【読書感想文】 人間の真理を突いた台詞が胸に刺さる 『村上海賊の娘』
村上海賊(村上水軍)とは、14世紀中頃から瀬戸内海で活躍した一族です。
島々が瀬戸内海を東西に隔てるように密集している芸予諸島の能島と来島、そして、因島に本拠をおいた三家からなることから、三島村上氏と呼ばれました。
戦国時代になると瀬戸内海の広い海域を支配し、日本の軍事や政治、海運の動向に強い影響を与えます。
そして、のちに中国地方の覇者と呼ばれた毛利氏と手を組み、強力な勢力となりました。
現在、村上海賊が本拠地としていた芸予諸島は、日本遺産に認定され、その歴史と美しい景観が守られています。
そんな芸予諸島を広島からゆっくりと巡ってみたいと思っているのですが、いつになるかしら…。
"醜女"とされた20歳の姫さま
本日は『村上海賊の娘』(和田竜 著)をご紹介します。
第11回本屋大賞、第35回吉村英治文学新人賞受賞作
1576年、大坂本願寺と織田信長との長きに渡る戦いに端を発した、第一次木津川口の戦いの史実に基づく歴史長編小説。
主人公は、毛利家と共に織田方の泉州海賊と戦った村上海賊の当主で、"海賊王"と呼ばれた能島の村上武吉の娘。
物凄い身体能力と物凄い気の強さを持ち、日本人離れした顔立ちのせいで、当時の感覚では"醜女"とされてしまう20歳の姫さまです。
真理を突いた台詞が胸に刺さりまくる
そんな主人公が大活躍する第一次木津川口の戦い至るまでの過程がとても丁寧に描かれていて、合戦の場面ではあたかも目の前で起こっているかのようか迫力と描写力で引き込まれ、圧倒されました。
そして、敵味方問わず登場人物たちが皆個性豊かで、緊迫した戦いの最中でも突如ユーモラスになったり、策略や思惑が複雑に交差する様がとても巧みで面白かったです。
特に、泉州海賊の当主、真鍋七五三兵衛が主人公に抱く愛憎の変化が凄まじく、あまりにも壮絶な展開に圧倒され、気づけばページをめくる手が止まらなくなるほど無我夢中で読んでいました。
そして、
「人一人の性根をあまり見くびらぬことじゃ」
という台詞が、それまで忘れていた人間の真理を突いていて胸に刺さりまくり、読了直後は魂が抜けそうなほど脱力したのです。
俗に言う"ロス"というのはこういうことなのか、とこの時つくづく思い知らされました。
数百年前、この日本を全身全霊で生き抜いていった人たちがいたことを想うと泣けてきます。
P.S.
恥ずかしながら、2013年に単行本が刊行されてベストセラーになった時に初めて村上海賊の存在を知りました。
その昔、瀬戸内海で勇猛果敢に生きていた人たちが居た事実は、私にとってはかなりの衝撃で、以後思い入れが深い作品のひとつになっています。
個人的には主人公に振り回されまくる弟の景親と謹厳実直で好戦的な兄の元吉、そして、泉州侍の沼間義清にとても心惹かれました。
なので、彼らの運命を知った時の私の気持ちたるや…。
泣いちゃう。
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