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モフリーの始め方③~メニュー開発編Vol.3~

さてメニュー開発編も今回で最後。メニュー開発に於ける三原則の最後です。

本当は違うテーマで書きたかったことも今回書いてしまってるけど、どうしても触れずには通れなかったので軽めに触れております。だから割と長い文章となってしまった。

そして相変わらずこんなことまで暴露してしまっていいのだろうか・・・と、ちょっと悩んでおります。


おつかれさま

③雰囲気や価格のバランスを検証する


語弊があるのは承知で何度でも言うけど、cafe Mo.freeの場合はとにかく優先順位は味よりも原価率よりもオペレーションなのだ。

先の「モフリーの始め方②~業界潜入編~」にも書いたように、自分のオペレーションの限界により、どうしても席数は15を越えられない。

しかしこの席数では正直言って少ない。この席数で勝負するには、いわゆる平均的な喫茶店の単価では到底太刀打ちできない。

そうなるとある程度単価を高めに設定しなければならないけど、という事は提供する料理のクオリティも必然的に高めなければならなくて・・・という流れになってしまうのだ。

だからオペレーションが一番とは申せ、やはり出来合いのものばかりではなくそれなりのものを提供できなくてはならない。

しかし出来合いのものと手作りのものが混在するメニューというのは、味や見た目に差があり、全体的に見るとものすごくバランスが悪いのだ(もちろんものにもよるけど)

だからたとえば、美味しい飲み物がたくさん揃っていてスイーツも手作りなのにカレーが安いレトルトだった、とか、他はすごく美味しいのにタマゴペーストが業務用で美味しくない、というのは、クオリティが一定ではないため全体のバランスが悪く、ちぐはぐな印象になってしまう。

あるいは全体的に値段が高いのに、用意している全てのケーキがどこにでもある冷凍モノで価格と見合ってなくて残念・・・など、空間やその他のものと比較しても、やはりここでもバランス感を欠いてしまう。

こういったものを考慮してメニュー構成を決めねばならないのだ。


ところで『パレートの法則』というのをご存じだろうか。


イタリアのヴィルフレド・パレートという経済学者が発見した法則で、端的に言うと「2割の要素が全体の8割を生み出す」という状態を示す経験則だ。

具体的には、

・売上の8割を生み出すのは、2割の社員
・サイトのアクセス数の8割は、2割のページ
・業務時間の2割で、8割の結果が生み出される
・社会全体の所得の8割は、2割の高額所得者で占められる

などが挙げられる。


飲食店で当て嵌めるとこのパレートの法則、『2割の常連客が8割の売上を占める』と言われている。

そんな訳でこの常連客をいかに作り、さらには母数をどれだけ上げられるか、というのが個人店の至上命題の一つなのだけど、当然ながらそう簡単でもなく誰もが苦心するところだと思う。


そこでその常連客、しかも「自分の望む常連客の獲得」の仕方を真剣に突き詰めなくてはならない。


以前「モフリーの始め方③~メニュー開発編Vol.1~」でも書いたように、味や空間が良ければ多少価格が高くても構わないという層は、自分や周囲の人を参考にした私見ではあるけれど、だいたい30代辺り以上となってくる。この層にアプローチするには「コンセプトを取っ払ってもそこそこ勝負できる飲食店」でなければ生き残れないと考えていた。


そして数ある飲食店という業態の中でもカフェであるからには、やはり珈琲と紅茶が最重要であり、雰囲気作りも含めて「味・品質・器」に力を入れるべきだという結論に達した。


モフリーの始め方③~メニュー開発編Vol.2~」にて取り上げた市場調査では、味や盛り付け、価格や提供時間、周囲のテーブルを見て大体の客単価を推定する等を調べたのもあるけど、珈琲や紅茶の美味しさを謳っているお店では実際にどのように淹れているかをまじまじと観察したり、店員さんが業務に余裕がありそうであれば、淹れ方のコツを聞いてみたりもした。

調べてみて不思議だった事の一つが、珈琲にこだわっている店は紅茶の種類が少なく知識もおざなりな印象を受け、紅茶に特化した店はそもそも珈琲を置いていないところがほとんど、という事実だった。

こういう調査では、たとえばこのような「珈琲も紅茶もどちらかが苦手な人の多い中、どちらもある程度満足できる品揃えのあるカフェは現状少ないのではないか?」という気付きを得られたのも大きかった。


そんなあれやこれやも調べつつ、評判のいい焙煎所や紅茶の葉を売っている所があればネットで取り寄せたり、行ける範囲であれば買いに行き、淹れ方をやはり店員さんに教えてもらったりした。

今はなんとも便利な時代で、YouTubeでたくさんの淹れ方動画が惜しげもなく公開されているのでそれも参考に、練習として珈琲か紅茶を毎日必ず最低でも2杯は淹れて飲むことを自分に課した。


また、お店を開くにあたり食材や資材はどうやって仕入れるのか調べてみると、業者向けのとんでもなくでかい商談会が幕張メッセやビッグサイトで年に1回行われているとの情報を得て、実際に見学したり話を聞くなどの情報収集に努めた。

ちなみにcafe Mo.freeの紅茶はこの商談会で試飲して取引を決めたのだけど、この時たまたま担当してくれた営業マンが以前勤めていたという高級ジェラートメーカーも紹介してくれた。

せっかく紹介して頂いたので、後日そのジェラート屋さんにもアポを取って行ってみた。

紅茶メーカーの営業さんの元同期が応対してくれる、という情報しか持たずに赴いたら、その方は現在社長兼日本ジェラート協会の理事とだいぶ出世をされており、その人自らが商談してくれて・・・という偶然も、道が拓けている感があって我ながら面白かった。


また、現在仕入れている珈琲豆もこの商談会が縁で知った所だ。

その時はただ存在を知っただけだったけど、取り寄せた珈琲が非常に美味しくて「お話させてください!」と電話したら取った方が営業本部長で、やはり直接工場見学と商談の機会を頂いた。これも人間やってみるもんだとつくづく感じる出来事だった。


どちらも品質は圧倒的に高く、ジェラート屋さんに至っては商談時に、

「うち、他社さんよりちょっと高いと思われるかも知れません・・・」

と価格表を出す前に言ってきたくらい、お値段も他の業者と比べるとお高めだ。しかしながら調理の腕にそこまで自信がない身としては、素材でそのほとんどが決まるメニューに関しては、ある程度原価率を高めにしてもかまわないと思って(若干躊躇しながらも)これらを決めた。


それから味覚の他にも重要な要素、それは視覚だ。

味はもちろん大事だけど、僕は人間の感覚というものをあまり信用していなくて、中でも「美味しい」と思うものは他の感覚やその時々の体調に左右されるのではないかと思っている。

こんなこと言うと全国のマスターに怒られるかもしれないけど、たとえば四畳半の畳でバラエティを眺めながら、世界一のバリスタが茶碗に淹れてくれた至高の珈琲の味よりも、統一された心地よい音楽が流れる空間に身を置き、目の前で蘊蓄を聴きながらマイセンに注がれて飲むそこそこの珈琲の方が美味しいのではないか、という身も蓋もない考え方だ。

世界一のバリスタが茶碗に淹れた一杯も美味しいとは思うけど。


ちなみに珈琲豆に関して言うと、開業にあたりいろんな珈琲を様々な淹れ方でたくさん飲んだけど、どのドリッパーで淹れたか、豆の種類、それぞれに適した焙煎具合、焙煎の経過日数の差異、挽き方、注ぎ方の緩急、湯量、温度・・・こんなもの違いなんてあまり分からないというのが正直なところだ。それとも僕だけなのだろうか?世の喫茶店のマスターは分かるのか?

少なくとも僕はと言えば、珈琲も紅茶も淹れ方を習得したのは開業前の1年くらいのものでしかなかった。それでも美味しい珈琲を淹れられると自負できるくらいには淹れられるし、日本紅茶協会から「おいしい紅茶の店」にも認定されるくらいにはなれた。

これはセンスとかそういう問題ではなく、やはり素材に大きく左右される飲み物だからだ。

鮮度が良いことが美味しい珈琲の絶対的な条件で、あとは「これはやっちゃダメ」といういくつかあるポイントさえやらなければ、基本的には誰でも美味しい珈琲は淹れられる。また、個人経営の珈琲豆屋さんも含めて20社以上試飲した経験から言わせてもらうと、一杯あたりの仕入れ価格が30円以上だったら大体外れなく美味しいラインで、あとは好みの差くらいなものだと思う(これは一消費者の意見です)。


結局のところ、こんなことを言うのは実に憚られるけど、ある程度のクオリティを保証すれば、あとは内装や掛ける音楽などの店の雰囲気、雑学などでなんとでもなってしまう。いやー、実に憚られるな。

cafe Mo.freeは珈琲や紅茶を淹れるカップもこだわっていて、ウエッジウッドといったブランド物もあるけれど、たとえ無名ブランドでも「これで出されたら嬉しいだろうな」と提供シーンをイメージしながら選んで購入したものだ。想像力って本当に大事。

そういった視覚・聴覚・嗅覚・味覚諸々が一挙に押し寄せてきたら、少なくとも僕は完全に騙されてしまう。

cafe Mo.freeの場合、ありがたいことに「こんなに美味しいのにこんな安いの?」とか「もっと値段を上げてもいいのでは?」と言われる。お世辞かも知れないけど。

これは、ものによっては「そこそこ~けっこうな品質」の素材を使っているというのはあるけど、こういった味覚以外の情報で魔法(というかペテン?)を掛けているというのも大いにある。


原価率に関して言えばべらぼうに高いメニューも確かにあるけれど、全体的にみれば業界の中では低い方だと思う。毎月ざっくりとした数字ではあるけれど、原価率は概ね25%くらいで推移している。言っちゃったなおい。

だからもし安いと本当に思わせられているのであれば、僕の努力が報われているのだろう(ちなみにこれは僕の人件費が入っていないというのも大きいのだけど!)



ここで補足として、面倒かもしれないけれど、重要な単語の説明をしておこう。

原価率=原価が値段に占める割合・・・原価÷価格

粗利率=利益が値段に占める割合・・・(価格-原価)÷価格

粗利とは大雑把にいうと利益のことだ。


例:100円で売られているじゃが芋、原価が70円でした。

原価率=¥70÷¥100=0.7、つまり70%

粗利率=(¥100-¥70)÷¥100=0.3、つまり30%



飲食業の場合、原価率の目安は大体30%と言われている。

この飲食店に於ける原価率の話はなかなか有名な話ではあるものの、別にこの数字を参考にしなくたって構わない。家賃や人件費など、お店によって状況はいくらでも変わってきてしまう。だから原価率が50%だろうが10%だろうが一向にかまわないのだ。

それなのに、このような「こうあるべき数字設定」に呪われているお店は多いような気がする。

ちなみに僕は「目指せ20%」を目標に商品開発をしている。言っちゃったなおい。

現実的には5%上乗せされた数字になって表れるのが僕の経験則だったりする。もし30%を目指すなら、目標数値は25%に設定しないと達成できない。


そしてこの比較的高い粗利率を出せている最大のコツは、「粗利ミックス」という考え方だ。


「粗利ミックス」とはなにか。

どの業界もそうだけど、商品の原価率は全て同じではない。要は基本的に儲かる商品とあまり儲からない商品がある。そこで、

・儲かる商品の売上構成比を高めることによって全体の粗利益額を確保

・売上構成比が低い儲からない商品を前面に出すことにより、「安いイメージ」を演出

それをもってお客を誘引し、全体としては「目標とした粗利益率」を確保する手法―

それが「粗利ミックス」だ。


これは僕がその昔5年ほど勤めた某大手スーパーの八百屋にいた頃に知ったもので、業界的には古典的手法と言っても過言ではないくらい有名なものだ。僕はこの頃の経験によって、現在の価格設定や注文の誘導を行っている。

スーパーの場合、大抵一番お客が入る最初の売り場に八百屋が設定される。なぜか?それは野菜類は買われる頻度が高いからだ。肉か魚は選択肢があっても、野菜を全く使わない献立というのはあまりない。

その他には店舗を訪れたお客の購買意欲をかき立てる意味がある。同じような色になりがちな肉や魚とは違い、四季を感じられて色とりどりの青果類が入り口にあるとお店がそれだけで華やかになる。

つまりスーパーに於ける八百屋さんは、そのお店の「顔」的な役割があるのだけど、それは「最初の印象を植え付ける」という重大な役割も持っているのだ。

目に飛び込んで来る青果物で四季を感じさせて、次に価格。これらを見た人が「高い」「安い」をまず判断する。客導線といって、お客が通る道もある程度決められるので「何を買わせたいか」というのがレイアウト作りの基本だ。

毎日値段が変動する「相場」があり、季節の野菜や果物は「色」がある。そんな中で購買意欲を高める心理戦が人為的になされているのだ。少なくとも当時の僕はそのような指向の元で売り場作りをしていた。


さて、話はcafe Mo.freeに戻る。

儲かる商品、いわゆる「利益貢献度」が高いのは、カフェにとっては珈琲や紅茶といった水物で、いくら品質の良いものを仕入れていたとしてもやはり利益率は高い。それと「これはオトクだ!」と思わせる商品を組み合わせて注文してもらおう、ということが言いたかったのだ。

いわゆるこれはイメージ戦略で、上手くいくと「安いイメージ」を作り出せるのだけど、失敗すると価格が高いイメージを植え付けてしまうので、見せ方には細心の注意が必要だ。

いくら原価率が他店より高くいいものをお値打ちで提供したとしても、お客に高いと思わせてしまうのであればそれはもう高いのだ。価格の整合性が取れていない、ということになる。

正直に言ってしまうと、cafe Mo.freeの場合は食べ物だけの注文だと全部ではないけれど利益率は低くなってしまう。言っちゃったなおい。

ケーキが2つで¥500という我ながら破格の価格設定だったり、プリンは手作りで可愛い容器に入っている。こんなの出されたら美味しい珈琲とか紅茶を飲みたくならないですか?いや飲んで欲しいな?な?


利益率の高い珈琲でカバー、これを注文して頂くことによってさらに客単価を上げる。さらに2杯目を値引くことで、利益は若干下がるものの客単価を更に引き上げることを目指す。

カフェは飲食店の中でも圧倒的に回転率が悪いと言われており、だからこそ客単価を上げる仕掛けが必要になってくるのだけど、いっそのこと僕は回転率を捨ててどれだけ注文してくれるかという仕掛けを考えた。

売上=席数×客単価×回転率

席数は限られているしカフェは回転率が非常に悪い。ならば客単価を考えるしかないのだ。

特に今はソーシャル・ディスタンスとやらが叫ばれる時代で席数は減らさなければならないし、多くのお客は望めないので必然的に回転率も鈍る。イートイン形態の飲食店を続けるならば、尚のこと客単価が重要になってくる。


客単価の設定に関しては、どれだけ売らなければならないか、という数字を出して、そこから逆算していった。これはなにも僕だけじゃなく、世の中の経営者はきっとやっていることだろうと思う。

家賃と水光熱費、おしぼりや浄水器、JASRACへの上納金、ローン返済・・・そういったものを合計して、一ヶ月に最低これだけ売らなければ赤字ライン、「損益分岐点」を知っておかなければならない。


たとえば40万円以上から黒字になるのであれば、住んでいる家賃や社会保険、貯蓄を考えて20万円欲しいとする。そうなると60万円の売上を目指すとなってくる。


もしcafe Mo.freeに当て嵌めた場合、週一回のお休みなので26日稼働。

60万÷26日=¥23,076/日

一日あたり23,076円を目指すと出た。

ケーキ500円と珈琲で500円を頼むとしたら、客単価は1,000円だ。

そうなると、¥23,076÷¥1,000=23

一日あたり、だいたい23人のお客さんが来ればいい。

もしくは、

席数は新型コロナウイルスの影響により、現在14席。

回転数は23÷14=1.6

1.6回転すれば目標達成だ。

もしくはこういう考え方もある。

営業時間は12時から21時の9時間。なので、23人÷9時間=2.5。

一時間あたり2.5人のお客さんがお店にいればいい。

他にもこんな考え方がある。

目標60万÷客単価¥1,000=600人

月に600人のお客さんが来れば達成されるので、平日と土日祝で売り上げを割り振るのだ。


このようにシミュレーションして、一日こんなにお客さん来ないな、と思えば客単価を上げなければならない。


たとえば客単価は1,300円にして目指せ60万円。

営業日数は変わらないので、目指す日販¥23,076は変わらず。

¥23,076÷¥1,300=17.7人

17.7人÷14席=1.2回転。

もしくは、

17.7人÷9時間=1.9人

1時間に2人いれば経営は成り立つ計算になるし、

目標の60万÷客単価¥1,300=461人

月に461人呼ぶことを考える、と計算してもいい。


こういった目標数値を知っておくのは非常に大事で、経営にあたり重要な指標になる。

たとえば想定していた一日の目標来店数に届かないというのが分かれば、客数を増やす努力をするのか、あるいは客単価を上げるのか、営業日数を増やすか、掛かっている経費を見直して損益分岐点を下げるか、自分の給料を下げるか・・・など戦略を立てられる。

また、金融機関で借金をして事業を始めるのであれば、こういった計画を提出しなければ当然ながらお金を貸してくれない。

僕の場合は飲食業界での経験と用意できるキャッシュが比較的少なかったこともあり、かなり練り込んだ計画を立てて金融機関に提出した。

経験が豊富で用意できるキャッシュが多ければ融資はすんなり通るのだろうけど、僕はちょっと苦労した。できれば二度とやりたくないくらいだ。


飲食店をやることはただでさえリスキーで、今後さらに大変になってくるのはほとんどの人が容易に想像できることだと思う。実際、今回のコロナ騒動では給付金をもらって早々と足を洗うのが賢い経営者なんだろうなぁ・・・と思いつつ、もうちょっと頑張ろうかなと思っている日々だ。

noteでの発信は、役に立つのか面白いのかも分からないけど、「とにかく売れるものは僕の経験でも売ってしまおう」という邪な発想で投稿している。

なにかの間違いでこの一連の投稿が本になって印税が入って借金が消えないかな、とか思っている今日この頃です。



最後まで読んで頂きありがとうございました。