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「少子高齢化」は年金にとって最大の問題なのか?

皆さんは「年金」について、何が最大の問題だと思われますか?
そしてその打開策は何だと認識されていますか?

「年金問題」については日頃から様々なメディアに取り上げられていますが、本質から外れた「不安を煽る」トンデモ記事も数多く見受けられます。
勿論的を得た正確な記事も多いのですが「悪貨は良貨を駆逐する」のことわざ通り、トンデモ記事や極論記事、最近は真っ当な内容の中にトンデモ論が挟まっているものもあり、それらを繰り返し読まれた多くの方が「間違った固い信念」を持ってしまっているように感じます。「間違った固い信念」とは厄介なもので、修正するには多大なエネルギーと時間が必要となります。

そこで、年金制度を今後もしっかり機能させるための現実的な打ち手を共有すべく、何が年金問題の「本質」なのか今一度掘り下げていきましょう。

「少子高齢化」は年金にとって最大の問題なのか?

「少子高齢化」による「人口減少」、これが年金問題の本質と思われている方は多いのではないでしょうか。
子供の頃の教科書での刷り込みもあり、下図のようなイメージが我々の深層心理に刻み込まれていると思います。

キャプチャ

しかし「大人」になった我々は、このようなヒューリスティック(直観的な判断)で悲観論に陥らず、子や孫たちの将来世代のために前向きな打開策を示し実行する責務があるはずです。

「少子高齢化」による「労働人口減少」は「日本経済全体」に大きな影響を与えているのは周知の事実です。年金や社会保障だけの問題ではないのは言うまでもありません。そして、日本経済の成長なしに将来の年金額だけが増加する、というミラクルは起こりえません。

しかし今後「労働人口が減少する」イコール「日本経済はマイナス成長が続く」という悲観論は、あまりにも「極端」といえます。
なぜでしょう?

人口減少でも経済成長は可能?

以下、マクロ経済学の大家である立正大学の吉川洋学長の言葉です。

人口の増加より1人当たりGDPの増加のほうが、(経済成長に)大きな役割を果たす。これを多くの人が忘れてしまっている
「毎年10%近く成長していた戦後日本の高度成長期、労働力人口の増加率は平均1%強にすぎなかった。高度成長は人口の伸びよりも1人当たりGDPの伸びが大きく寄与した
※1.「吉川洋氏が占う未来 人口減でも成長できるか」日本経済新聞2020/1/15

経済成長は「労働人口」の増加よりも「1人当たりGDP(付加価値生産性、賃金)」の向上の方が大きな役割を果たす------特に高度経済成長期は農業から工業へ労働者が移行していった時期であり、それにより一人あたりの付加価値生産性は飛躍的に向上していったのです。

つまり問題の本質は「人口減少」ではなく、ビジネスモデルを大きく転換出来ずに「賃金(付加価値生産性)」の低い仕事が多く残っているという日本経済の現状と言えるのではないでしょうか。
残業時間が長い・会議が多いなど業務効率が悪い事よりも、「稼げる仕事」この30年間日本では他国と比べて創出できなかったことが問題だと思いませんか。

さらに長いスパンで見れば、今後人口が減少しても日本の所得倍増は十分可能だと吉川学長は説明されています。

「年1.5%程度の経済成長は不可能ではない。1.5%成長を続ける一方、人口が0.5%のペースで減ると1人当たりGDPは2%ずつ伸びることになる。年率2%の伸びが続けば35年で2倍になる。仮に経済成長率が1.2%にとどまったとしても、1人当たりGDPは40年で2倍になる。現在30歳の人が70歳になった時、いま70歳の団塊の世代の人たちの2倍の所得を得られるということだ」
※同上

ではどうすれば「賃金」が上がり、「1人当たりGDP」が増加し、「経済成長」の軌道に乗せることが出来るのでしょう。

どうすれば経済成長を起こせるのか?

「経済成長」の創案者であるシュンペーターが「イノベーション(技術革新)が経済成長をもたらす」と言ったのは100年以上前の話です。確かに近年の米国の経済成長を見れば、イノベーションの重要性は理解できます。しかしどうすればイノベーションを起こせるのかは、この100年間誰も具体的に示す事が出来ていません。イノベーションは各企業や個人が試行錯誤を繰り返しながらトライしていくもので、定石はありません。

つまり「政府の成長戦略はどうなっているんだ!」といったところで、成長の具体的理由がわからない中で出来ることは景気刺激策などの「成長の支援」までであり、政府が先導したから必ず経済成長するものではないという事になります。そうであれば大事なのは、日本全体で挑戦する風土、失敗してもやり直せる社会を目指し、成功した起業家を妬んで邪魔をしたり足の引っ張り合いをしている場合ではない、という共通認識の形成ではないでしょうか。このあたりはマインドが大いに変わりつつある今の10代、20代に期待したいところです。懐深い年長者は邪魔をしてはいけません!

イノベーションというとGAFAMのような派手な事例をイメージしがちです。しかし、例えば大人向けの紙おむつなどは少子高齢社会における「需要創出」の立派なイノベーションです。今まで日本企業各社は地道にイノベーションを起こし成果を積み上げており、今後も「少子高齢化対策」や「グリーン対策」のイノベーションが期待されています。

ミドリムシを原料とする食品や繊維、燃料などの開発を手掛ける株式会社ユーグレナの創業社長、出雲充氏は「起業家精神が弱いこと」を日本のイノベーション競争力が上がらない理由の一つとして指摘されています。確かに、スイスのビジネススクールIMDが毎年まとめる「世界競争力ランキング2020年版」によると、日本の「起業家精神」はなんと最下位の63位です。

出雲氏は、出身校である東京大学の「起業家精神を教える授業やインキュベーション施設、ベンチャーキャピタルなど、一から十までお膳立てした起業家を輩出するためのエコシステム」の成功を元に、以下の対応策を挙げています。これは現実的なプランの一つではないでしょうか。

「日本人の価値観や気性にあらがっても仕方ありません。大学の研究者や学生たちの起業を促すためにも、東大モデルを他校に広げていく必要があります。大学発ベンチャーが増えれば国際競争力が高まり、日本が復活するというシナリオは十分にあり得ます。」
※『ユーグレナ出雲氏の達観「それでも日本は変わらない」』日経ビジネス2020/8/19

「元気な高齢者が早く引退しすぎている」ことも本質的な問題

それでも「少子高齢化」による「労働人口減少」は不安という方は多いでしょう。でもちょっと考えてみて下さい。「労働人口減少」は「少子高齢化」の問題というよりも「元気な高齢者が早く引退しすぎている」ことが本質的な問題ではないでしょうか。
昔は年金を10数年受け取って天寿を全うされるケースが多かったものの、今は20年、30年と倍近くの期間の受給をされる方が大半ではないでしょうか。受給期間が長くなっているのであれば、国も企業に対し70歳までの就業機会確保の努力義務を課しているのは当然の流れと言えますし、実際60代後半の被用者数はここ十数年で倍増しています。体力テストなどのデータにおいても、今や65歳は高齢者と呼ぶには相応しくないほど若返っているのです。

「健康なうちに早くリタイヤして旅行や趣味三昧すべきだ」という気持ちも良くわかりますが、働かないで年金を早めに受け取って遊んでしまった結果、老後資金が足りなくなっては元も子もありません。

せっかく長く働くのなら、これからは魅力あるシニアワークスタイルを官民挙げて構築すべきでしょう。もっと自由に旅行を兼ねてワーケーションする、半年働いて半年休む、もしくは個人事業主として挑戦する、、、現に一部の企業では取り組み始めています。そして現役世代から見ても将来の希望が持てるような60代、70代、80代・・を目指すべきではないでしょうか。

まとめ:
・経済成長にとって「人口増加」よりも「付加価値生産性の向上」の方が大きな役割を果たす。
・経済成長には「イノベーション」が重要だがその起こし方に定石はない。
・支援体制と挑戦する社会(少なくとも邪魔しない)への共通認識が必要。
・「元気な高齢者が早く引退しすぎている」ことも本質的な問題。

参考資料:
※1.「吉川洋氏が占う未来 人口減でも成長できるか」日本経済新聞2020/1/15
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54349420U0A110C2I00000/
※2.『ユーグレナ出雲氏の達観「それでも日本は変わらない」』日経ビジネス2020/8/19
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62708090X10C20A8000000/


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