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【ショートショート】信州女と青森男 ~出雲旅行編~

これも信州出身の女性と青森出身の男性が紡ぎ出す、小さな物語である。

二人は少なくとも年に一度は旅行に出かける事にしている。
今回は『黄泉がえりの地』出雲への旅行だ。

出雲大社へ参拝した後、お昼にしようと大社前の食堂に立ち寄る。
レストランではなく、『食堂』と銘打っている所がレトロ感を醸し出しており、中に入るとその名にふさわしい造りとなっていた。

テーブルに座ると、店員がお茶を持ってくる。店員も近所のおばあさんなのか、かなり年季が入っていてこれまたレトロ感を醸し出していた。

「いらっしゃいませ」

(ん?)

ここで二人は顔を見合わせる。
というのも、おばあさん店員のイントネーションが何と言うか・・・男の出身地の言葉に近いのだ。

おばあさん店員は立て続けに、メニューの説明に入る。一通り終わったところで男が一言。

「んだが」

この言葉におばあさん店員の目が妖しく光ったのを、女は見逃さなかった。暫くすると、注文した『出雲そば』が二つ運ばれてくる。運んできたのは、先程のおばあさん店員だ。

「出雲そばです。このままたべでもらってもかまわないですがたまごかげでもらっでもかまわないですから」
※雰囲気を表現する為、あえて平仮名表記にしています。

おばあさん店員の説明にキョトンとなる女。一方、男は、

「ぅめそんだな。たまごはうずらなんだな」

と満足げに言うと、おばあさん店員も同じイントネーションで返す。

「んだです」

その後、何か通じ合うものがあったのか、言葉を二言三言交わすおばあさん店員と男。

「まんず♨☆〒※・・へば・?」

「へ♨※、だど〒Ω☆ごΦ◎Ӧ」

・・・・・・

置き去りにされた女は思った。

(ここ、日本?)

店を出ると男は元気になっていたが、女はなんだかどっと疲れが出てきていた。

※んだが・・・そうですか、と同意を示す言葉(南部弁)。

※ぅめそ・・・おいしそう、の意(南部弁)。

注)出雲の言葉は、東北の言葉に似ている部分が多いです(体験談より)。

おわり


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