旅先で飲んだ酒は持ち帰れないんだろうか

空港で買ってフィリピンに持ち込んだ日本酒を、現地のホテルで飲んだ。
いつもは好きな日本酒が、ちっとも美味しくなかった。
やっぱり、つまみがハンバーガーじゃダメってことか。

フィリピンで飲んだビールは、とても美味しかった。
何種類もあったけど、どれも好きだった。
日本のよりもずっと安いし、日本のよりも好きだと思った。
たくさんお土産に買って帰ったけど、日本で飲んだそいつらの味をもう覚えてはいない。

長野の酒蔵で試飲した超低精米の日本酒は、僕と一緒に飲んだ友達を全員一瞬で虜にした。
その酒も買って帰って飲んだけど、僕が覚えている感動は、酒蔵で試飲したおちょこ一杯のそれだ。

世界中のいろんな地域に、その地域の酒がある。
その土地の食べ物とか、水とか、温度とか湿度とか、
お酒もそれと合うように進化したんだろう。
その地域の人が好む味が生き残ったんだろう。

だとしたら、そいつはそこで飲むしかないってことなのか。

それとも、単なる錯覚だろうか。
旅の浮かれた空気が、何かを演出しているだけなんだろうか。
本当は、どこで飲んでも同じ味のはずだろう？

チェコのお洒落なバーで飲んだブランデーは、僕らをこの上ない幸福で満たしてくれた。
華やかで上品な香りで、僕らは本当に花畑や宮殿を感じた。

そのときに買ったブランデーが、今僕の部屋にある。
まだ、開けられずにいる。
たぶんちょっとしたきっかけがあればいい。
誰かが家に遊びに来たタイミングで開ければいい。

そしとき、お前はまたあのときと同じ景色を見せてくれるんだろうか。