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『極私的ライター入門』

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ライター歴36年の私が約20年前に自分のサイト(すでに消去)に載せていた「ライター入門」を、少しずつ再録していきます。 時代の変化で内容があまりに古くなっている部分は、適宜アップ… もっと読む
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記事一覧

ライター必読本⑦重松清『あのひとたちの背中』

「ライター仕事」のマスターピースの1つ 重松清が『en-taxi』に連載した、作家、マンガ家、脚本家、映画監督など、広義の表現者13人へのロングインタビュー集である。 私は重松清を、小説家としてよりもライターとして尊敬している。 小説家としても好きではあるが、ファンというほどではない(そもそも、小説は数作しか読んでいないし)。 重松が小説家として名を成す以前から、いまに至るも続けてきたライターとしての仕事――その素晴らしさに感服つかまつり、「ライターの鑑」として仰ぎ見

〆切は「足枷」であり「翼」でもある

〆切がなかったら一行も書けない 昔、一度だけ〆切のない仕事依頼(ブックライティング)を請けたことがある。「じっくり書いていただきたいので、〆切はとくに設けません」と、先方の編集者は言った。 半年ほど経って進捗伺いの電話をもらったが、一行も書いていなかった。正直にそう言ったら、「もうけっこうです!」と先方ブチギレで、話が流れた。 えっ? だって、「〆切は設けません」って言ったじゃん。ライターは〆切をたくさん抱えているのだから、〆切のない仕事はどんどん後回しになるに決まって

「ひどい取材」の話

本も読まずに著者インタビュー(!) 10年以上前のことだが、マンガ家・作家のいしかわじゅん氏が、「日経BPオンライン」の連載エッセイ「ワンマン珈琲(カフェ)」で、沖縄の二大紙から受けたひどい取材について書いていた。 (「日経BPオンライン」ではすでに削除されており、書籍化もされていないようだ) 小説の新刊『ファイアーキング・カフェ』の著者インタビューを受けたところ、二大紙の記者ともその本を読まずに取材にきたばかりか、いしかわ氏が何者なのかまったく知らなかったという。 A

ライター必読本⑥佐々木俊尚『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』

ライター仕事の効率化のためには、さまざまな「知的生産の技術」本を読む必要がある。 私もその手の本をたくさん読んできた。古くは野口悠紀雄の『「超」整理法』、もっと古くは山根一眞の『スーパー書斎の仕事術』などなど……。 遡って、原点ともいうべき『知的生産の技術』(梅棹忠夫/1969年刊)あたりにまで手を伸ばし、「さすがに古色蒼然としているなァ」と思ったり(いまも一読の価値ある名著ではあるが)。 汗牛充棟、玉石混交の「知的生産の技術」本の中で、現時点におけるライター向けのオススメ

ライターにオススメの「文章読本」5選

以下に選ぶ5冊は、あくまでも「ライターにオススメの文章読本」である。 谷崎・三島を筆頭とした、文豪たちによる定番の『文章読本』は、小説などの文学作品を書くためのものだ。ここに選んだものはそうではなく、ライターが書く記事や実用文に役立つものなのだ。 1.松林薫『迷わず書ける記者式文章術――プロが実践する4つのパターン』 元『日本経済新聞』記者の著者が、記者時代の経験をふまえて書いた文章読本だ。 「記者式」とあるものの、ここに説かれている文章術は、ライターから一般人まですべ

取材しやすい人、しにくい人

職業別ベスト3/ワースト3(私見) さまざまな職業の人を取材する機会があるが、取材しやすい職業ベスト3を私見で選ぶなら、弁護士・大学教授・政治家となるだろうか。 いずれも総じて取材慣れしているし、自分の意見を論理立てて人に説明することに長けた職業だからである。   同様に、物書き(ジャーナリスト、評論家など)、企業経営者、企業の広報担当者(これは取材しやすくてあたりまえだが)も、おおむね取材が楽だ。 逆に、取材しにくい「ワースト3」を挙げると、芸能人・物書きを除いたアー

ライター必読本⑤本橋信宏『心を開かせる技術』

著者の本橋信宏氏は、風俗ルポからコワモテ人士(ヤクザ・闇金のドン・右翼・過激派など)への直撃取材まで、硬軟問わず精力的にインタビューを続けてきたベテラン・ライター。話の聞きにくい相手の心を開く達人である。 本書は、著者が豊富なインタビュー経験から編み出した、語り手の「心を開かせる技術」を開陳したものだ。 随所にちりばめられた、インタビューの舞台裏エピソードが抜群に面白い。また、インタビュー術の極意を明かしたハウツー本としてもすこぶる有益である。 私が「なるほど」と思った

ライターに必要な法律知識を身につける

「転ばぬ先の杖」として 自戒も込めて言うのだが、ライターには自分の仕事に関わる法律について無知な人が少なくない。必要最低限の法律知識すら持たないまま仕事を続けてしまいがちなのだ。 そして、原稿料不払いや著作権がらみのトラブルなどに巻き込まれたとき、初めて法律の大切さに気づき、あわてて勉強したりする。 司法試験を受けるわけではないから本格的に勉強する必要はないにしろ、一般向けの平明な法律本を買って、関係項目を熟読しておいたほうがいい。「転ばぬ先の杖」である。法律は、ライター

ライター必読本④永江朗『インタビュー術!』

取材術に的を絞ったライター入門もいまでは少なくないが、私のイチオシは永江朗の『インタビュー術!』(講談社現代新書)である。 ベテランにして売れっ子のライターが、豊富な経験をふまえてインタビューのノウハウを伝授してくれる1冊だ。 この本の美点の第一は、ヘンな精神論を振りかざすいやらしさがなく、徹底して実用的であるところ。 とにかくアドバイスが細かい。 たとえば、取材の際に使う筆記用具について、“ペンよりもシャープペンシルがよい”と永江は言う。なぜなら、小売店を取材するとき

仕事獲得は営業より「紹介」が吉

「紹介の輪」で仕事がつながってきた こちら(↓)の記事を興味深く拝見した。 この中で、筆者のライター・宿木雪樹(@yuki_yadorigi)さんが「振り返れば私はほとんど営業をしたことがありません」と書かれているが、私もそうだ。 これまでのキャリアを振り返ると、9割以上は誰かの紹介から仕事が始まっている。営業経験は皆無に等しい。 もちろん、それがスタンダードであるわけではない。出版社等にガンガン営業をかけて仕事を獲得しているライターも多いだろう。私はそうではなかったの

ライタースクールに通うべきか?

ピンキリだし、「人による」としか…… 「ライタースクールに通うべきか否か?」は、ツイッターのライタークラスタでしばしば炎上案件になるテーマだ。 私自身、「必要ない」との意見をツイートで表明したところ、フォロワー(だった人)からブロックされたことがある。ライタースクールでスタッフとして働いている人であった。気分を害してしまい、悪いことをした。 ライター志望者から「ライタースクールには通ったほうがいいでしょうか?」と聞かれたこともあるが、これは答えにくい質問だ。「人によるし

ライター必読本③岸本葉子『エッセイの書き方』

岸本葉子『エッセイの書き方――読んでもらえる文章のコツ』は、当代きっての人気エッセイストによる、エッセイの書き方入門だ。2010年に刊行された『エッセイ脳――800字から始まる文章読本』を改題した文庫化である。 (単行本時のタイトルのほうがよい。『エッセイの書き方』ではヒネリがなさすぎだ) 京都造形芸術大学通信教育部での講座をベースにしたものだそうで、話し言葉で書かれており、すこぶるわかりやすい。 エッセイの書き方入門は、本書がベストだと思う。一昔前なら木村治美の『エッ

「他人の目」こそが文章を磨く

“写経”は必要か? 文章力を磨くための王道は、「大量に読み、大量に書く」ことしかないと書いた。では、何をどう書くことが文章トレーニングにふさわしいだろう? いちばんよいのは、いうまでもなく実地トレーニングだ。すなわち、ギャラの発生する原稿をガンガン書くことである。 スポーツや武道でも、100回の練習より1回の実戦のほうが、はるかに得るものが大きい。同様に、ライターにとってはギャラの発生する仕事こそが「実戦」であり、これに勝る文章トレーニングはないのだ。 まだプロのライタ

たくさん読み、たくさん書くことの大切さ

文章修行の「王道」とは? 文章力をつけるためには、大量の本を読んで1つでも多くの名文に触れ、自らも大量の文章を書く以外にない。これだけが文章修行の王道であり、ほかに道はない。 もっとも、ここで終わってしまっては、「やせるためには、運動量を増やすか食べる量を減らすしかない」としか書いていないダイエット本のようで、芸がない。つけたりのようなことを少し書いてみよう。 たくさんの本を読むことがなぜ大切かといえば、文章のよし悪しを判断する力はそのことでしか磨かれないからである。よ