マガジンのカバー画像

空から落ちてきた

23
ラジオのつまみをいじっていたら、心惹かれる曲が流れてきたり、手紙入りの瓶が流れてきて、直接語りかけてきたり、そんな瞬間がほしくて。 散文、ときに韻文。胸いっぱいのさびしさをあな…
運営しているクリエイター

#詩

単純な仕組みで

単純な仕組みで

簡単な仕組みで動く歯車が、ある日意志など持ってしまった。手元にある金属質の円盤。このひとつひとつが反乱を起こすのも時間の問題かもしれない。そのときに僕らは、その鋭利な外周に刻まれて、鉄錆の匂いがする蛋白質の屑となって存在することになるのだろう。

歯車の意志は? そもそも僕らの意志は? それを瞬時に言えない以上、歯車も僕らも同じで、僕らが一方的に彼らを使役することは許されないことだったのではないか

もっとみる
絡め取ることが

絡め取ることが

絡め取ることができるの? 指先を動かす魔法覚えているの? 白い背景の中、細い首筋を風に晒して、あなたはいつまで立ち続けることができるのだろうか。あの日見た光の形が、目の奥に蘇っては消えていく。

幻ならば痛みすら感じなくてもよかったのに。

記憶の輪郭を辿る森の中。雨が穿つ柔らかい地面をあなたはゆっくりと踏みしめて、選ばれた者だけが加わることが許される魔術の夜に誘われていく。

誰も、いなかったの

もっとみる
存在が吐き気のように

存在が吐き気のように

存在が吐き気のように響くから、ごらん向こうに何も見えない。かりそめの身体なのにいつまても泥に浸かればそれでいいのか。そんなことすら分からない。干からびていく空そっと眺めていたい。

もう、立ち上がれないのだよ。
最果ては最果てとして輝いている。伏せられた因数定理は微笑んで、明日の滅びの計算をする。いつまでも飽きることなく人類の不滅について考えたまま、密やかに歪み続ける物置の鏡のことは思い出せずに。

もっとみる
かなしみを通り抜けても

かなしみを通り抜けても

かなしみを通り抜けても苦しみが骨の形を浮き彫りにする。そんな毎日を刑罰のように過ごしているんだね。
いつからいつまでそうすれば気がすむのかい? 始点すら忘れてしまったあなたならどこに行くのも自由でしかない。そのことくらい覚えているだろう。

空を飛びたいと思うなら飛べばいい。単純な機構さえもてば迎えてくれる。何にも届かない地上。天空にあなたが住む世界があるかどうかは分からないけれど気休めくらいには

もっとみる
手にしては

手にしては

手にしては捨ててしまって指先に感覚だけがしがみついている。朝が来たよ。夢の中、君は何を捨てて、何を握りしめていたのだろう。

視界の片隅に鴉が飛ぶ。彼らは地上に土地を持たないから、隠れた天界の支配者なんだ。彼らが鳴いたとき、誰かの魂は空に駆け巡る。次に飛んでゆくのは君の魂かもしれない。僕には何も止められない。

君はきっと恐れないだろう。全てのものを諦めているから。何も果たそうと考えず、何かをこの

もっとみる
シリウス

シリウス

シリウスが消えてしまったあの夜に、金貨いくつが必要だろう。あの光の鋭さと諦めには、どんなに金貨を積んだとしても届かない気がしているんだ。

世界が終わるより僕が死ぬほうが先。つまり、僕が死ぬことで世界は目撃者を失う。解き放たれた自転軸は何も目指さない。

君は笑っていたね。その眼にはシリウスが浮かんでいたのかもしれないけれど、冬の夜、そこまで気づく余裕は僕にはなくて、指の間をさらさらとこぼれ落ちた

もっとみる
さよなら

さよなら

クラムボンの正体も知らないまま大人になって、今更どこに行こうとしているのか。
曖昧な笑みを僅かに貼り付けて、世界全てを胡麻化そうとしているのか。

向こうへ行こう。誰も知らない土地へ歩こう。
どこに行ったところでどうしようもない。
だからといって死ぬのはまだ遠慮蒙りたい。

息が聞こえる。
空を泳ぐ古代魚はいつの日も寡黙だ。
誰もいない海に石を投げ続けても、何も帰ってこないのは分かっていて。

もっとみる