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生殺と与奪と #書もつ

毎週木曜日は、読んだ本のことを書いています。

一昨年だったと思いますが、京都文学賞を知った時、審査員の名前に眼を瞠りました。あの、原田マハさんがいたのです。果たして、審査員はどんな作品を選ぶのか、とても興味があったのに、すっかり時間は流れ、文学賞のことを忘れていた去年の年末・・。

こんな本を読んだが、読んでみては?ちょっと感想を聞きたくて・・。

と友人から誘いというか、紹介と提案を受けて、その作品を手にしました。

「あ、京都文学賞の作品!」帯を見て、ハッとしました。

羅城門に啼く
松下隆一

結論から書きたいと思います。これが、小説という作品で良かったと心から思います。そして、この作品に出会えたことは、単なる小説や作家との出会いよりもなお、大きな意味があったと断言したいのです。

命を大事にする物語を読む時、その多くの場合で死を象徴的に描き、生きていることに意味を見出すように誘導される印象がありますが、この主人公の迷いは、僕の想像を超えていました。

設定としての疫病は、偶然だったとしても、胸に迫る危機感がありました。道端に転がるむくろ(死体)の存在は異常だけれども、主人公が行動するための説得力がありました。

少ない登場人物たちの壮絶な過去、そして凋落した娘、これまでの悪事を恥じ懺悔する主人公の葛藤は、現代に生きる僕には到底理解ができるものではありませんでした。正直なところ、死が遠くにあるから、安心して生きているような錯覚を覚えていたのかも知れません。

物語を読むときに、果たして僕は誰なのだろうか・・と登場人物に重ねたくなる瞬間があります。それは父であったり、男であったり、子であったり、様々な人生の断片を、理解し容認したいという思いからかも知れません。

「イチよ、欲するな。与えよ。これからは与え続けるのや。」

空也上人が主人公を諭す言葉が、とても印象的でした。僕も主人公と同じように、欲しがってばかりだったなぁと思うのです。与えることの難しさ、与えることの怖さ、それは誰にでもあることだけれど、その恐怖に打ち克って見えてくる景色があるのだと、信じたくなります。

新しい命を背負い、新しい世界を生きる、それはきっと思い通りに行かない苦しさもあるけれど、生きていることが何よりも貴いことで。

人間として成長したとか、正しい行いによって徳を積むとか、そういう綺麗事ではなくて、むくろを弔うことが、生きている者のつとめであるという、単純な営みにこそ自分の生を与えることができるのかと感じ入る瞬間でした。

社会への諦めや怒り、悲しみを伴って死んでいく人もいるし、憎しみを抱いている相手もやがて死んでしまうかも知れない。そんな時、生きている人間に何ができるのか、それはきっと死を悼み、自らの生を与えることだと思うのです。

いい社会になった、世界はどんどん良くなっている、それは数々の犠牲のもとに変化していったのだと語られることがあります。でも、この作品を読んだあとでは、その発想に疑問を感じるようになりました。

僕には、死から生まれるものが何か分からないのです。つまり、死からは、何も生まれてこない。むしろ、死を見届けた生こそが、立ち上がり、社会を動かしてきたのだと思うのです。


混沌とした現代にこそ、自らを与えることで、きっと何かが変わるはず。そんな希望と励ましを得られる、温かい雨粒のような作品でした。

武士の背中は、何を語るのか・・生と死がとても近しい時代のことは、もはや物語でしかわかりません。シンプルな見た目に、この記事の重さが丁度良い(といいのですが笑)そんなサムネイルですね。infocus📷さん、ありがとうございました!

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