【小説】 なにもできない
「母さん、棺桶作ろうと思ってるんだけど」
ながらく引きこもりをしている俺の部屋のドアのむこうで、母さんが言った。御年六十二歳。棺桶を作るには少し早いんじゃないか、と俺は言った。
「だけど、うちには父親もいないし、もし母さんが死んだとしても、どうせあんた一人じゃどうにも出来ないでしょう。せいぜい死体の横で途方に暮れるのがおちよ」
そう言われて俺はカッとなった。俺がなんにも出来ないなんて、馬鹿にしたこと言いやがって。誰のせいでこうなったと思ってるんだ。俺は無言で、ドアに向かっ