ルリマツリ
「おっ、ルリちゃん、やる気あるねーっ!」
遠藤先輩が、持ち運び用給水機を持つルリの両手にはめられた軍手を指差して言った。
「ふふふ」
ルリはその言葉に肯定も否定もせずに、ただ笑った。端から見ると、ジャージに軍手をしている姿は、いかにも頑張るぞ!という表れのように見えるのか、と思いながら。
今からする仕事に対してけっしてやる気がないわけではないものの、他の人がしていない軍手をわざわざ家から持参してはめているのは、実のところ、手を汚したくないからだ。
春に大学に入学した当初、ルリはサークルに入るつもりはなかった。
中高と帰宅部だったことはなく、どちらかと言えば、どっぷりがっつりしっかり活動に参加し、気が付くと中枢になってしまっていたため、もし、サークル活動に参加したら、集中してしまうことは容易に想像できたから。でも、今は、それはできないと。
そのことを学校外の友人たちに話したら、思いもよらず、新入生が色々なところから勧誘されるのは今だけなのだし、ゆるいところでもいいから、どこかには所属してみた方がいいと勧められた。
そういうものか……とみんなの助言を思いながら、学校で定められていた新歓日の学生でごった返すキャンパスを歩く。何枚か渡されたサークル紹介チラシの中に、「ホワイトタイガー」のものもあった。やさしそうな雰囲気の人に「よかったら見学だけでも来てみて!うちは、ゆる~くやってるから」と渡されたのだ。それは、非公式のサッカーサークルだった。
文化部専門のルリにサッカーサークル?とは思ったが、「ゆる~く」という言葉に引かれて、説明ぐらいは聞きに行ってもいいかな……と、指定されている会場にひとりで足を運んだ。周囲のクラスのコたちは、それぞれ情報交換したり、何人かで連れ立って見学に行っているようだが、ルリ自体が入るかどうかも、どのぐらい関心があるのかも分からなかったし、他のコたちと好みを擦り合わせて相談するものでもないかな、ということからだった。
ルリが訪れた時に対応してくれた男女の先輩はとてもフレンドリーで、初対面でも親しみやすい雰囲気。高校時代のサッカー部を思い出すと花形で華やかなイメージがあり、ちょっとルリのフィールドとはかけ離れていた。……というか、そもそも運動部は門外だった。説明の中で、「体育会の公式部ではないし、練習も週3回、バリバリ練習するというよりは、サッカー好きが楽しく親しむサークル」と伝えられた。女子の先輩も数人いて、マネージャーをしているとのこと。マネージャーは、練習時に選手たちに水を配ったり、球拾いをしたり、ベテランになったらスコアつけなども……でも、ルールを知らない初心者でも全然問題ないと言う。姉妹チームがあるので、そのチームとの練習試合に出向くこともあれば、週一で練習後に懇親会兼飲み会もあると。
ルリは、もし入会したとしても、ほぼ確実に週一回しか参加できない旨を伝えたが、それでも、まったく構わないと言う。本当に「ゆる~い」らしい。即決するのはどうかと思い、少し考えてみますと、その場を後にする。先輩たちはにこやかに「軽い気持ちでも大丈夫だからね~。待ってるよ!」と、どこまでも感じがよかった。
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