというご説明と、ご使用上の注意を、以下の固定記事『ものがたりガーデンの催眠スクリプトについて』にまとめました。出来ればお読みになってから、お楽しみいただきたく存じます。
また、頭がぼんやりしたり、眠くなったりすることがありますので、車の運転や機械の操作等、注意を必要とする作業中には、決して読んだり聴いたりしないでください。

「考える力が続かなくて早めに諦めるのだけれど、モヤモヤ感が残ってしまう」人のための催眠スクリプト


『森のしいたけの回想』

私の目には、緑にくすんだ森の空気が見えていたんです。
霧の深い、その空気の流れる音が、聴こえているのか、いないのか。
すこしひんやりとしたその空気は肌に気持ちがよくて、私はさっきまで見ていた深い夢の世界から目覚めるんです。
あの夢の中で、あの人はなんと言っていたかな?
そんなことを思い出そうとするけれど、それはこの深い霧に溶け込むかのような感じがして、さーっと消えて、もう、どこかへ行ってしまったようでした。
私はなんとなく、この深い森の、背の高い樹々の上に広がっているであろう、青い空を思い浮かべました。
あの美しい歌を歌っている小鳥たちが、木々の梢でゆったりとした気分で羽を休めながら、見上げているかもしれない空を。
それは、どんな青さなのだろう? と、私は思いました。
白っぽい優しい青かしら? 
それとも、目の覚めるような鮮かな青かしら? 
あの美しい歌を歌っている小鳥たちは、空を見上げてどんな気持ちになるのかしら? 
私は、どんな気持ちになるのかしら? 
そんなことを考えていると、私の視界に自分の瞼が優しく降りてくるのが見えて、ただ深い霧の静かな静かな音に身を委ねて、まろやかな眠気に包まれていくのでした。

再び眠りに落ちていく意識の中で、私は、自分の瞼の裏に映るほんのりとした色を見ています。
それはあたたかなオレンジ色で、そうしていると、小さなキャンドルが灯す灯りが見えるような気がしてきます。
ああ、これは、いつか聞いた、あの人の話に出てきた灯りかもしれないな、と思いました。
そう、私には、いろんなお話が聞こえてくるのです。
森の樹々や、草花や、動物たちが、私には見えない世界から、たくさんのお話を仕入れてきてくれて、みんなが思い思いに話すのを聞いているのが、私は大好きなのでした。
そんなお話を聞いていると、私は暖かな暖炉がある部屋を覗いたような気持ちにもなれるし、大空を飛び回るような気持ちにもなれるし、この森のてっぺんで、夜、満天の星を数えるような気持ちにもなれるのです。
今、私の心に灯ったキャンドルの火は、音もなく燃え、ゆらゆらと、私の心を暖めてくれるようです。
そうしていると、ふと、あの懐かしい人がそばに来て身を寄せてくれる、その優しい肩が、胸が、見えるような気がしました。
あの人の息遣いさえ聞こえそうな気がするのに、あれはいつのことだったか、もう随分昔のことのような気がします。
私は、その人の顔を見上げようとするけれど、それはまた、優しい思い出となって、深い霧に溶けていくのでした。

ある時、森のお友達の動物が、私のところに訪ねてきました。
お友達は言いました。
「ねえ、しいたけさん。人間って、どんなのだい?」
私は、
「え?」
と、聞き返しました。
「どんなのって? 私はもう、随分長く会っていないよ。君こそ、人間の住む里まで行って、いつでも見られるじゃないか。人間って、どんなのか、私に教えておくれよ」
「オイラは、あんまり人間の近くに寄ったことがないのさ。だけど、君なら、人間のそばに寄って、その手に触れられたことがあるだろう? オイラは、そういう話が聞きたいのさ」
そうか……。
私はなんとなく、人間の手に触れられたことがあるような気がしてきました。
とてもとても小さかった、赤ちゃんの頃に。
お友達は言いました。
「オイラは、人間のそばに寄ろうとは思わないんだ。だけど、気にはなるのさ。とても楽しそうでさ、皆んなで大きな笑い声なんて立ててさ。腹を抱えて大笑いしているのを見ると、なんだかオイラまで面白い気持ちがしてきてさ。だけど、オイラは陰から見ているのが精一杯だから、一度、君に訊いてみたいと思ったんだ」
私はすこし驚いて、目を見張りました。なぜって、動物のお友達は私よりもずっと自由で、いつでも好きな時に、好きな所へ行けるのですから。
だから私は、私よりも自由な動物たちや、遠くを見ることができる樹々や草花の話を、いつも楽しみに聞いているのですから。
「ねえ、君が生まれる前の話をしておくれ」

私が生まれる前、私は、とても優しい人と一緒にいたような気がします。
生まれる前の私は、その人が用意してくれた木の寝床に植えつけられていました。
その人はいつも、愛おしむような眼差しを、私に注いでくれました。
いつも、自分の部屋の1番いい所に私を植えつけた木の寝床を置いて、そして、語りかけてくれました。
朝、起きた時、どこかへ出掛けて帰ってきた時、夜眠る前。
私はその人の優しい声を聞きながら、
「ああ、早くこの人の元に生まれたい」
と、胸が高鳴るのを感じたものでした。
ある日、私はまだ生まれないまま、その人の家のお庭へと移されることになりました。
「僕のお部屋にいるよりも、こうする方いいみたいなんだ。ごめんね。いつも会いにくるからね」
とその人が言ったので、私は安心して、お庭で暮しました。
そして、私は生まれました。
その人は、生まれたての私を見て、声をあげて大喜びしてくれました。
私も嬉しくて、その人が私を見つめる目を、じっと、いつまでも、心の中でその人に話しかけ喜びを噛み締めながら、見つめ返したのでした。
その人は私に名前をつけました。
毎日その名前で呼ばれるうちに、私はスクスクと成長しました。
その人はそんな私の姿を何度も何度も絵に描きました。
私は名前を呼んでくれるその人に応えようと、喜びを胸に、精一杯の姿をその人に見せました。

またある日のこと、優しい雨音が辺りを包む中その人がやってきて、私は寝床ごと、そっと抱えられました。
そして私は初めてお庭の外の世界を見ました。
私は胸元にしっかりと抱えられて、その人の鼓動が聴こえてくるのを心地よく感じていました。
その人は私に新しい景色を見せながら、雨に濡れた道をパシャパシャと音を立てながら、長く長く歩いて行きました。
私はその胸に揺られながら、その人の顔を見上げて、この愛しさを言葉にするならどんな言葉だろうかと考えました。
その人の胸は、肩は、降る雨から私を守って、濡れていました。
そして温かく、私を抱きしめてくれました。

一体どのくらい時間が経ったのか分からないけれど、私とその人は、この緑の森に着きました。
それからその人は、
「どこが1番いいのかなぁ?」
と言いながら、そして時に私に、
「ねえ、どこがいい?」
と訊ねながら、森の中を歩き回りました。
そして何度も何度も同じところを丹念に調べた後、
「ここなら、いいと思う」
と言って、その場所に、私を寝床ごと、そっと下ろしました。
私がその人を見上げると、その人の目も私を見つめていました。
そして、私との思い出をたくさん語って聞かせてくれました。
その全てを、私も憶えていました。
私は不意に、その人の胸が微かに震えているのを感じました。
そうするとその人は膝を伸ばして立ち上がって、
「じゃあね。元気でね。大きくなってね」
と言い、もう一度膝を折って、その手でそっと優しく、愛おしむように長く、私に触れました。
その目をじっと見上げている私の名前をその人は呼んで、私は、ある感覚になったのでした。

動物のお友達が言いました。
「それで、それからどうなったんだい?」
それから私はこの森で、たくさんのことを知ったのだなぁ、と、ちょっと不思議な気持ちになりました。
そう私は、緑の森に育まれて、お友達のお話を聴きながら、そして色んな気持ちになりながら、心の中で、あの感覚を思い出すのでした。


さあ、ひとーつ! 爽やかな空気が頭に流れてきます!
ふたーつ! 体がだんだんと軽〜くなっていきます!
みっつで! 大きく深呼吸をして〜! 頭がすっきりと目覚めます!


©️2023 Monogatari Garden

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