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日々まいにちまいにち/旅芝居・父と子

先日、学生時代からの友人がInstagramに息子との2ショットをアップした。
こんなコメントと共に。
「姉弟に見えないかなー、無理か」
その翌日、私はかつて旅芝居界で「様」付けて呼ばれていた座長を観た。

私が旅芝居を観始めた18年程前、彼にはすげー応援隊が居た。
所属する会の年末恒例座長大会では
法被を着た応援隊がずらりと並ぶ人で、ひと際目立っていた。
きりっと巧い正統派の女形舞踊、でも、歌や花をつけられる際は「いひひひひ」「助かりますぅ~」
福々しい子狸のような笑顔で。
そこが愛嬌があり皆を引き付ける。
当時(今は別の劇団に)ショーで舞台袖から司会進行の影マイクとアナウンスで彼の父が盛大に盛り上げていた、あの声も耳から離れない。
「六代目っ!」「千さまっ!」 

芝居でもなんでもござれ。
芝居が好きすぎて旅芝居の芝居が辛く悲しくなる私だが、
彼の芝居は退屈せずに観られた、観させる引力があった。
パクリじゃなく自分のものにされていた。
特に女形の古典芝居、新派ものの芝居。
唐人お吉、残菊物語、滝の白糸、真景累ヶ淵。
観られなかったけれど、佃の渡し、黒蜥蜴にもチャレンジ、びっくりしたなあ。

その後一度座長というか劇団を辞めた。
博多でお店をやっていたと聞いた。
の後、当時私がよく観ていた劇団によくゲスト出演をし、観る機会が多かった。
名前を変え、顔もちょっと変わり、でもあの「スイッチ入れるとゾクリとする色気」は増していた。
ふくふくとしたおかめや狸の愛嬌が、きりり、まっすぐで芯のある「にほんの女」に。
ポーズ、あの目。当時一緒に観ていた友はいまだに言う。「やっぱり、ほんもの」。
そう思わせる座長のひとり。
――今も。

今では息子が劇団のメインとなっているとは聞いていた。
らしいじゃない。なっていた。この目で観た。
勝手に思っていた。「あのお父さんの子だ、どうなるんだろう」
子役の頃、「お」なんて思ったりしてた。古典などを踊る姿に。
何年かぶりに観た彼はちょっといっぱしのイケメン風になり、
今風の舞台装置を使ったり、今風の曲と踊り方でキャーキャー言われていた。
顔そっくりやん。父子やなあ。そんな子がジャニーズなどのPOPS踊ってるなんだか不思議。
お父さんがよく踊ってた曲もあの頃のお父さんの名、今は自身の名の入った傘を持って踊ってもいた。悲鳴のようなきゃーきゃーを浴びて。うれしそうに顔輝かせて。

――お父さんは?

あの頃と変わらないような選曲で「うまいッ!」な踊りを淡々と踊っていた。
さすがに見た目はちょっとその数年分のなにかが滲んでいたと感じた。
相変わらず「スイッチを入れた」時じゃないと「普通」、プロの淡々さ。
でも「スイッチオン」、ラスト前くらいの立ちの1曲、「オン」したように見えた。
あの頃のようにあのポーズこのポーズ。懐かしい。ついシャッターを押してしまった。

化粧、年齢、見た目。
すごくすごくこだわる人だなと思っていた。
いい意味で我々女性、いや、いい意味で「おばちゃん」。
女形を得意とする人特有のその雰囲気のせいか?
いや、大好きな喜劇、旅芝居を代表する名作喜劇である(と思うし断言する)
『花街の母』(若葉劇団・若葉しげる総帥作)のヒロイン、
下世話で情が深い子持ち芸者「奴ちゃん」を好演する姿が印象的すぎるせいかもしれない。
10年位前 改名し劇団名も変えた頃からだったか。
舞台上で冗談めかして笑いながらも、でも本音であろう、
ちょっとイケズで毒で自虐な話を口上挨拶で耳にした。忘れられない。
「きれいなポスターでしょう? これはね、「修正」なんですよぉ~」

にこにこと踊る姿ときりっとスイッチオンな立ちの決め姿を観て。
どんどん出てくる顔そっくりのミニ版、でも「今風版」な息子座長を観て。
頭の中がいそがしかった。

日々まいにちどんなことを思って舞台に立ってるのかなあ。
日々まいにち楽しいかな居心地いいかなあ楽しいかな。

チャンカパーナなんて踊ってた息子。
「父を意識するあまりに」「あたらしい方へ」?
当時から一緒だった友人は言う。「もったいない。あんなにすごいお父さんが居るのに」
正直同じくPOPSでの手踊り舞踊が好きではない私も「うん。うーん」
ええねんけど。てか間違っては全くないし。時代やし。時代と共に生きる。それが旅芝居。皆盛り上がってるし喜んでるし、舞台も客席もええ表情(かお)してる。
でもさすがに大きくはない劇場でセリ上がり舞台?ちっこい階段?立つとせりあがる小さな階段に上がってキメてる様子を観た時はちょっと笑ってしまった。でもそれも〝背伸び〟なんだよねえ、おおきな意味の。
照明も気になった。派手だけれどド派手というのでもない。チカチカと、でも他と比べて妙にぼかしや陰影にこだわっている風に私には見えて。

――あ。

あれ、イマドキ風華やか照明でもあるけれど、もしかして? 

ぼかしてる? 皺とか見えないように明るくしてる?

考えすぎか。(でもスポットライトを使ってそういう演出をしている座長は実際に居るけど)

あと、なんだか「純・和」じゃない鬘もなあ。
若い役者さんはよくかぶるけど、なぜかベテランやおじさんも多く使う
盛り盛りやカラーや不思議な派手鬘。演歌をばしっと踊るには登場時「?」ってなるあれ。
あれも聞いたことがあるんだ。「若くないから」かぶるのだ、って。そんな年代の座長の口から。

やっぱ意識するかな、してるのかな。
親と子、劇団を任す、継がす、でも1役者と役者。
時代。年齢。俺。これまで。これから。しんどいかな。たのしいかな。日々まいにち。まいにちまいにちまいにち。

あの頃は「かわいい女形」「きれいな女形での新派芝居」がええなって思ってた。
でも今、なぜかどうして、立ちで踊る王道の演歌がとても沁みる。

―でもでも。

案外。おいしいって思ってるのかもね。
まわりがこんなに若かったりチャラかったら。そんな時代だったら。だからこそ。
スイッチオン。「ああ、やっぱり巧い」、
それすら父の目、役者の目、いや、おばちゃん狸の目で計算済みなのかもしれない。
「いひひひひ」「助かりますぅ~」

結構、いや、めちゃ、いい父子、いいコンビ、劇団なんかも。

……よ!叶様ッ! 千様ッ!

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(劇団十六夜、市川叶太郎座長(元・六代目市川千太郎))

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(七代目市川千太郎若座長)

(2022.1.18/千成座)

◆omake①◆
過去記事。
この前も、この後もちょいちょいみてたが、この頃なんか偶然みる機会が多かった、と、よく更新してた(笑)

【それは「情念」…にほんじん -千さま舞台は≪にほんの心≫】(2013.8.15)

【「千さまッ!」、なう! -市川千太郎、これから-】(2013.5.29)

【「千さまッ!」 -市川千太郎、これまでも、これからも-】(2013.5.3)


◆omake②◆
この日のInstagramにもちょこっと投稿しましたよ。


◆◆◆
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大阪の物書きです。中村桃子。
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/
大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中。
演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化も好きです。

ラジオ番組の構成などにも関わっています。
AMの懐メロリクエスト番組。(昭和1桁〜50年代歌謡)とか、なぜか落語家さん絡みの番組多し。

現在、ウェブマガジンにて女2人の酒場巡りを連載中。
現在第10回(New!!) 



そして、あたらしい連載「Home」。皆の大事な場所についての文章、も、ぼちぼち。

旅芝居・大衆演劇関係では、各種ライティング業。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、
各種文、台本、役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。あ、小道具の文とかも(笑)やってました。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
アーカイブがYouTubeちゃんねるで公開中(貴重映像ばかり)。


……と、New。今年はYouTube絡みのお仕事にもかかわります(演劇系とかじゃないけど)。ふふふ。

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