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タイムマシンに乗って未来の年金を観に行こう!【その①】

トシ(30歳の会社員):博士、こんにちは。今日は約束どおり大勢で遊びにきたよ。
博士:おお、ひさしぶりじゃなあ。さあ上がって。
トシ:紹介するよ。大学サークルの先輩OBと後輩の皆さんだよ。
先輩(50歳)、先輩(40歳)、後輩(20歳): 押忍、よろしくお願いします!!
博士:おっ、さすが気合が違うなあ。武道系のサークルでしたかな。
トシ:ラーメンの食べ歩きサークルなんだよ。45年の歴史があるんだ。ラーメン食べ続けるのも気合と体力がいるからね。
博士:そうかそうか、あとで近所の美味しいラーメン屋に皆で行こうか。


「投影」型のタイムマシンとは?

トシ:今日は博士から重大発表があるから皆さんにも来てもらったんだけど、一体何の発表なの。
博士:まずはこちらを見てもらおうかな。
トシ:えっ!これは立派なキャンピングカーだね。これからキャンプに連れて行ってくれるの?
博士:隣のオジサン(65歳)が退職金で購入したものなんだが、夫婦二人の旅行の日々に少々疲れたみたいでな。売りたいという話に乗ったわけだ。勿論ただのキャンピングカーじゃないぞ。
トシ:もしかして、これが新しいタイムマシンなの?
博士:そうなんじゃ!最近株と不動産で儲けたのでやっと新しいタイムマシンを開発できたんじゃ。
後輩(20歳):じゃあ僕の未来の奥さんを見に行く事も出来るんですか?
博士:うむ。今回予算を大幅に増やして開発したんだが、やっぱり未来は不確実で「予測(forecast)」は不可能じゃった。このタイムマシンは現在の延長線上で「このような前提条件を置けば将来こうなる」という「投影(projection)」をするタイプなんじゃ。
先輩(40歳):じゃあ彼の怠惰な学生生活の延長線上だと、それなりの未来しか投影されないという事に・・。
先輩(50歳):いやいや、将来のある若者はこれからの条件設定でいくらでも明るい未来を投影できるぞ。それより我々の未来のほうが心配だよ。年金なんか将来ホントにどうなるのかなあ。
博士:未来の予測と投影を区別出来ない人が多い中、さすがトシの先輩後輩ですな、飲み込みが早い。じゃあ早速未来に向けてタイムトラベルに出発するか。さあさあみんな早く乗って・・。

「失われた30年」がさらに続くと2069年の年金はどうなる?

博士:さあ、2069年まで飛んできたぞ。
後輩(20歳):45年後ということは僕は65歳か。なんだか高齢者が今より少ないように感じるのは気のせいか。みんな若返っているのかな。
トシ:博士、どんな条件設定の未来に来ているの。
博士:うむ。これは今までの「失われた30年」の経済が今後も続くという前提なんじゃ。実質経済成長率の人口一人当たりの年平均を0.7%にしておる。但し労働参加は相応に進む前提だ。まあ、今までの30年より女性や高齢者の労働参加は進んでいくと見るのが妥当じゃろうて。
後輩(20歳):私の年金はどうなっているんでしょう?
博士:2069年の65歳の平均年金額は一人あたり月13.6万円だ。夫婦世帯ならその二倍だな。隣のオジさん(65歳)世代の2024年の平均額が月12.1万円だったから、月1.5万円のアップだ!
後輩(20歳):ええっ、でも45年後は物価も上がって月13.6万円ではとても生活できませんよね?困りますよ!
博士:これは物価上昇率で2024年に割り戻した実質値だから大丈夫じゃよ。年金制度の事を話すと急に怒り出したり否定したりする人が結構いるんだよなあ。年金については今まで学校で詳しく教えていないから、自分が認識している内容と違うと拒否反応があるんだろうな。「感情的・悲観的・直感的」にならないで、冷静に建設的に議論しよう。これはみんなで守るべきルールにしておこうか。
後輩(20歳):失礼しました!でも低成長が続いても年金額がアップしているのは何故なんですか。
博士:それは、女性の厚生年金加入期間が今までより伸びているからじゃ。
先輩(50歳):なるほど、共働きが当たり前の世代ですしね。
後輩(20歳):ところで65歳の僕には会えませんかね?
博士:ほら、遠いけどあそこに見えるぞ。奥さんと仲睦まじそうだ。お子さんは一人のようだな。
トシ:後ろ姿を見るだけでそっとしておこうよ。
後輩(20歳):でも今後も失われた30年がずっと続くような経済前提なんて、博士は我々世代を見くびっていませんか。私はデフレを脱却して成長型経済に移行した未来の投影が見たいです。押忍!
博士:おおっ、その言葉を待っておったぞ!では条件設定を変えてもっと明るい未来を投影しよう。人口一人当たりの実質経済成長率を1.8%に上げて、労働参加はもっと進展させようか。では出発!

「成長型経済」に移行した2069年の年金はどうなる?

博士:さて、「成長型経済」に移行した後の2069年に着いたぞ。
後輩(20歳):おおっ、なんか街が輝いているぞ!性別年齢問わず、みんな働き甲斐を持って日々過ごしているのかな。生活にもハリがありそうだ。
先輩(50歳):やはり経済成長と適度なインフレは重要なんだな。そりゃあ長期間デフレが続けば若者が明るい未来なんか描けないよな。
後輩(20歳):博士、年金も大幅アップしましたか。
博士:どれどれ、、2069年の65歳の平均年金額はなんと月22.5万円じゃ!2024年の平均月額13.6万円から月8.9万円の大幅アップだ。
トシ:男女別にみると、2024年から女性は2倍以上だ!
後輩(20歳):我々世代の年金は絶望的かと思っていたけど、そんな事はないんですね。夫婦二人で月45万円の年金か、夢があるなあ。
博士:但し何の努力もせずに将来の年金が安泰なわけじゃない。条件次第でこれだけ未来が変わるという事はしっかり理解しておいて欲しいな。
後輩(20歳):未来の僕は・・後ろ姿だがあそこにいたぞ!65歳にしてますます元気そうだな。子どもも二人、いや三人かな?
先輩(50歳):夢があっていいなあ。俺も昔はそうだったが(遠い目)。
トシ:先輩みたいな優秀な方にはまだまだ社会貢献してもらわないと。
先輩(40歳):ところで博士、出生率はどんな条件で設定しているのですか。
博士:うむ。合計特殊出生率は2015年に1.45だったから、1.36位は大丈夫と思って設定したんじゃ。その後コロナで低下傾向なのが悩ましいところだが「子ども・子育て支援金制度」も創設されたし、今後出生率が下がらないように社会全体で意識を変えて子育てを応援すべきじゃな。

「制度の理解」と「目標の共有」が大事

先輩(40歳):より多くの労働参加と経済成長が年金の将来を左右するということは、経済というパイを年齢性別関係なくみんなで大きくしていけば、その一部である年金も大きくなるという理屈ですよね。

いっしょに検証!公的年金(厚生労働省)

先輩(50歳):では逆に、女性や高齢者の労働参加が増えず、経済はゼロ成長だったらどうなるのですか。
博士:そりゃあ、年金財政が厳しくなって保険料率などの見直しになる可能性もあるな。だから我々はそうならないように、同じベクトルで目標を持ってサボッたりせずきっちり手を打っていかないといかんという事だ。そこを理解せずに、変な広がりを見せる悲観論に左右されているようでは駄目なんだろうな。まず「現状の制度を正しく理解」して「どうすれば制度をより良い形で次世代に引き継げるか」までみんなで共有することが重要じゃ。近年ようやく学校での金融教育が始まったが、投資信託よりも社会保障の説明をまずしっかりやるべきだとワシは思うな。
トシ:タイムマシンで未来を観に行くのが一番の教育ですよね。
博士:そうなんじゃ。人は近視眼的で、目の前の事で精一杯だからな。30年先・50年先などという未来の事を考えるのは苦手な生き物なんだろう。
トシ:ところで俺や先輩方の年金はどうなるのでしょうか。
博士:おお、そうじゃな。でも小腹も空いてきたことだし、現代に戻ってメルシーのラーメンをみんなで食べに行くかな。一時期閉店の噂もあったが復活のようだし
つづく

※この話はフィクションですが、数値は「令和6(2024)年財政検証結果」を参考にしています。

参考資料:『2024年 財政検証でわかった「公的年金の明るい未来像」とは?』(マネーリテラシー総研 ブログ)


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