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読書「世界地図の下書き」

父と母と3人で暮らしていた太輔。
ある日、突然、交通事故で両親が亡くなる。
叔母夫婦に引き取られるも虐待が原因で児童養護施設に入所する事に。
それが小学3年生の時。

同室の子供は5人。
まとめ役の佐緒里。中3。
淳也。太輔と同じ小3。施設2年目。
麻利。淳也の妹。小1。
美保子。小2。
そして太輔。

この児童養護施設のある地域の催しが「蛍祭り」その祭りの目玉が「願いとばし」。
ランタンに願い事を書いて飛ばすのだが、かつてこの地域で見られた蛍になぞらえて「蛍祭り」といわれるようになった。

3年後。
太輔と淳也は小6に。
麻利は小4。
美保子は小5。
佐緒里は高3に。
その頃、願いとばしは無くなっていた。

著/朝井リョウ「世界地図の下書き」
カバーイラスト/近藤勝也
(スタジオジブリ・当時)

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佐緒里が高3なので、どんな形でも児童養護施設から退所する。
大学進学を夢見ていたが、親戚と弟の病気の関係で諦める事に。
気落ちした佐緒里のために。
願いとばしのランタン作りを試みる小学生の4人。
だけどお金が無い。
どうしたらいいか。
そんな4人の試行錯誤が描かれていました。

そして4人も実は色々あります。
太輔は、叔母が出て行った叔父(叔母の夫)の穴埋め的存在でしかないと気づき傷つく。
淳也はイジメにあい、クラスでは幽霊のように扱われ、席も1人だけすみっこに。
麻利も大好きな友達と居たいだけなのに、イジメの対象となっていた。友達にキスをしろ言われたり、クラスの荷物を1人だけ持たされたりしていた。
美保子は母親が育児放棄(ネグレクト)気味で更に手もあげているよう。だが母親が再婚して、美保子は再婚相手を受け入れる事が出来なかった。
4人ともそれぞれに問題と悩みを抱えていた。
共通していることは、高3の佐緒里のために何か出来ないか。

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詳しい内容やその後まで書いてしまうとネタバレになりますから、この辺でお終いにします。
ただ、タイトルが気になります。

「世界地図の下書き」


私は行間を読み解くとか、ノンバーバル(非言語コミュニケーション。言語にたよらない声のトーン、身振りや視線など)にも気づきにくい、疎い(うとい)とでも言うのでしょうか。
作者、朝井リョウがこのタイトルにした事が分かりません。
何故なら作中に「世界地図の下書き」が、さっぱり出てこないからです。
このnoteに読書感想を書くに当たり、読み返すも見当たりません。
強いて言うなら、作中劇でしょうか。

佐緒里が憧れるアイドル亜里沙ちゃんが出演した映画のセリフ。
劇中で小さい頃、結婚の約束をした2人が別れる事に。

【この世界のどこかにさ、きっと、雄一郎みたいな約束してくれる人、まだいるよね】

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児童養護施設の5人はそれぞれの道に進み出す事になります。
別れがもうすぐそこまで迫っています。

この世界のどこかで。
自分だけを見てくれる人はいるのだろうか。
自分だけを愛してくれる人はいるのだろうか。

子供たちはまだまだ力もお金もありません。
親が居なかったり、または居ても何らかの事情で一緒に居られなくて、児童養護施設に入所しています。
作中で太輔は「勘違いしていた。みんな、それぞれの宇宙の中にひとりっきりなんだ」と打ちひしがれます。
でも、いつか。
一緒に居てくれる人は現れるだろうか。

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タイトル「世界地図の下書き」

下書きの意味を調べてみた。
ドラフト、草案、原稿、草稿、下絵、図案…
この本のタイトルの下書きに合う言葉はどれでしょう。
更に地図。
文中によく「道」が表現されています。
道を地図に当てはめているのでしょうか。

今は子供である5人。
でも未来が待っている。
この広い世界に沢山の道があり、今はまだ下絵の段階で、「これからだよ」言うメッセージでしょうか。
私に読み解く力があればなぁ💦
この解釈が合っていたら嬉しいです。

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私も1人の子供の親でもあります。
私があまりにも早く亡くなると、我が子が太輔、淳也、麻利、佐緒里のように児童養護施設にお世話になる事もあったかも知れません。
そう思うと、この作品は、子供たちではどうする事も出来なかったとはいえ、他人事ではないと思いました。

我が子は一人っ子です。
太輔のように「宇宙の中でたった一人なんだ」と思ってしまう事も、今後、あるかも知れません。
だからこそ、作中のように、いつか一緒に居てくれる人を見つけてくれたらと願わずにはいられません。
そんな事を想起した作品でした。


ここまで読んで下さりありがとうございます。


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