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化粧

旅芝居は、せつない。
白く塗れば塗るほど、騒げば騒ぐほど。
せつなく、あたたかく、熱く、せつない。

今日も女たちは頬を染めカメラを構え熱くなっている。
昼過ぎの小屋、界隈では立派な舞台だといわれる小屋の客席では、
コロナ禍にもかかわらず結構な数の女性たちが身を乗り出さんばかりに
お目当ての役者を見つめている。
その多くは中年女性たちだが若い女性の姿も見られる。

彼女たちに向けて役者は踊りながらアピールをする。
全方向にくまなく目線や流し目や相槌のような仕草をし、
着物をはだけで肩を見せるように踊りながら
もっと深くはだけで乳首まで出したり舌を出したりもしながら。
厚い化粧、華やかというより派手な着物、着物ではなく洋装や私服姿も披露する。
でも化粧は濃いそれのままだ。

サービスが過剰になればなるほど女性たちの見つめる目線は熱をおびる。
もっと、もっと、と言わんばかりに。

だから彼は毎日その仕草をする。
毎日人気のある同じ曲を歌う。
もうこれ以上のサービスはないくらいに
過剰なステージパフォーマンスを日々続ける、
若い役者のように。いや、若い役者以上に。

本当は芝居に力をいれたい。芝居が好きだ。
それも今の客席が求めないような芝居がいい。
古いと言われる芝居、師匠たちから継いできた芝居、
派手なアピールや笑いなんてない地味な芝居といわれる芝居。
でも己の好みを通すと客入りに響いてしまうし、数あるライバル劇団に客をとられる。
近年の流行りはわかりやすい芝居や笑いの多い芝居だ。
熱心に通ってくれる常連の多くは「こんな時代だから楽しいものを観たい」の声が多いし、
稀にいるそんな芝居を観たいと近づいてくるのは、
近年流行りのSNSで審査員か評論家ぶってなにやら書く、
自分の自意識が勝つ客たちが多い。
でも1人でも多くの客を呼ばないと次の公演先の確保には繋がらないから、
どちらの層にもアピールすべく彼は毎日のプログラムを組み、
今日も笑顔、明日も笑顔で、アピールをする。

そうしているうちに日が過ぎ、年月が過ぎてゆく。
日々気力体力消耗をし、厚く塗るうちに
その顔は塗っても年齢がごまかせなくなるようになる。
自らでその老いを気付いた時には、
客席の関心は自分よりも若い役者へとうつっている。
「夢をみさせて」「きたないものは見たくない」「私たちはお客さん」
もう若いものに舞台の中心を譲ろうと考えても、
濃い追っかけは、自分の引退や出番の少なさを許さない。

だから彼は今日もおしろいを塗り、紅をひき、舞台に立つ。
十八番の曲を踊り、毎日自分のテーマ曲のような歌い、盛り上げ続ける。
今日の幕がおりたらまた明日の幕があく。また化粧をする。皆が俺を待っている。

哀しいのか、哀しくないのか、
そんなことすら感じなくなる、それが、きっと、旅役者。
すべては、舞台姿から滲み漏れる。

だから私は、とても、切ない。
眩しければ眩しいほど、賑やかで騒がしければ騒がしいほど。
泣けて、ぐっときて、パワーをもらいながら、また、泣ける。

たくさんの役者をみてきた。
私は滲みをみてみぬふり出来ぬ無粋な客、
いや無粋で色気よりエゴが勝つ物書きだ。
愚痴も本音もみたりきいたりしてきた。

だからね。

どうか、どうかね、体こわさないよう、こわさせないよう。

舞台にも客席にも「本当の笑顔」の瞬間が、1日でも1秒でもありますよう。

それすらも厚い化粧と歓声の中でわからなくなっているのかもしれなくても。

明日も、明後日も、この先も、旅芝居が続きますよう。
舞台と客席、両の心の隙間を埋める、
やさしくて切なくて明るくて暗くてだから笑って泣ける、
薄暗い小屋のまぶしい舞台として、
あたらしくなり続ける時代にも、だからこそ、続きますよう。これまでも、今も、これからも、皆、皆が、皆で笑えますよう。

この小屋の中では、でも、でもそれでも、皆、皆の心が、救われているから。

きのう、祈るように、思った。
〝がんばりすぎ屋さん〟な座長の舞台をみながら……。

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やはり私もまた、この「人間舞台」から足を洗えないのかもしれない、これからも。
怒ったり泣いたり、でも笑いながら、そして心の隙間を埋めながら。
観てゆくのだろう、あの厚い化粧の役者たちを。
欲と色気とさびしさと業、だから笑顔、
だから眩しくてあたたかい、「人間そのもの」、旅芝居という人間舞台を。

◆stage◆
3.16 朝日劇場 飛翔座、恋瀬川翔炎座長
歌のステージの2曲目、お父様の着物で「オヤジが好きだった曲です」
〝啖呵切るより手のほうが早い〟
『新・無法松の一生』にグッときました。
呑んでたからかな、ちょっと、涙出そうでした、次のいつもの『炎』も、熱狂の客席の中で、だからこそ。

◆omake◆
過去記事
【カラスたちの『男酔い』-旅役者の「血」-】
https://momo1122.at.webry.info/201701/article_4.html

【いい芝居とは~My Dear, 大衆演劇、役者さんとお客さん~】
https://momo1122.at.webry.info/201503/article_1.html

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大阪の物書きでございます。
大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
下町・大衆文化も好きです。
女2人の立ち呑み旅も、連載中。現在第8回まで更新中。

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