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#恋愛小説

腐った酒の色。2

腐った酒の色。2

いちのつづき

彼とわたしは、3つ目の季節を超えられなかった。

彼と1つ目の季節を超えるころ
部屋で夕食を取っていると
彼女と別れた、と聞かされた。

彼女いたの、と驚くよりもまず
そりゃそうだろうとおもった。

その一言にそんなに影響力はなかった。
わたしは変わらず まっすぐに幼い。

ただ、そんな不安定など どうでもよくなるほど
彼は最初の時よりも 強く たしかに
わたしを苛めるよう

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腐った酒の色。3

腐った酒の色。3

いち。に。のつづき

彼は1日に2つ以上の仕事をこなし
深夜になると、木屋町へ わたしを連れ歩いた。

安いテキーラと焼酎ロック。
太陽ラーメンと小沢健二エンドレスリピートのバー。

三条から五条に下るまでの ビル 上から下の
どこに美味しいものがあるか なぜ美味しいのか
仕入れだとか 前歴だとか お通しのコストとか
ヒソヒソ声で 肩を抱き寄せ 教えた。

ものすごく沢山の人に あの時 毎日会っ

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腐った酒の色。4

腐った酒の色。4

さん。のつづき

彼と話さなくなって何日も経っても、
彼とのことを終えることが出来ないでいた。

いや始まってもいない関係なのだから、
そんなものなかったと 言い張る彼の言葉の通りに
事実無い関係だったと 既成してしまえばよかった。

わたしが彼に そうしたように。

だけどあの日々と 彼のスポンジは 甘過ぎた。
もう なにを好きなのかも わからないくらい
じぶんのすべてに 彼がいてどうし

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恋と積み木。2

恋と積み木。2

1/3のつづき

彼女とは毎日ハグし合い
たまに一緒のベッドに潜るようになった。

2人は目を閉じ 寝ずに一緒に過ごした。

友達なら、するんだろう
することだから、とおもいながらも
背後から彼女を抱くわたしの手が
15センチ上にズレるだけで この関係は 終わるのだ。

柔らかくて温かいものを大切に抱きながら
鼻に当たるシャンプーの香りに
振り向かせたい狂おしさに 悶えた。

初めての性は 恐怖と

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恋と積み木。3

恋と積み木。3

2/3のつづき

彼女の話に戻る。
あの2人は付き合い始めた。

わたしは心から彼女の喜びを味わい、
いよいよ自分が浮いていく。
もう目で見えるものがテレビと変わりない。

何だろうなコレ、何だわたし。

心理学系の本を手に取り始め
自分が離人症に当たるのでは と思いながら、
本を閉まった。
知ったから 何が変わるというのか。

文字は救わない。
文字が救えるものは文字の傷だけだ。
わたしは積み

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2.物語の力

2.物語の力

1・2・3・4・5・6

高2の春、花見をしないかとアサミを誘った。
地元には竜が眠るという池があって、そこでわたしの作った不細工な団子をツマミにビールを飲んだ。
小さな子どもがわたしに近づいて話しかけた。心地よく回った酔いも手伝って、わたしは優しいお姉さんのようにその子に接していた。

予想だにしないことが起きた。
突然アサミはわたしの腕を引っ張り、狂ったように叫んだのだ。

「わたしのるんばに

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1.物語の力

1.物語の力

1・2・3・4・5・6

15歳のわたしは地元の進学校に通った。
その前の春に、苦くて濃厚な初恋を終わらせていた。
その後味のせいなのか、まともな高校生にはなれなかった。

高1の夏休みは、親に内緒のコンビニのアルバイトで作ったお金と、親の知らないプリペイドの携帯電話にすくわれた。
夜の密だけを吸う夜光虫のように過ごした。
その甘さに慣れた体には、9月の残暑はよけいに堪えた。

2学期にはいってす

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3.物語の力

3.物語の力

1・2・3・4・5・6

アサミとセンパイと、何人かで遊んだ、ある日の朝。

寝息が聞こえて目を覚ますと、目の前にアサミの顔があった。化粧の下の白い肌がやわらかそうで、りんごの一番おいしいところを切り取ったような紅い唇の奥には、白い歯が小さく子どもの様に顔を出していた。
さっきまでいたはずの男たちは姿が見えない。わたしはうすら寒くなり、人形のように可愛いアサミにくっついて寝ようとして、はっとした。

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4.物語の力

4.物語の力

1・2・3・4・5・6

その秋から冬のことは忘れられない。

きっと、世界を敵に抵抗した。
あの若さと情熱とエネルギーでもって、エベレストの
山頂で舞いたい一匹の蝶だった。

そして、たぶん、思い知るしかなかった。
じぶんが17歳だということを。

ここで出来る最大のことは、なんなのか。
どこまでもあのわたしは、最大出力の矛先だけを
かんがえていたんだ。



その秋からアサミから夜中にかかっ

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5.物語の力

5.物語の力

1・2・3・4・5・6

その日は、高熱を出して動けなくなった。

ふだん、38℃の熱があっても平気なのに
その日だけは ベッドから降りることも
水を飲むのも難しかった。

テレビを久しぶりに観た。お昼の有名司会者が
仕切る この番組がわたしは嫌いだった。
あそこに座っている人たちは、いつも後頭部しか見えない。後ろを向いて笑っているのを、しあわせでいいね、と興ざめして見た。

もうつかれた。
もう

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