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【インタビュー】 引き染め職人 中嶋健

2021年6月の浴衣受注会に引き続き、京都で「中嶋健 染展」を開催中の引き染め職人・中嶋健。
前回の記事では、グラフィックデザイナーからの転身という経歴を紹介したが、今回はどのようにして新しい分野での方向転換をはかったのか、詳しく語ってもらった。

大学卒業後、洋楽への憧れからCDショップの勤務を経てニューヨークへ渡った中嶋。一年間の生活の中で、海外の文化に傾倒するだけでは現地の人々と対等に渡り合えないことを痛感したという。外国への関心とともに、自国の文化への意識が芽生えるきっかけとなった。その後帰国し、グラフィックデザイナーとしてTシャツのデザイン等に従事する。

「転向を考え始めたきっかけは、デザイン業界の早いサイクルが自分の性に合っていなくて、じっくりとモノを作ってみたい、思うようになったから。それと、海外にいる時に自分の意見や考えをきちんと言えないのがもどかしくて…自分なりの考えを持つことのベースが日本の文化や伝統じゃないかと思い始めて、その時から漠然と日本的なことをしたいと思っていた。あとはデジタル媒体ではなく、形として存在するものを作りたいというのもあって、だんだんとその方面へと傾いていった」

このようにそれまでの思いや経験が繋がって、伝統工芸の方面に舵を切ったが、最初から染色や引き染めを志していた訳ではなかった。陶芸、木工、ガラス、和紙、様々な分野の体験教室や展示に足を運び、自分に合うものが何か一つ一つを確かめていった。木工や陶芸だと自身の得意とする色を活かすことができないし、染色だと藍染や絞りが有名だが、いまいちピンとこない…色々と試す中で、行き当たった一つが引き染めだった。

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〈↑:中嶋の引き染めによるテキスタイル/本人提供〉

「引き染めという、布に直接刷毛を使って柄をのせていく染色方法を見た時に、これだと今までやってきたグラフィックデザインをテキスタイルデザインに置き換えられる。これまでの経験を一番活かすことができるのは染色かもしれない、と思ったのがきっかけです」

その後中嶋は染色工房へ就職し、外国人向けのワークショップなどを担当するようになる。仕事を通じて、最低限のスキルを身につけることができたが、そこから先は独学だった。
会社は体験施設の他、職人を抱える工房を有しており、そこで70〜80代が大半を占める職人たちの技術を見てシュミレーションし、家に帰って実験をする。給料を材料費に当て、アパートのベランダから玄関のドアにロープを張り、染色用の布を張り巡らせる。会社から帰った後、夕方から作業を始め、夜は染料を乾かすために、吊った生地の下で寝る。喚気のために冬でも窓を開け放ち、ダウンを着込んで眠る…ものすごい探究心だ。新しいことを吸収しようと、夢中でのめり込む彼の姿が浮かび上がってくる。

「そうですね、楽しくないとそこまでできないですよね。家に来た友達もびっくりしてました。ただ、こうやって自分のやりたい表現の技術を独学できたのはよかったと思う。職人として就職してしまうと、ある特定の技術はのびるかもしれないけど、そればっかりになってしまったり、デザインも古典的なものしかできなかったり…それだと自分の行きたい方向とは違ってモヤモヤしたと思うんで」

ゼロから自分で、という方式が自身にあっていたこともあり、ヘビーながらも楽しかった6年間はあっと言う間に過ぎ去った。その後独立し、バックやイスの座面のテキスタイルデザインと製作でキャリアをスタートさせる。最初は染の面白さに夢中になっていた中嶋だが、徐々に最初の命題…自分たちの文化や日本人らしさについても考えを巡らすようになる。

「染色業界はどこで話を聞いても『厳しい』という声ばかりだし、僕自身、色々な工芸について調べていなかったら引き染めのことは知らないままだった。染の技法やそれに関わる産業を残していくためにも、まずは知ってもらうことから始めなければ、と思い始めて。自分自身が和装についてもっと知りたかったこともあり、色んな世代が楽しんで使える浴衣生地に挑戦してみることにしました」

〈↑:2021年の浴衣受注会での展示風景/中嶋健インスタグラムより〉

浴衣一着には小巾(こはば)と呼ばれるおよそ38センチ幅の生地を5メートル近く染め上げる。幾何学のような柄もプリントのように反復がきかないので、全て手作業で仕上げられる。模様の大きさ、間隔、ラインの太さや滲みぐあいなど、集中力を発揮して最後まで一定に保たなければならない。今年の展示会で、できあがった反物を見せてもらいながら説明を聞いていると、その根気を要する作業を思ってめまいを覚えた。しかし、染の話をしている彼はいつも本当に生き生きと楽しそうで、大変な作業であっても楽しくてしかたがないのがよくわかる。実際、浴衣生地は始めてみると大変だけれど、自身のスキルや表現を最大限に生かせることがわかったという。

今年の浴衣の受注会は終了したが、現在京都の若葉屋で開催中の[中嶋健 染展]では、バッグやクッションカバー等、カラフルでグラフィカルな生活雑貨が販売されている。手染めによる心躍る色使いのテキスタイルや、彼の染色に対する熱い思いにぜひ触れて欲しい。

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〈↑:引き染めによるパネル作品/本人提供〉

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〈↑3枚:[中嶋健 染展]で販売されているアイテム/本人提供〉


[中嶋健 染展]
7/2(金)-7/25(日) 10:00-19:00 ※水曜日休
@若葉屋
京都市中京区三条通西洞院西入塩谷町53





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