職人尽歌合 35~43番
三十五番 米売 対 まめ売
米売
なをこめは候
けさの市には あひ候へし
まめ売
われらか 大豆も
いまた 商おそく候そ
三十六番 いたか 対 穢多
いたか
なかれかんちやう なかさせたまへ
卒都婆と申は 大日如来の三魔耶 形
穢多
此かわは 大まひかな
※ 「いたか」は、卒塔婆に経文や戒名を書いて川に流したり、経を読んだりして銭をもらって歩くひとのこと。
※ 「なかれかんちやう」は、流灌頂。灌頂の幡、または、率塔婆を川や海に流す法会のこと。
※ 「なかさせたまへ」は、流させ給え。
※ 「卒都婆」は、卒塔婆。そとうば。
※ 「三摩耶形」は、仏の力や性格を象徴する物(弓、矢、剣、杖、蓮華など)のこと。さんまやぎょう。
※ 「かわ」は、皮。
※ 「大まひ」は、大枚。形の大きいこと。
三十七番 豆腐うり 対 素麺うり
豆腐うり
とうふめせ 奈良より のほりて候
素麺うり
これは ふとそうめんに したる
※ 「のほりて」は、のぼりて。
※ 「ふとそうめん」は、太素麺。
三十八番 鹽うり 対 麹売
鹽うり
きのふ 羹うりの あたひまて
けふ給る 人もかな
麹売
上戸達 御覧して
よたれなかし 給ふな
※ 「鹽」は、塩。
※ 「羹」は、 肉や野菜を煮た熱い料理のこと。
※ 「上戸」は、酒を好みたくさん飲む人のこと。下戸の対義語。
※ 「よたれなかし」は、涎流し。
三十九番 玉磨 対 硯士
玉磨
これは ちかころの 玉かな
火をも 水をも とりつへし
念珠のつふには あたらもの哉
硯士
しやくわう寺は しろみ かたくて
きりにくき
※ 「玉磨」は、玉を磨いて細工をすること。たまみがき。
※ 「あたらもの」は、惜しむべきもの、惜しいこと。可惜物。
※ 「しやくわう寺」は、岩王寺石のこと。岩王寺の奥から産出する石で作られた岩王寺石硯は、嵯峨天皇(日本三筆のひとり)が愛用した名硯として知られていました。
四十番 燈心うり 対 葱売
燈心うり
葱 売
※ 「燈心」は、あんどんの心のこと。
※ 「葱」の「ひともし」は、一文字。ねぎを「き」と一音で呼ぶ女房詞 からできた名前です。
四十一番 すあひ 対 蔵まはり
すあひ
御よふや さふらふ
蔵まはり
御つかひ物 御つかひ物
※ 「すあひ」は、牙儈。売買の仲介をして手数料をとること。
※ 「蔵まはり」は、質流れの古着や小道具を売買して歩く商人のこと。蔵回。
四十二番 筏士 対 櫛挽
筏士
此程は 水しほよくて
いくらの材木を くたしつらむ
櫛挽
まつ これはかりひきて
のこきりの目を きらむ
※ 「筏士」は、山で伐り出した材木を筏に組んで、河川を運搬する人のこと。筏師。
※ 「くたし」は、下し。
※ 「櫛挽」は、櫛をつくること。
四十三番 枕売 対 畳刺
枕売
いま一のかたも もちて候
ひそかに めし候へ
畳刺
九条殿に 何事の 御座あるやらん
帖を多く さゝせらるゝ
※ 「帖」は、ここでは畳のこと。
筆者注 新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖