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デザインでプロが心掛けていること

デザインにおいて、プロが心掛けていることって何でしょうか。
(※特に、建築・インテリア・プロダクト)


・そもそも、デザインって何でしょうか。
デザインって、プロじゃないとできないんでしょうか
素人とプロの違いって、なんでしょうか。
・デザイナーを目指す学生が、身に着けるべき能力はなんでしょうか。

そういう疑問に対する、ひとつの答えを考えてみました。
デザインとは?と言うと、いろいろな切り口があるので、議論が広がってしまいますが、私が、実務上もいつも気にしていることを、ひとつの回答として用意したものが、こちら。

「課題や目標(コンセプト)に対する解決策を、カタチで表現」



「カタチで」と書いたのは、建築デザイン・内装デザイン・プロダクトデザインを念頭に置いての回答です。これができるとプロ、と私は考えています。一言で言ってしまうと、そんなの当たりまえじゃないか、と思われてしまうかと思いますが、逆に、できていないケースを考えると、少し、言葉の意図が伝わるのではないかと思います。

以下のケース。
表面的な処理、表層的な処理をして、デザインできていると思って、できていないケースです。

① 課題や目標がない
② 課題や目標が、そもそも曖昧・微妙・共感できない
③ 課題や目標があっても、カタチとリンクしていない
④ (②+③)詰込み型で目標も曖昧、カタチも曖昧

①②は、カタチとリンクさせる前の検討であり、ここがしっかりしていない状態でカタチにしても、中身のないグラスと同じぐらい、カラッぽです。
日常生活でも、学生生活でも、①②は訓練することなので、デザインに限らず、仕事運びがうまい人は、①②ができていることが多いですよね。

③④は、まだ訓練が足りていない学生や、プロ以外の方に多いケース。



いくつか例をあげて、考えてみたいと思います。

① 気分でただ色を選ぶのは、趣味の世界

下イラストは、よく見る住宅地の家のイラストです。
例えば、ハウスメーカーであらかじめ決められたユニットを組み合わせて、概ねのプランが決まり、「では、あと外壁の色味を、お施主さん、どれがいいでしょうか? → じゃあ、屋根と玄関まわりをオレンジで明るい感じにしてください」

この決め方は、単純に、その人の趣味です。
課題や目標がないため、そのアウトプットもデザインではないですし、趣味以上のものでもなく、家の建主が好きな色にすればいいのであって、良いとか、悪いとか、そういう議論をする話ではない、
と思っています。

ただ、このケースでは、ハウスメーカーが「ユニットを組み合わせて、ローコストで簡単に家をつくれるようにした」というのはデザインで、「ローコストで簡単に短工期でつくれる家をつくる」という課題・目標に対しての、アウトプットであり、それはデザインだと思っています。

「屋根の色をオレンジにした」というのは、趣味と言いましたが、仮にこれが、周辺の家々も同じようにオレンジ色の屋根を採用していて、「周辺の街並みと調和するべく、街としてのアイデンティティを高めたい」という目標があれば、「オレンジを選ぶ」ことがデザインになる、と思います。



② 目標が、そもそも曖昧・微妙・共感できない

たとえば、ABCのようなケース。

「私は口が小さいので、普通サイズよりも半分サイズのスプーンをデザインしました」 ➡ うーん、半分のサイズのスプーンで便利、っていう人は、そんなに多くいますかね?

口が小さい「大人用のスプーン」はそんなに需要ない

「靴の店舗をつくるのですが、たくさんの人がくるようなデザインにしました」 ➡ うーん、どんな店舗でも当たり前ですよね?

「靴の店舗をつくるのですが、カフェの雰囲気が好きなので、カフェのような店舗デザインを考えました」 ➡ うーん、なんでカフェなの?


は、どれくらい多くの人に共感してもらえるかという観点で▲
コンセプトを絞って、「何か特定のものを食べるときに使う」「赤ちゃん用に食べやすいスプーン」等のコンセプトの深堀りができれば、いいものができるかもしれません。

は、当たり前すぎるコンセプトのため、目標と言えないので▲

は、斬新な発想とも言えるため、もしかするとアウトプットとしては、素晴らしいものができる予感もありますが、コンセプトの理由・根拠が不明のため、このままでは結果的に何の効果を期待するのかわからずに、デザインが深度化していかないでしょう



③ 課題や目標以外のところで、カタチづくられていたら▲

「コンセプトとは違うものがカタチになっている」ケースは、学び始めの建築学生にとても多い症状です。頭では、コンセプトを考えているのに、カタチに置き換える能力がまだ身についていないために、コンセプトをカタチで表現できず、説明していることと表現していることが一致しないのです。

コンセプトはAと説明しているのに、カタチはどう見てもCのケース


また、建築は、法規等のルール・構造上の制約・諸室はこれだけ欲しい等、様々な多数の与条件をクリアした上で、作る必要がありますが、与条件は、課題や目標(コンセプト)ではありません。

与条件は、あたりまえのように組み込まれている要素であって、要素を積み上げた結果、最終的なカタチがコンセプトに合致していてこそ、デザインされたもの、ということができます。

学び始めの学生の課題のアウトプットで残念な作品は、
「コンセプトの説明を最初していたと思ったら、いつのまにか、与条件をこう当てはめて、こうなりました、という説明に変わっているもの」

評価する先生側の立場としては、学生の課題において、「法律順守や、構造遵守などを求めていない」のですが、「中途半端に法律や構造に気を使ってしまって、本来、コンセプトとして表現したかったことが、カタチにならず、その他の些末な条件の方が、カタチとして表れてしまっているもの」等も多くみられます。

私自身、学生の時は、何が正解かわかりませんでした。
今となってわかるのは、学生時代=「コンセプト(意図)をカタチにする訓練をする時間」ですので、法的な実現性、構造的な実現性なんかよりも、まずは、コンセプトをどうカタチとして表現するか、が重要だと思います。



④ (②+③)詰込み型で目標も曖昧、カタチも曖昧

全部やりたくなって、コンセプトがブレるて、カタチもブレる

もうひとつは、詰込み型タイプの失敗。
「あれもやりたい、これもやりたい」と、コンセプトが羅列型になって、②同様、コンセプトが曖昧になって、③カタチにも表現されなくなってしまったもの。

では、この時、「全部本当に重要なことなのに、Aを選んだら、BとCを捨てないといけないのか」というと、単純にそういう話ではありませんが、一番大事なことは何なのか整理して、一番大事なものに対しての解決策をつくり、その解決策が、結果としてBもCも解決しているように見えることができれば、最高のデザインなっていることでしょう。

住宅の設計で多く起きる現象ですが、一般の方が、自分の家を建てたいという時、Aもやりたい、Bもやりたい、Cもやりたいと最初は思っていると思います。問題なく全部選べることもあるでしょうが、時には全部選ぶことが全体としてマイナスになることもあります。

建て主の趣味として家をつくりあげたいのであれば、ABC同列でごちゃっとしても問題ありません。その人の趣味であって、その人の家なので、好きに決めていいのです。
でも、他の人にも共感してもらうクオリティに上げたいと思ったら、「優先順位を整理して、デザインする」ことが重要になります。

「趣味の家(モノ)をつくって、売るときには、その人と同じ趣味の人にしかウケない、買い手が見つからない、売るんだったら、当たり障りない、白クロスの何もしていない家の方が売りやすかったのに」という現象がまさにこれに当たります。

ただ、人にも共感されるコンセプトをつくって、それに沿ってデザインされた家(モノ)であれば、特徴的・独創的なものであったとしても、共感してもらえる人が多くなり、売れる確率もぐっと上がると思います。


このように考えることもできます。
デザインの力は、アートや趣味とは一線を画し、個人の趣味の域にとどまらず、他者からの共感を得るために必要なもので、社会で必要とされる能力である。



以上をまとめてみると、デザインは「課題や目標(コンセプト)に対する解決策を、カタチで表現」すること。その際、「課題や目標(コンセプト)は、明確で、共感できるものであること」その力は、社会で必要とされ、人と人の心をつなぐ力を持つものであること。

このデザインができるのがプロであり、そうでない人との差なのではないか、と思っています。私自身もデザインができる人になっているかどうか、いつも自問自答しつつ、少しでも読者の気づきにつながれば幸いです。



最後にお伝えしたい点は、「課題や目標(コンセプト)」をつくるのは、設計者だけではありません。住宅であれば、まずは建て主の想いが一番重要ですし、そこからコンセプトを考えていくことになります。マンションやテナントビルにおいても、店舗内装においても、まずは、ディベロッパーや店舗オーナーのコンセプトが重要になってきます。

設計事務所は、そういう一番最初に出てくる想いを聞いて、少し未整理の場合に、こうしてはどうか、こう組み替えてはどうか等、コンセプトの骨格づくりのお手伝いをすることで、デザインの質を高めることも業務のひとつと考えています。

コンセプトや、やりたいことの優先順位を整理

繰り返しになりますが、「個人住宅では、趣味を表現しても全く構わない」のですが、もし、他者に共感を求めるモノづくりを目指そうという場合なら、「デザイン」の力を発揮できる、プロと一緒に企画から練っていくことことが、より良いものづくりにつながると信じています!


less is more から straight is more に

less is more、という言葉がありますが、現代社会のデザインに求められていることは、less(=ただシンプルに要素を少なくする)ではなく、
・わかりやすいこと=stragith、
・課題目標に対してまっすぐ、応えること=straight
が今の時代のデザインではないか、と思っています。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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