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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第40話

四月二十四日(水)

「こいつはほんとヒドくてな。二十四日にホワイトクリスマスですね。っていうんだ。静岡の三島だぞ。雪じゃない。ちゅうに舞ってるセメントカスじゃねぇか。」

「けど、あの後しっかり怒られたんで。許してくださいよ。」

「それは元請けにだろ。俺はまだ許しちゃいねぇ。お前は段取りが悪すぎる。よりによって現場の掃除をイブにするかぁ。せっかく新幹線の現場で年末年始は長いこと休めると思ったのに、二十四日に呼び出して、掃除を半日で終えて、帰ってください。は、ねぇだろ。休み潰れるのに半日しか給料もらえねぇじゃねぇか。」

「だから、その後みんなでチューブライトでメリークリスマスって作ったじゃないですか。クリスマス照明設置工事ですよ。Xの上の点が作れねぇって言って、ビニールテープでなんとかしたじゃないですか。」

「そうだったそうだった。たらこスパゲティーがなんだとか言ってな。
 あ、トキさん。チューブライトっていうのは、工事のフェンスとかについてる、あの細ながーい赤い照明だ。」

「アポストロフィーです。」

「まぁ、確かに一日分給料くれたんだったよな。そしたら、ネットで騒動になっちまって、元請けが新幹線で飛んできて、お前は年末年始に説教を受けると。」

「あれはあれですよ。元請けがチューブライトを大量に余らせているのが悪いのと、あれです。アンドハッピーニューイヤーも作っておけばよかったんですよ。」

「ハハハ。お前はつくづく詰めが甘いな。」

 モグラとジンベエザメの喧嘩はまだまだ続きそうで、それを聞きながらダイニングテーブルの上に目を移す。次は何を食べようか。八戸の海産物とキンキンに冷えたビール瓶が所狭しと並んでいる。

 今夜はジンベエザメの会社による長期宿泊初日の宴会だ。

「次はあれだ。夜間工事の元請け立会の写真撮影で、手ブレしちまってなんだっけ、露出の設定が。とボヤいて、それ聞いたハゲた元請けを怒らせた話にするか。」

「だから元請けもヘルメットしてますって。ハゲ関係ないじゃないですか。」

「やっぱお前もハゲだと内心馬鹿にしてたんだなぁ。りぃやつ。りぃやつ。」

「だからあれは・・・」

 モグラの失敗談は、ボッコンボッコンとみんなを沸かせていた。

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