マルジェラを巡る冒険 #2

それは本当に美しい靴だった。
単に形がきれいとか、デザインがかわいいとかなら、他にも沢山あると思うのだが、それは流麗なフォルムと細やかな作りが見事に調和して、一粒のダイヤみたいな輝きを放っていた。

ドキドキしながら年が明けるのを待って、セールで半額近くになってから購入した。

箱から取り出し、改めてまじまじ眺めると、その仕事の細かさに息を飲み、どぎまぎさせられた。

元になっているメンズシューズの細かい技術や製法のことはわからないが、おそらくきちんとした靴はパーツも行程も多いのだろう。
甲のパーツを縫い合わせているステッチ、内側に使われている素材の柔らかさ、そして側面や底に施されている処理、どれを眺めてもそれを仕上げた人の気配がすぐそこに感じられるほど、とても丁寧に作られている。

しかしそれは同時に扱いがとても難しい靴でもあった。
ベージュのつるりとした皮で作られたそれは、最も染みができやすい類いものだ。実際、初日にコーヒーのドリップを落とすという、普段なら絶対やらない失敗をしてしまい、その跡を今でも判別することができる。

それでも最初の5年は、雨の日を避けて、極力きれいな状態を維持できるよう努めた。
6年目位から、通勤時間の長い日々がまたやってきて、その靴はスタメンに躍り出た。
この頃ようやく皮も柔かくなりだして、同時に少しくたびれ始め、ピカピカなフォーマル靴から、独自の風合いを持つ日々の靴へと変貌し始めた。

つづく


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