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読書「海と山のオムレツ」

イタリア出身の作家、カルミネ・アバーテさん(1954年生まれ)の自伝的短編小説集が、この「海と山のオムレツ」です。
代表作は「風の丘」
翻訳は関口英子さん。


著/カルミネ・アバーテ
訳/関口英子
「海と山のオムレツ」

イタリア・カラブリア州

この本を読むまで、イタリアはトマト、ピザ、パスタのイメージでした。
著者のカルミネ・アバーテさんは、イタリアでも南部の方。
しかも、イタリアは多言語なんですね。
アバーテさんは「アルバレシュ語」と言う、危機に瀕する言語の地域で育ったようです。
そのため、イタリア語を習ったのは小学校に上がってからだとか。
またこの地域は、地理的、歴史的な事も含めて独自の文化、習慣、背景があるようです。
そして。
この作品の肝とも言えるのが【食べ物】
前述したように、私はイタリアと言えばトマトのイメージでしたが、ここカラブリア州は唐辛子、ニンニク、オリーブオイル、赤玉ねぎ、そして「ンドウイヤ」と呼ばれるソーセージのような加工肉が特産らしいです。
更に欠かせないのがパスタ。
この作品には唐辛子、ニンニク、オリーブオイルを使ったペペロンチーノがよく出てきます。
それだけこの地域に根付いた、一般家庭で食べられる料理なのでしょう。

あらすじ

主人公、僕(カルミル)の幼少から学生、青年期を経て結婚し、子供が生まれるまでの半生が描かれています。
そこで沢山の人と料理に出会います。

僕が幼少の頃、地域の結婚式に参加します。その時の料理と料理人「アルベリアのシェフ」に僕は味覚と味蕾に強烈な印象と記憶を刻み込まれました。

大学を卒業した僕はイタリアから離れ、ドイツで教員として働く事になります。
彼女との結婚式で。
なんと幼少の頃の「アルベリアのシェフ」に料理をふるまって貰います。
あの味に再び出会えた事は何よりのお祝いとなりました。

プロローグとエピローグ

7歳の僕は祖母に連れられて海まで散歩に行きます。持って行ったのは大好きなオムレツ。
海沿いでいざオムレツを食べようとしたら、カモメに食べられてしまいました。
悔しがる僕。

後年、僕は息子と父母の4人で海に行きます。ランチはラザニアとクツッパ(この地方のパン)。狡猾なカモメは息子が食べようとしたクツッパを狙いますが、僕は息子とクツッパを守る事が出来ました。そこで語ったのが僕の幼少の頃の話。忘れていた祖母のオムレツの味を思い出しながら僕はクツッパを食べました。

歴史的背景

プロローグでの祖母とエピローグの母。
海の砂にキスをします。
習わしと2人とも言いますが、どうやら歴史的背景があるようです。15世紀までさかのぼるそうです。祖先がオスマン帝国から逃れ、自由を求めこの地にたどり着いたとの事。キスはそれからの習慣らしいです。

また、この地域は当時貧しかったのか働き盛りの男性はドイツ等に出稼ぎに行っていたようです。僕の父もまた、僕が幼少の頃から出稼ぎに行ってました。
この地域で高校に進学出来る人は(僕の時代)あまり居なかったようです。幼なじみは高校に行かずに出稼ぎに。
暇を持て余した僕は高校の友人と過ごすようになります。そこで小説「アンナ・カレーニナ」に出会い衝撃を受け、それからというもの友人から沢山の本を借り、貪るように小説を読むようになります。
実は僕の家にも幼なじみの家にも本棚はありませんでした。
ここにも貧富の差が見え隠れしています。

料理の数々

この本には沢山の料理や食材が出てきます。
書き出そうとメモしましたが、途中で止めました。何しろ1ページに何個も出てきます。全175ページに本当に沢山!
冒頭からオムレツを始め、サルデッラ(青魚と赤唐辛子を練った物)、フィーキ・ディンディア(日本ではインドイチジク)、オイル漬けのマグロ、赤玉ねぎ、パセリ、胡椒、塩、腸詰め(ソーセージ)、玉子、ミント、ミネラルウォーター、オリーブオイル、パン…
本当に物凄く出てきます。
でも、やはり、このカラブリア州ならではの、唐辛子、ニンニク、オリーブオイル、パスタ、パン、チーズ、そして「ンドウイヤ」と言うソーセージの様な腸詰め。これは僕の根底にある故郷の味。
僕がドイツに住むようになって、カラブリア州の味に出会うと懐かくなります。
一方で、僕は新しい味や人との出会いも楽しんでいます。
ドイツ人の、のちに妻となる恋人は料理上手で、なんと醤油を使った肉料理を提供します。
角煮かな?
外国の人の作品に日本の事が出てくると嬉しいですね。
とにかく沢山の料理と食材が出てきて、それがまた美味しそうに表現されてます。

まとめ

この小説を読む事で、ほんの少しですが、イタリアのカラブリア州、そしてアルバレシュ語を調べる機会となりました。
また、イタリアと言っても地方によって食べ物や特産も違うと分かりました。
考えてみたら、日本でも同じですね。

それから、この小説のタイトルを直訳すると「婚礼の宴と、そのほかの味覚」だそうです。
僕が幼少の頃に食べた結婚式の時の料理、僕の結婚式の料理、共に「アルベリアのシェフ」が登場するのでこのタイトルになったのでしょうか。
日本語翻訳版でのタイトルは、プロローグとエピローグに登場するエピソードにちなみ「海と山のオムレツ」。粋ですね。

幼い僕と大人の僕。
どこに居ても根底に故郷の味がある。思い出の味がある。
そして。
料理や味は、色々な思い出も引き出せる魔法でもあり、何より美味しい物を好きな人達と共に食べられる事は幸せであると、伝えたかったのかも知れませんね。


ここまで読んで下さりありがとうございます。

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