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【小説】「夫婦の絆」第四話・エピローグ
第四話「冬」
年老いた夫の指は依然として私の喉を絞めていたが、その力は少し弱くなった。或いは、私が痛みを感じないほどに死に近づいているのだろうか? 走馬燈であろう三十秒ほどのほんの僅かな時の流れの中、私の意識は令和を彷徨っていた。
夫は七十代になった今も、工場を廃業した際に精算したつもりだった借金の残りを、返済するために週に四回終日のバイトを続けている。私も、数年前までは近所の総菜店にパー
【小説】「夫婦の絆」プロローグ・第一話
あらすじ
プロローグ
年老いた夫は穏やかな瞳に涙を浮かべながら私の喉元を押さえ「ありがとう」と繰り返す度に力を強めた。笑うと目尻が下がり、より一層柔和に見えるその笑顔は何十年も見てきたのだが、今日ほど狂気に満ちて感じたことはなかった。ユリカモメの鳴き声が聞こえる。ここは、夫がよく釣りに出掛けた汽水湖の畔にある公園。「非日常」が繰り広げられていても目撃者は誰もいないような寂れた公園駐車場だ。車
【渡邊惺仁さん企画参加】或る男の嘆き❷
翌朝、出勤した守島はまだ誰も来ていないオフィスで、デスクの上に内部資料入りの封筒を並べた。報道各社に送るべきかどうか昨夜から迷っていたのだ。
そこに、思い掛けず直属の上司である真木が不意にやってきた。
「ねぇ、守島くん。どうして操作用手袋をはめているの?その封筒は何?」
尋ねられた守島は、ちょっと顔を曇らせて封筒をしまった。
真木は直属の上司にあたる。何か隠し事をしても、いつもばれてしまう直観
【渡邊惺仁さん企画参加】或る男の嘆き❶
男は夕飯に寄った居酒屋のテレビを見ながらつぶやいた。
「この国の正義はどうかしてるぜ」
男の名前は、守島英治。警視庁捜査一課に勤務するエリートなのだが、今夜も一人、居酒屋の片隅で「一人鍋」をつついている。この店のオススメ「鴨鍋」である。鴨肉が意外にも柔らかくて癖になる。
守島が気にいらないのは、あるスポーツ組織でこれまで隠蔽に隠蔽を重ねて隠し通してきた性暴力事件だ。これまで報道各社は、そのスポー
別れ話 第7話【最終話】
第7話
「仕事が終わり次第、僕の勤務する農場レストランで食事をしよう」
と僕は彼女にDMを送った。彼女から「了解」の返信があった。
僕は、一旦家に帰ってスーツに着替えることにした。どんな言葉で「入籍できるようになったこと」を伝えようか考えていた。
プロポーズをしてから半年もの月日が過ぎてしまい、彼女には本当に心配をかけた。
でも、僕の収入が安定してからでないと前に進んではいけないような気がした