元気？

あなたに会うのが怖い

どうしてだろう


「おはようございます。」

今日から新しい職場での生活。

同じように何人かの人が、同じように挨拶をしている。

4月という入れ替わりの時期。

良い職場だといいなぁと思いながら朝礼が終わる。

ずっとフリーターでアルバイトをしてきて、去年思い立って資格を取ってみた。

その資格を活かしての就職。

フリーターから正社員になるのは少し怖い(笑)


初日は研修で終わった。

書類整理と、PCをカタカタ。

みんな一生懸命に働いている。

また明日も同じことを繰り返すのだろう。


まっすぐ家に帰った。

ただいまーと、声を上げて部屋に入った。

彼が、おかえりーと返事をして笑顔で迎え入れてくれる。

仕事はどうだった？

初日だからね(笑)

と曖昧に答え、

ごはんは？

と聞かれるといらないと答えた。

そのまま寝室へ向かう。

自分でも気付かないほど疲れていたのか、ベットに倒れ込んでそのまま寝てしまった。


元気？

しばらく見なかったね。

仕事はどう？

ちゃんと飯食ってる？


ある人がずっと話し掛けてきていた。

私は1つ1つに丁寧に返す。


元気だよ。

仕事は今日が初日だったの。

まだ書類整理とかばかりでおもしろくないよ。

ご飯も自炊して食べてます。


目を開けると、その姿と声は消えていた。

少し、口角が上がる。


あの人と会わなくなってどれくらい経つだろう。

あの人はいつも元気か聞いてくる。

私もあなたに聞きたい、元気？って。


そんなことを思っていると、もう辺りは朝になっていた。

眩しい日差しに背伸びをしながらベットから出る。

シャワーを浴びて、わざわざフライパンを使って朝食を作る。

ただのトーストじゃ少し物足りない気がした。

自分で作った朝食に満足しながら部屋を出る準備をする。

スマホをポケットに入れて、靴にかかとを入れた瞬間、音が鳴った。


元気？


その文字が体を動かなくさせる。

開いてみると、いつもの言葉が。

夢では何度も聞かれて、何度も丁寧に答えている言葉が。

なんて答えて良いか分からなかった。


調子はどう？

就職したって聞いたからさ。

仕事はどう？


立て続けに文字が目に入る。

彼とはもう随分と連絡を取っていない。

嬉しいと同時に、怖くなった。


このまま返せば、あの頃と同じだ。

楽しかったけど依存してた毎日。

もう、違う人を好きになったんだ。

あの人も今送ってくるということはきっと裏があるに違いない。


夢の中で何度もやりとりした答えは無意味になった。


急にどうしたの？と送る。


怖い。

何でこんなに怖いのだろう。

好きだった人からの連絡はいつになっても嬉しいハズだ。

ちがう、好きだったから怖いんだ。

もう今は違う人を選んでる。

だから、今この人から歩み寄られるのが怖いんだ。


そっとスマホをポケットにしまい、

行ってきます、と小声で呟く。


その日、あの人からの返信はなかった。

End