鏡の向こう~旅芝居・大衆演劇によせて~

旅役者の化粧の瞬間に立ち合うのはちょっとドキリとします。
ちょっとどころじゃないな、
クラッとします。グラッ、かな。
それまでぺらぺら喋ってたフツーのおっさんが
(にいちゃんの場合や女性の場合もありますが)
鏡を覗き塗っていくにつれて別の顔になっていく・・・。
数度目にしたことがあります。真横で。
この瞬間だけは場を去ろうと何度もしました。
見てはいけない瞬間だと思うから。
「あ、じゃあ、私、外に出ときます」
しかし、「おったらええ」とか「居てくれ」と言われ、しぶしぶ。
といっても言い訳ですね。
「なんや。黙り込んで」
「いや、神聖な瞬間やん」
「なにを言う(笑)」
グラリ、グラッ。ああ、見てしまった。もう戻れない。

見たい?
うん、そない思う人はきっと多いのじゃないかなあ。
見られるのは?
劇団(一座)の仲間や劇場の人、これは当たり前ですね。
他には?
家族、家族に近しい人、彼女、愛人。一部スポンサー(御贔屓)も?かな?
つまり役者自身が「化ける」瞬間を見せてもいいくらいに距離が近いと思っている人、かな。
化ける瞬間を見せても大丈夫と。
この「大丈夫」にはいろんないろんな意味があると思いますが(真顔)

うん、だから見たいと思うのかなあ、客席の皆は。
自分が〝特別〟になりたくて?
他の人よりも自分が〝特別〟になりたくて?
でもあなた、「覚悟」はありますか?ホントに?本当に?

書き屋として旅芝居・大衆演劇に公私共に関わってきた私は
だから、これまで客席のいろんな人に寄ってこられることが多かった。
いや、これは私の力ではなく、SNSの力も大きいのですが。
友達になりたいふりをして近づいてきた人もいれば
ライターやプロぶりたい人が意識しまくりで近づいてきたのもあります。
皆、知りたがります。
旅芝居の内側を。
好きな役者の自分がみたことのない顔を。
で、でも。話すと「そんな人じゃない」と言う。自分を信じ、私を否定するのです。
いや、それはそれで結構なんです。
うん、私が必ずしも正しいなんで絶対ないねんもん。
でもね、ほぼ皆、自分のみたいもの、信じたいもの、
「こうあってほしい世界」「こう思いたい彼」を信じ、キープしたがる……ような気がするねん。
すがるように。または、意地で。
そうだよね、だって自己否定よりも、他を否定する方が易いもの。

でも―
旅芝居・大衆演劇は。
どれだけきれいに塗っていても、その人の素が、〝ナカミ〟が見える世界だと思うのです。
なぜだろう。なんでだろう。なんなんだろう。でも。
みればみるほど。そう遠くないうちに見える。嫌でも。
滲む。漏れる。浮かぶ。くっきりと。
それを見て見ぬふりして意地でしがみつく人。
キレて(逆ギレして)他の役者へ行き、同じことを繰り返す人。
意地で美化する人(笑)
天然な人(笑)
さまざまでありそれぞれではありますが。
それだけ舞台から見える、滲む、漏れるものを見るだけでも動揺したり逆ギレしたり。
なのに、見たい? 本当にぐらりと堕ちる覚悟はある? 内側を。
もう、「見る前」には戻れないのに……。

でもね、もっかいひっくり返しましょう。

ディズニーランドのミッキーマウスの中には人がおるねん。
今日も汗水たらして必死に働いてるねん。その汗と熱が、うつくしいねん。
ここは人が生きるために塗って舞台を見せているところ……。
やと、私は思うのです。

画像1

だからね。
鏡を覗き化粧する姿はやはり特別な瞬間なのだと思います。
特別だけど、彼らにとっては日々のことである。
生きていくための儀式のような、でも、毎日のルーティンであり。
ケとハレ。仕事であり生活。舞台は人生。
旅芝居・大衆演劇は俗と聖、生、性(?!)、世。
だから客席の私たちはこんなにも魅了されるんやろうなあ。
のめりこんだり。同じく生活や人生をつぎこんで堕ちて行く人も多いんやろうなあ。
「生」のにおいに。
だからこそ私たち客席の者には距離感がむずかしい。
怖く。おもしろく。むずかしく。でも、おもしろい。
遠すぎるとこの舞台たちの魅力はたぶんわかりきらないし、近づきすぎると……(笑)
でもね、どうぞどうぞ、ミッキーマウスはミッキーマウスやけど人間やで、みたいなことを、皆がちょっとだけ頭においておければな、と思います。
別に着ぐるみの中身をはがさなくてええねん、
せやけど、理想化したり、自分が「こうあってほしい」を押し付けて、
自分も役者もしんどくなることのないよう……と。

昔、某座長が写真集を作る際に大衆演劇に出入りしている業者のひとつ……
に所属しているカメラマンに依頼した。
彼は御多分に漏れずこの瞬間を撮ろうとした、撮りました。
「しょうもな」
彼の言動に対してこぼしていたのは私の知り合いのカメラマンです。
今の私と同じようにフリーで旅芝居にかかわる人でした。
「ほんま、なんもわかっとらん。だから素人やっていうてるねん」
と言いながら彼は「あまりにも酷いから」と自身が撮った舞台写真を
その座長のこれからのために写真集に提供したのですが。
ほんま、ファンがプロを気取り公私混同がおおっぴらに罷り通っていることで
色々あまりに問題が出すぎている旅芝居・大衆演劇界……うーん……やなあ。
ああ、またこのオチになってまうが、これもいつも考えさせられるエピソードです。

いくら旅芝居のいろんなさまがSNSでも見られるようになっても。
舞台と客席の間にはどこか暗くて深い川がある世界なんやと思います。
近いのに遠い、遠いのに近い、ゆらり、ゆらり。
やっぱり、大人の世界やな、いろっぽい世界やなと思います。
生活やからこそ、いろっぽい。
いろんなことを見たり体験したりしてきて、
嫌なもん悪いもん認めたくないもん見てみぬふりしたいものもほんま見てきて(笑&苦笑)、
自分も勿論なにもわからないときや勝手な理想化したりもしてきたこともあります。
だから、やっぱり書いていかなあかんと思います。
が、ぼちぼち(ほんまにぼちぼちな。笑)出していきますね。
やっぱりこちらも独特で、特殊で、限りなく生活なのに不思議な、世界です。
コロナも少し落ち着いてきて(落ち着いてないけど)
全国の小屋では幕をあけだしています。
やはり私的にはここにいつも書くように足が向かないのだけれど(笑)
ぼちぼち覗いていこうと思います。
うん、そう、これも、Lifeworkとして追う世界だから。
舞台。人間。生。劇場。生きるということ……

この沼にハマっている皆さん。お疲れ様。
まだ縁がなくて観たことや体験したことのない皆さん、ぜひ一度。
この俗っぽくて聖で性で生で、だからこそ俗で聖な舞台をぜひ。(悪の誘い←?!)

舞台と客席は合わせ鏡。
鏡には、なにがうつっていますか?
何が見えますか。見ますか。
鏡のむこうにいるのは私でありあなたなのかも。

……なんか今日の文はゆらりゆらりでとっちらかりましたね(笑)
数日前にふと書いて放っていて、やめとこと思ったのですが、
そろそろ旅芝居ネタもおいておこうと思いました。
読んでいただき、何かがひっかかってくれたら、嬉しみです。わーい。

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