マガジンのカバー画像

春の嵐

7
私の毎日をもとにして、小説っぽいものを認めました。前回書いた「川を越えていく」の続編です。
運営しているクリエイター

#文学フリマ

②春の嵐〈催花雨〉

②春の嵐〈催花雨〉

春、早く咲けと花をせきたてるように降る雨を「催花雨」と言う。

今年の春は雨がよく降る。風も吹いて季節が変わっていくことをしっかり知らせてくれているように思える。

今の部署は、今日で最後の出勤日となる。出勤早々、先輩や同僚がしんみりとしていた。
この支店には丸8年、席を置いていた。1番の長老が何も言葉を発しないながらも、私の顔をまじまじと見つめた。何か言いたげな顔。寂しそうに目を細くした。

もっとみる
春の嵐  〈はじめに〉

春の嵐 〈はじめに〉

目が痒い。きっと花粉症のせいだろう。

ブラウンのマスカラを塗った目を擦ると、マスカラが手に触れて、パンダ目にならないようにそっと手を離して、鏡で自分の顔を見た。化粧が崩れていないか、確認してみたが、それほどでもなく、ホッとした。アレルギー用の点眼薬を挿した後、軽く化粧直しをした。

春分の日。午前中は快晴だったのに、午後は荒天になるという。人生と同じだな、と思った。晴れの日もあれば、雨の日も風の

もっとみる