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口数

「言えないことが増えたね、きっと嘘はないけど」

彼女がそんなことを言っていたことをふと思い出した。

嘘はつかないけど、
飲み込む言葉が増えた二人の関係。
あの時から終わりが近づいていたのだろうか。

ずっと持っているよりも、
無くさないでいる方がよっぽど難しい。

スーパーの帰り道、手を繋ぎたいと荷物を半分こした頃なんてのは僕たち二人の絶頂期だったのかもしれない。

素直な言葉を吐き出すことよりも、
一旦自分の中で言葉を反芻してから他人に伝える癖がついたのは、彼女のおかげだった。

そんな彼女が“言えない”ではなく“言わない”を選んでいたことに気がついたのは付き合ってから一年が経った頃だった。

もう、知ろうという気持ちも知って欲しいという気持ちも無かったし、
理解しようという気持ちも理解されたいという気持ちも無かった。

彼女の大好きだったバンドは活動休止を発表したし、
今年は夏が早めにやってきたし、
人生はなんとなく忙しない。

素直に好きだと伝えられたら、
今こんなに後悔していることは無いと思う。

電車のホームで君を探す癖はまだ抜けないよ。

それでも今は生きていこうと思ってるんだよ。

だから、たまには僕のこと思い出して。

そんな甘えたことを思いながら今日も僕は息をする。

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