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#11 真っピンクのマニュキア

ブラインダーの間に指を入れて、外を見ると、外は真っ暗。電気を付けて、寝ぼけながらも、顔を洗って、自分の顔を覗き込む。さえない顔をしている。髪はぼさぼさ。髪を無理やり手で押さえて、なんとか寝ぐせを直そうとしてみる。なかなか頑固な髪で直らない。諦めて、台所に向かい、炊飯器を開けて、米をよそい、朝食を食べる。学校行きたくないな、そんなことをぼんやり考えている。服を着替えて、外に出た。まだ辺りは真っ暗。朝なのに暗くて、気分が更に重くなる。車に乗り込んで、学校まで送ってもらう。道路沿いの松の木は背が高く、空に向かって行儀よく起立している。湖沿いのカーブを超える頃、車が渋滞していた。なんでこんなところで渋滞しているのか不思議に思って、前を見ると大きな鳥たちが悠々と道を歩いている。引けるものなら引いてみろと言わんばかりに、ゆっくりと道路を渡っている。クラクションを鳴らしている車もいるが気にせず、鳥たちは堂々としてた。

遅刻はしないで校内の駐車場を通り過ぎて、学校に到着した。校内の駐車場には多くの車が停まっていた。運転免許証を取得できる年齢が州によって違うみたいだけど、自分で車を運転してくる生徒もいるみたいだった。ピックアップトラックやジープなどなかなか迫力のある車が多々あった。高校で放課後、自動車の運転免許の授業を受けることもできるらしい。高校生なのに誕生日に車を買ってもらう生徒もいるらしい。驚き。それほど、車がないと不便で、どこにも行けない地域だからしょうがないとも思うけど。


校舎に入って教室に向かった。一時間目は自然科学の小テストがあった。内容は簡単だった。テストの内容は私が中学校の時に習った内容だった。だけど、点数は半分程しか取れないと思う。単語を昨夜勉強したが、スペルが分からなくなったり、度忘れしたりしてしまった。小テストの後は、また昨日の授業の続きをした。先生がパワーポイントをプロジェクターでホワイトボードに映して説明する。私は先生が何を言っているかはさっぱり分からなかったけど、パワーポイントに書いてあることをノートに書き写すことできるから一生懸命に、なるべく早くノートに書き写す。先生が何かを説明している途中にベルが鳴った。生徒達は先生が何かまだ説明しているけど、勢いよくノートと筆記用具を鞄に押し込んで、立ち上がって、教室に出て行ってしまった。先生は大きな声で、まだ頑張って説明しているけど、だれも聞いていなかった。私は少しだけ、先生がかわいそうに思えた。私は映し終わらなかった部分に先生にもう一回見してほしいと頼んだ。先生は私が何を言っているのか理解してくれて、パワーポイントを戻してくれた。この先生は授業中に「オーキドーキ」って連呼する。オーキドーキってどういう意味だろって思ってインターネットで調べるとオッケーっていう意味らしい。フーン。面白いなぁーって思った。


二時間目の体育の授業なので、体育館に向かった。廊下には次の授業の教室などに向かう生徒で溢れていた。本当に多種多様な生徒で溢れていた。黒人、白人、ヒスパニック又はラテン系、アジア人、スカーフを頭に巻く生徒、車いすの生徒、目が不自由で盲導犬と歩く生徒、障害を持つ生徒など様々だった。入れ墨を入れている生徒もいた。腕や足などに大きい入れ墨や小さい入れ墨を入れていた。洋服も靴も様々。髪も十人十色。染めて赤や緑の髪の生徒もいたが、先生は特に注意をしている様子はなさそうだった。イヤホンをはめて歩く生徒、俯いている生徒、友達と大声で話している生徒。体の大きさも、小さい生徒もいれば、アスリートで体を鍛えている生徒、背が高い生徒など。英語で友達と話す生徒もいれば、スペイン語やアラビア語で話す生徒もいた。日本では指定された制服と上履きを履いて、同じような格好をして生活していたが、この高校は皆違って、それが許されている気がした。同じであることが求められていないと強く感じた。とても新鮮だった。


体育館に向かう途中になんか気さくに話しかけてくれる男の子に会った。私を見つけて、笑って「やあ」みたいなことを言ってきた気がする。私は笑顔で返事をしといた。手招きしてこっちって誘うので付いて行ってみる。いつもとは違う体育館のドアを開けて入り、反対側のドアを通って体育館の外を出た。そこには階段があって、階段を下りて、またドアを出て、外に出る。少し校舎沿いに歩いて、違うドアに入るといつもの体育館に着いた。この男の子は私の顔を見て笑っていた。私は今までとは違う行き方で体育館に着けたことに驚いていた。私は学校内の地図を片手に持って歩いているから、もしかしたら近道あるよって教えてくれたのかもしれない。

ロッカールームに入って、適当なロッカーに私のリュックを入れて着替えた。指定の体操服は無く、皆各々好きな動きやすい服に着替える。体育館に入って、まずは簡単な準備体操、筋力トレーニングをした。今日はバスケかフットボールのどちらかを選択できるみたいだった。私はバスケを選択したいなと思っていた。だけどクラスメイトのソフィアがたぶん「休もう」って言ってきたからしょうがなく私も壁際に座って見学することになってしまった。私達以外にも参加したくないと見られる生徒が壁に寄りかかって、見学をしている生徒が複数名いた。

ソフィアが鞄の中をごそごそ何か探していた。ソフィアは真っピンクのマニュキアを取り出して、「塗ってあげる」って言ってきた。私は「NO」って言って断った。そしたら、「Why?」って不思議そうな顔で尋ねてきた。私は仕方がないので手をソフィアに差し出した。何でマニキュアを塗っていけないのか聞かれて、反論する英語力が無い。私の爪はピンクにビーズみたいのが散りばめている状態になった。私に真っピンクの色はなかなか刺激が強いように思えた。結局、爪を乾かしていると、体育の授業は終わり、授業に参加出来なかった。


体育の授業が終わった後は昼食の時間だった。ソフィアにお昼を一緒に食べていいか聞いてみた。「オッケー」って言ってくれた。ソフィアと一緒にカフェテリアに行った。相変わらず、カフェテリアに行くと物凄い音で溢れていた。話し声、笑い声、叫び声、怒鳴り声など、生徒達のパワーが凄かった。私は家から持ってきたサンドイッチを食べた。ソフィアはカフェテリアの食堂の昼食を食べるらしい。ピザはチーズかマルゲリータ、ポテトフライ、小さい林檎、紙パックに入っている牛乳や清涼飲料水、クッキーなどが売られていた。昼食は家庭の事情で昼食代の支援が必要な場合は生徒が払わなくていい仕組みになっているらしい。

ソフィアとは別にベトナム出身の女の子と三人で昼食をとった。このベトナム人の生徒は見覚えのある生徒だなと思ったら、三時間目のESLの授業のクラスメイトだった。昼食を食べ終わると、カフェテリアの中にあるお菓子の自動販売機を指さして、見に行こうと言われた。二人の後を着いて行って何が売られているのか見てみた。袋に入った小さめのポテトチップスが五十セントで売られていた。他にもクッキーやガム、飴など様々なお菓子が陳列されていた。

ソフィアがその中のポテトチップスを見て、「買おう」と言ってきた。私は昼食直後でお腹いっぱいだったのでとりあえず「No」と言ってみた。しかしまたもや「Why? It is delicious! 」とこれは美味いのに何で買わないのと聞き返されてしまい私は渋々財布を取り出し、二十五セントの硬貨を二枚自動販売機に投入し、ポテトチップスのボタンを押下した。自動販売機は鈍い音を立てながら中にあるポテトチップスの袋を取り出し口に落とした。私はそれを拾って、さっきまで座っていた長テーブルの席に座り三人で食べた。案の定、私はお腹いっぱいで食べきれなかった。カフェテリアで急に生徒がバク転をし始め、その周りには生徒が集まり盛り上がっていたので私達三人も観戦した。軽々、宙に舞い、回っていた。私は目が回らないのかと心配になっていたが、周りの生徒は大きな歓声を上げて喜んでいた。しかし、先生が来て、中断させられてしまった。野次馬していた生徒はつまらなさそうに散っていった。


昼食終了のベルが鳴ったので、私は三時間目の教室に向かった。三時間目の授業にも小テストがあった。四時間目は世界史の授業で、昨日のテストの点数に基づいてクラスを二つに分けて、授業を進めることになった。私は点数が悪い方のグループに入った。単語の復習などを行った。今回担当してくれた先生はリアクションが大袈裟で、テンションがやけに高いと思った。顔の表情も豊かで、英語が上手く理解できない生徒相手だから、いつも以上に大袈裟に接してくれているのかもしれないと思った。普通なら会話で意思疎通できるけど、上手く会話を通して意思疎通出来ない分、目で見て分かる表情や身振り、声の上げ下げなどの初歩的だが重要なコミュニケーションテクニックを上手く使っているのだと思う。また、授業中にクラスメイトはお菓子やジュースなどを食べたり飲んだりし始めて私は驚いた。しかし、先生の方を私は見たが、特に注意をする様子はなかったので、私は驚いた。

二時一八分。チャイムが鳴る。なんでこんな中途半端な時間なのか私は不思議だった。生徒は一斉に教室を飛び出し、帰宅する生徒で廊下は溢れていた。今日はスクールバスで帰宅する。スクールバス乗り場には何十台ものスクールバスが停車していた。スクールバスには番号が記載されており、その番号を頼りにどのスクールバスに乗るか識別しなくてはならなかった。私は番号を記載したメモを鞄から取り出し、その番号が記載されているバスを探した。スクールバスの外見はどれも同じで黒い文字で記載されている数字だけが違うので、私が乗車しなくてはならないバスを探すのは大変だった。まだスクールバスを探しているのは私含め、数人になってしまった。私は焦ったが、なんとかバスを見つけることができた。

乗車すると多くの生徒が既に乗車していた。スクールバスの運転手が私の顔をジロジロと見てきたが、私は座る席を探した。後方は何か大きな声を出して、生徒がなにか盛り上がっている様子だった。恐らく後方は中心的で騒がしい生徒が座っているのだなと思った。私は前方に席が空いていたので、運転手の後ろの席に座った。窓の外を眺めていると、何か男女が親密感を醸し出していた。なんだと私は興味本位で二人を眺めていたら、いきなりキスをし初め私は驚いた。いや、なんで人前でキスしちゃってるんですか、と私は心の中で突っ込んだが、二人は全く気にしてない様だった。私は画面越しではなく、生身の人間がキスしているのを見るのは初めてだったので、とても驚いて回りを見渡したが、特に他の生徒は全くこの二人のキスには無関心の様でまた私は驚いてしまった。他人の前でキスをするといことが恥ずかしくないようだった。私はまた文化の違いに驚きながら、私は今アメリカにいるのだなと、再認識させられた。のちにPDAという言葉を知った。PDAはPublic displays of affection で公共の場所で愛情表現をするという意味らしく、たまに「NO PDA!」と言って怒っている生徒を見かけた。NO PDAという人もいるから、全員が公共の場での愛情表現に寛容的という訳ではなさそうだった。


夕方に父の会社の同僚の家を訪問し、夕食を御馳走してもらうことになっていた。家を訪問すると、家は大きく、煙突がついてあり、暖炉もありとても綺麗な家だった。家の大きさもとても広く、一般的に想像される様なアメリカの家という感じがした。また、とても大きいサイズの犬が二匹いた。とてもお利口さんでちゃんと躾されていた。家の中を案内してくれた。玄関を入ってすぐに広いキッチンがあり、その奥にダイニング、屋外にベランダがある。暖炉の上には家族写真が多数飾られていた。吹き抜けになっていて、奥にはテレビを見たりくつろいだりする部屋もあった。階段を上がると寝室やバスルームなどがあった。

今日はバーベキューをするようだった。バーベキューのグリルは屋外のベランダにあり、外で焼き、中でテーブルを囲んで食べた。バーベキューの準備に三時間も掛かったと言っていた。肉に味付けるソースを作って、そのソースを肉に浸すなどの作業があったらしい。外は寒いので、室内で食事すると聞いて安心した。私はこんなに寒いのに外で食べたら風邪を引いてしまうのではないかと心配していた。肉を焼くのは男の仕事なんだと父の会社の同僚の夫は言っていた。それを聞いて、父は外に行って肉を焼くのを手伝いし始めた。夜食は美味しくいただいた。ご夫婦はとても気さくな方々で、私の初歩レベルの英語でもちゃんと聞いてくれて、ゆっくり英語を話してくれた。家が広いからか少し室内でも肌寒く感じた。ご馳走をいただいた後、車に乗り、アパートに戻ると狭いが、暖かく感じた。

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