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ゼクシィ縁結びで会ったあの人は無事結婚できただろうか?

「結婚できた」と書くと、相手の男性を見下してるようだが、実際はそうではない。ただの婚活失敗談だ。

後日、女子会のネタにして飲みの席で散々笑いをとった。「ないわー!」「ありえんわー!」などと合唱。女子の結束力があがる。それなりに価値ある出会いだった。

具体的に何があったのかというと、
「ゼクシィ縁結び」というマッチングアプリでその男性とマッチングしたのは、ちょうど春になりかけで桜が咲くかどうか、という季節だった。

メッセージが何回か続いて、「会いましょうか?」となったものの、お互い都合がついたのがそれから10日ほど先だった。

思えばその時点で失敗していた。

まず、メッセージのやりとりをしていて話が盛り上がらない、どころか、全然続かないのだ。じゃあなんで会う約束したんだよ!と過去の自分に突っ込みたいが、その時は、メール苦手な人なのかと思ったのだ。会ってみないとわからないと思った。

10日後に会う日まで、相手の男性は毎朝「おはようございます」から始まり、「今日は雨ですね」とか「桜が3分咲きです」とか、お天気と桜の開花情報を送ってきてくれるのがルーティンになった。

日々桜が開花していく状況を男性からのメールで知る私。彼をお天気お兄さんと呼ぶことにした。

お天気お兄さんは本当にお天気の話しかしなかった。こちらから仕事の話しや週末やったことなどの話題を振るも、どうにも盛り上がらないというか、なんというか……。

薄々気がついていたのだが、どうやら私たち、全然気があってなかった。

そう思った段階で会うのやめればよかったのだが、婚活サイトでは一度約束したのをキャンセルするのはルール違反かな?と勝手に思っていたし、とにかく一度アプリを介して誰かと会ってみたかった。

こうして、毎朝「オッケーGoogle」と言わなくても送られてくる天気と桜の開花情報を見て日に日にテンションが下がっていく私。「今日も頑張りましょう!」などと、返すテンプレもパターン化する。一定期間過ぎないと解除できないお天気アプリか?botか?

そして、やっと迎えたデート当日。

その日は金曜日だったのだが、夜20時という時間と場所だけ決めていたものの、あまりにテンションが低く、食べる物はおろか店の予約をどうするかまったく相談していなかった。

私も悪かったのだが、初回デートの店予約は男性側がしてくれているだろうと、勝手に思っていた。

無事待ち合わせ場所で会えた2人だったが、そのまま金曜の夜の恵比寿で無事に居酒屋難民に。

散々歩き回ってなんとか空きが出た居酒屋に入れたものの、その時には完全に「この人はない」と思ってしまっていた。

ちなみに婚活アプリあるあるで、実物を見てがっかりする、というのがあるらしいが、私は初対面でお天気さんのルックスをどう思ったのかまったく記憶にない。見た目がどうであれ先に発展するというアイデアがなかったのだろう。

乾杯にありつけた時には21時を過ぎていた。おあずけの後のビールだったら誰とでもどんな時でも夢のように美味しく飲めるような気がするが、そうでもなかった。

そして、酒が入ってもまったく会話も弾まず。私には変なプライドがあり、相手がなんであれ「気に入られたい」という気持ちが強いので必死で話を盛り上げようと頑張ったが最後まで2人が打ち解けることがないまま、60分経過しラストオーダーになった。この時ほど金曜夜の90分制に感謝したことはない。

私がビール3杯、お天気お兄さんが焼酎かなんか2杯飲んでつまみも3品くらい頼み、伝票の金額みると2人で5000円弱だった。

私は自分の財布の中身見るとあいにく5000円札1枚しか入ってなかった。とりあえず5000円出して様子見…でも大した金額じゃないし悪いけどゴチになるか…と、

「すみません、5000円札しか持ってなくて……」

と申し出たところ、お天気さんは思いもよらない行動を起こした。

私の財布から5000円札をやおら奪い取ると、右手に高く掲げるや、

「すみませーん!両替お願いします!」

と叫んだのだ。

お天気お兄さんは、今までずっと、初対面からずっと、おどおどキョドキョドしていた。ところが、私の5000円札を抜き出して掲げた右手、その声の大きさときたら、自信に満ち溢れていた。

あまらにビックリして固まった。混んでる飲食店で両替を頼んだこと、いやいやそれよりも、人の財布から勝手に金を抜き取ったこと、頭が真っ白で唖然としていると、両替された5000円が戻ってきた。

そうしたらお天気の野郎、

「3000円いいです」

といって、2000円返して寄越した。

2000円を受け取り、「ありがとうございます」と言ってから思った。

私、多めに出してる。

私は確かに1杯多く飲んだ。そして酎ハイよりビールが高かったかもしれない。しかし、つまみはお天気お兄さんが勝手に頼み、私はメニューを手にすることもなく、好みを聞かれることもなく、ほとんどお通しくらいしか手をつけなかったはずだ。

アプリのプロフィール欄には「初回デートの支払い」に関する欄があり、お天気お兄さんは「男が多めに(お金を)出す」にチェック入れていた。

私は別に小銭が欲しかったわけではない! 男性だから女子に奢って当然とも思わない。初回デートも状況によっては割り勘もありだろう。

しかし、財布からお金を抜き取ったり、4千何百円の会計で相手にしれっと多めに要求するその無神経さは我慢ならん!!!

ぶ然として外に出る。

するとお天気お兄さんは、「次どこに行きま……」と言ったように聞こえたが、ついつい食い気味に
「行きません」と言ってしまった。

目黒川まで歩くと桜が満開だった。その時、お天気さんから「なんか、すみませんでした」とメールが来た。もしかしたら2軒目で奢ってくれるつもりだったのだろうか? と思ったら、心がチクリとした。いや、だとしたら先にそう言うだろう…そう思うことにした。

もやもやとした気持ちを抱えながら賑やかにライトアップされた夜桜を見る。

桜がちょっと嫌いになった。

あのお天気さんはいい人と巡り合えただろうか?