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ムーミンと招き猫

今月頭らへんの旅先での話なんだけど、地方の駅でハサミを借りた。
ダウンジャケットのポケットのジッパーが噛んで開かなくなった。
スマホを入れていたのに取り出せずロック状態。
しかもまわりになにもない街。用事の時間は迫っていた。
もうザクっと切って取り出してしまおう。それしかない。駅に駆け込んだ。
 
今冷静に考えると何時間か前に電車を降りたやつが突然やってきてハサミを貸してくれというのはだいぶホラーである。
 
しかし駅長室にひとりいらっしゃった年配の駅員さんは「まあああ、それはたいへん」と、御自分の鞄の中からお裁縫セットを持ってきてくれた。
 
「切る?」「切ります」
「切っちゃうともう着れなくなるじゃない」「ですよねえ」
「ちょっと貸して。ほどいてみましょ、糸のとこ」「えー!?」
「できなかったらごめん。でもまだ次の電車来るまで時間あるからアタシがやる」
 
でも結び目はなかなかほどけず。
申し訳なさもあってわたしは焦り出した。お礼を言い、その上で、言った。
 
「もう切っちゃってください」
 
「それはアタシやだ」
 
え!?
 
「切っちゃうと責任とれないもん(笑)」 「全然いいです(笑)」「やだ。はい(笑)」
 
ハサミが差し出された。
 
「え、あ、ありがとうございます」「ほんとに切るの??」「切りますっ」「わー」「えー」
「あ、うまいうまい」「うまい?!?!」「だってこれこの裏を縫ったらまた元通りになるじゃない」「帰ったらすぐ縫いますっ」
 
お姐さんの裁縫セットはムーミンの柄だった。なんだかふと思い出す。
 
これは最近というか今月半ば頃の話。
近所のすごい雑多なリサイクルショップの前を通るとブランドのセーターというかセーターカーディガンがタグ付き新品で600円と1000円で売られていて、「なんでこれこんな値段なんやろおかしいやん」と見ていたら、後ろから声がした。
 
招き猫みたいな顔をした派手なパーマの店員のオバ……失礼、お姐さんだった。
 
「それええやろ。あんた買い」
 
シンプルすぎるも有無を言わせぬ感じがじわじわと来て頭より先に口が言うていた。
 
「ほな買います」
 
「袋あるか」
 
ないです。
 
「ちょっと待ち」
 
めちゃめちゃちっさいコンビニ袋を出してきた。
 
「これええ袋やろ」
 
めっちゃええですね。
 
招き猫はあきらかに入りもしないちいさなサイズの中にセーター2つを押し込むように入らないけれど入れた感じにつっこんでそのままくれた。
 
みんなやさしい。

どれもこの冬よく着てる。温い。


寒いしね、ばたばたする時期やけどね、
皆無理なく元気で。
ばたばたな人もしんどい人も
残すところ1週間ちょいとは云えど1週間ちょいもあるからね。1日1日、元気でね、です。


◆◆
【略歴や自己紹介など】

構成作家/ライター/エッセイスト、
Momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。

lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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