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躯体上の翼【いやあ読書紹介も意外といけますねー】(著:結城充考)

さて今回の読書紹介は少し前に読んだものを紹介させていただきます。
これは2013年に刊行された本ですね。日本の小説です。
私はとりあえず見たことないものを買おう精神でジャケ買いしたことを覚えてます。

警告!
ハッピーエンドでは少なくともありません!
当時の私はハッピーエンド至上主義の時期でして、他の部分はまだしも、エンディングについては不満を抱いたものでした。なのでそのころの評価は低かったのです。
しかし今、見直してみると、

あれこれ、ハードボイルドなんじゃね?

ほら、ギャング映画とかノワール映画とかによくある。

「めでたしめでたし」の世界ではなく
「圧倒的にかっこいい!」の方に属してるんじゃね?

ひとたびこのように視点が変更されると、他の要素が良かっただけに、かなり自分の中で再評価されてしまいました。

という前提を踏まえて紹介していきましょう。

印象として一言で述べると「風の谷のナウシカ」に似てますね。
書評によると二瓶勉の「BLAME」に似てるという人もいました。
「BLAME」は読んだこと・・・忘れてるかもしれませんが「バイオメガ」はぜんぶ読みましたね。確かに似てる。

まずこれは、文明崩壊後の世界なんですね。
世界はナノテク文明?の暴走の結果として、勝手に生えてくる巨大ビルディングによって覆われています。それ以前の世界の姿は跡形もありません。
そして文明を無くして原始的な生活をしている狩猟採集民がその間にほそぼそと住んでいます。

一方でどこかに共和国という残存文明があり、彼らは自分たちに残されたテクノロジーでまたしても世界を都合よく改良しようと考えています。
「未来少年コナン」のインダストリアを連想してくれると話がはやい。
あるいは「ナウシカ」に出てくるトルメキアやドルク(ドルクは原作版にしか出てきませんけど)

しかしそこは文明の衰退期、技術が次々と失われていくのはどうしようもなく、長期的に衰勢を挽回できるような感じではなく、そして共産主義国家のような独裁体制を敷いているようです。そして漢字文化圏の人々です。
まあさすがに現代中国とは似ても似つかないですね。
また共和国はどうも狩猟採集民を野蛮人と低く見ているようで、彼らの生活など無視して、自分たちの世界改良政策を続行していきます。(ここら辺は隠喩的に示唆される闇があるようです)

さて主人公ヒロインは、人間をベースにして作られた生体兵器。工業製品です。
生まれた瞬間から自立できる機械にして、共和国に所属する企業に雇用されている労働者でもあります。
基本的には女性の姿をしてますが、任意で他の生物の遺伝子を取り入れ、飛行モードになったり航洋モードになったりできるみたいです。しかも数百年以上の寿命があります。戦闘機械であり無類の強さを持ちます。

ただし元が人間ベースの兵器なので、生まれたときに雇用契約を結んで共和国兵士になるのですが、雇用契約なので契約破棄して辞職することはもちろん可能です。
可能ですけど、仮に辞職するとバイオ的なメンテナンスやパーツ供給が停止されるので、実質は奴隷なんですよね。
形式だけ自由意思による労働者という形にしてあるだけのようなのです。
もっとも主人公ヒロインは、すでに減価償却を終えているので、その点では問題なく、辞めてもあまり困らない程度の余裕はあるようです。

彼女たち生体兵器は、原始的な狩猟採集民にとっては現実に存在する神的存在です。
信仰の対象になったり、あるいは神狩りの狩猟対象になったりします。
ヒロインについては、自分を神様として祀ってくれていた村がある理由で滅んで以来、人間と関わりあうつもりはないようですが。

そんなヒロインはある時、謎の通信をキャッチします。

自分のことを cy と呼ぶ謎の青年です。イメージ的には若い男性を想起させます。
ヒロインと青年は仲良くなるんですね。よくある展開。
青年は文明が崩壊する前の知識を持っており、ヒロインをとある事件から救います。
ただそのことで、共和国は cy を敵視して、破壊するための空中艦隊を派遣してきます。

ヒロインは絶望しますが、天啓がひらめきます。

(そうだ、自分がその艦隊をぜんぶ叩き落せばいいんじゃない!?)

映画版「ナウシカ」でたった一機の戦闘機がどこからともなく現れ、巨大な輸送機を次々と撃墜するシーン。はるか雲海の上空での航空戦。
そこだけ二時間枠の映画に拡大したようなものだと思ってください。
そういう小説なのです。
そうです。
後はひたすら空戦が、そして敵母船に乗り込んでの白兵戦が描写されてます。

この作者さん、明らかに「風の谷のナウシカ」や「未来少年コナン」を参考にしてきたな、と思っちゃいます。敵の空中戦艦も「ラピュタ」のゴリアテみたいな描写だし。

敵の艦隊は、普段は平安貴族みたいな軍事に疎そうな人物が乗っておりますが(この人も脇役として後でとんでもない形で活躍します)
緊急時には、本国から上級司令官がダウンロードされてきます。
そのために上級司令官の器となる死体が常時、冷凍保存されているのですね。

ただ作中では保存に失敗して腐敗しており、上級司令官は腐敗した体で恐ろしく不愉快な苦痛を感じながら、臨時指揮をとることになります。なんともはや。

そしてこの司令官、有能なんですが、同時にものすごく傲慢なんですね。
ソ連軍の政治委員、というかそういう概念が分かってもらえれば、という感じですが。
自分の安全だけは可能な限り守らせようとする一方で、無能な部下は人間扱いしません。有能な部下でも道具以上の存在とは見ていません。
とはいえさすがに百戦錬磨なので、適確に戦術指揮をとり、反乱したヒロインを追い詰めていきます。
しかしヒロインもたたでは負けない!

という感じで、この後は読んでもらった方がいいかもしれません。

文明の衰退期という独特な世界の描写が秀逸です。
よくここまで細部を作りこんだな、というくらい荒廃した世界の描写が良く書かれています。
ナウシカみたいなSF的な異世界を読みたい、という方には、読んで損をすることはないと思いますね。

少し気になるのはやはり、前述のエンディングで意見が分かれそうな点ですね。
ただ、ちょっと想像して見てください。

この後 cy がどのような行動を取り、どのような存在を目指すか。
これはもしかしたら、夜明け前を描いた作品なのかもしれませんよ。

という紹介でしたが、どーでしたでしょーか!?

いつも通り、まじめな書評をば下に。

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