見出し画像

検察ナンバー2とスキーに行った話(中編)

 いよいよ地検幹部と警察記者クラブとの懇親会の日になった。サツキャップに今日あった報道発表原稿の引継ぎをし、急ぎ足で会場へ。「誰が来るんだろう」と、期待に胸を躍らせながら入口のドアを開けた。

 会場には検事正、次席検事をはじめ、三席検事、そして大半の裁判で法廷の左側に立ち、事件を担当している主任検事の姿もあった。検察と報道との接触が許されているのは次席検事のみで、現場の第一線で働く主任検事とは話ができない。裁判所で公判終了後に話しかけても「次席検事を通して」と言われるのがオチであった。

その方が、話しかけられず、手持ち無沙汰そうに目の前にいる。各社遠慮しているのか近づかないので、オレは勢いを大事に早速検事の前に進んで話しかける。

「いやあー、○○検事、僕お話出来た際にぜひ言いたかったことがあるんですよ~」

「何ですか?」

「事件初公判の際の冒頭陳述(被告の犯罪を立証するための陳述)が小説っぽくていいなあって。ふつうは立証への論拠ばかりでメモ取るのも大変なんですけど、検事の冒陳は最後に『○○被告は、○○な欲求を○○の犯罪をすることで晴らそうとした』っていう犯行動機の下りがあって、起承転結のストーリーができ上がってて分かり易く、記事にし易いです」

「いやあーそうですか。そんなところまで聞いてるんですね」と、いつもつれない態度しか見せていなかった検事が破顔して応じた。

その様子に気づいた他社も続々と話しかけに来て、結局その検事を取り囲むことに。オレはそこを抜け、他の検察幹部や事務方と交流しつつ着々と関係を築いていった。懇親会終了後は、まだ飲み足りなそうな次席検事を誘って別の店で午前まで飲み明かし、革命的なその夜は更けていった。

 この一件から、事件における地検とのパイプは確かなものとなった。

 子どもを狙う凶悪事件が発生した際、犯人の犯行動機が警察サイドから出てこず、原稿に困っていた際に次席のレクを受けに行くと、「あそこの署はビビってるんだよ」などと言ってあっさりと教えてもらったり。それで、翌日警察署から呼び出しを喰らい「ウチは発表していないぞ!誰から聞いたんだ!」と怒られたり。「いやあ、ネタ元は言えないです」と舌を出して答えたり。

 そして年が明け、雪が降り積もっていたある日の次席のレク。

「雪が毎日積もって、地検に来るのも大変ですよ~。次席、富山の雪はどうですか?」

と、いつもの世間話から入る。

「雪国出身だから雪には慣れてるからね。それよりも、富山には立山山麓という良いスキー場があるみたいじゃないか」

「スキーするんですか?じゃあ今度行きましょう!立山山麓は自分が小学校の時から滑りに行ってるホームグラウンドですよ!」

と、興奮気味に返す。

「そうか。じゃあこの前みたいに記者クラブのメンツ誘って行こうよ。○日は空いてるからその日で考えてみてよ」

…次席とスキーかあ。警察幹部とでもそんなことないぞ。勢いよく了承したオレは早速記者クラブでスキー参加を募る。N放送局とK通信、Y新聞、C新聞が参加を表明、現地での集合時間を決め、次席検事を自分がスキー場まで乗せて行くということとなった。

前日の夜、遅れないよう荷物などの準備を整えていた時、携帯に着信が。

「…いやあ。今大丈夫?」

スキーに参加するN放送局の記者だった。

「○○さん。どうしたんすか?」

「いやあ実はさ。明日スキーに参加するYさん、今日の動き怪しいんだよ。参加する本人じゃなくて部下が○○署にいたの目撃してさ。なんかネタ掴んでるんじゃないかなと。明日ネタ抜かれるかも」

と、爆弾発言。

「え!?マジですか!そんなん、スキーするどころの話じゃないじゃないですか!抜かれネタの心当たりあるんですか?」

やばい。冷たいものが全身を下から上へと駆け上がる。

「…いやあ~。掴んでないけど。○○の余罪かな~。○○の事件かな~。なんかそんな気がするのよね~。あそこは手練れだから怖いよ~」

Nの記者は散々悲観的な推測を言い切り、オレに焦燥と不安を与えて電話を切った。

何てこと聞かせるんだっ。単にスキー行きたくないだけで言ってんのじゃないのかよっ!頭の中で可能性のある抜かれネタをあれか、これかと考えていると寝付けず、仮眠したのか目を閉じていただけなのか分からない最悪な寝起きで朝を迎えた。

明日に差し迫ったスキーを前に、突如としてナイフのように喉元に突き付けられた特オチ問題。

果たして、ネタは抜かれてしまったのか。

そして、次席検事との約束はどうなってしまうのか。

次回、最終回「次席をスキーに連れてって」!


※この記事が面白かったら「スキ」と「フォロー」お願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?