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【エッセイ】受取拒否

「渡してないけど・・・」
 
数年前の話、二つ前の部署にいた頃の話である。
女性社員一同から男性社員各位への義理チョコ贈呈がバレンタインデーの風物詩であった。
 
「来週、15日だからそろそろお返し準備しないといけないね」
ランチ時のラーメン屋で、同僚Aが太麺をすすりながらぼそっと呟いた。

「今年は変化球で入浴剤とかにしてみる??」とコップの水を飲み干す私。

「いやいや、貰って嬉しいのはやっぱり食べ物だって」と壺に入ったメンマを小皿に移す同僚B。

「人数が多いし、小さいけど高級感があるマカロンのセットが良いかもね」と同僚Cが器に残ったスープをすすりながら提案してきた。
 
その後、妙案には恵まれずその他の男性社員からの賛同もあり満場一致で
同僚Cの意見が採用された。
 
翌日、私たちは会社から数分のデパ地下に足を運んだ。
 
ホワイトデー当日、
男性社員数人で手分けをして女性社員一人一人のデスクへ赴き
“バレンタインデー有難うございました”とお礼を述べて渡して回った。
 
「あのぉ・・・私、渡していませんけど・・・」とA女史。
「渡してないですよ」とB女史が続き、
「渡してないけど・・・」とC女史が答える。
「渡してないので受け取れません」とD女史まで、、、。

一体全体、何が起こっているのか。

もらったチョコレートと一緒にメッセージカードが同封されており、それに名前が書いてあった気がするとAが記憶をたどる。

しかし、そのメッセージカードを持っている男性社員は1人もいなかった。恐らく包装紙と一緒に処分してしまったのだろう。 

どうやら女性社員全員からではなく、
義理チョコ贈呈に賛同した有志一同からであった。

数十個残ったマカロンは、それから数週間、男性社員の午後のおやつとなったのは言うまでもない。
 
あれから数年、現部署でも義理チョコ贈呈文化は健在であった。
そして運命の2月14日を迎える。
 
「はい、これ。」
 
片手で渡された紙袋を私は大事に両手で受け取った。

一人一人の名前が記されたメッセージカードだけをサッと取り上げ、
私はそれをロッカーにこっそりしまった。
 

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