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工藤吉生の『未来』の短歌

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歌誌『未来』に掲載された短歌のまとめ。2016年1月号から。彗星集。 投げ銭方式なので、無料ですべて読めます。
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#詩

パワーでかじる〈短歌9首〉

「パワーでかじる」

自転車を漕いでる足が二本ともはずかしくなるぴかぴかの朝

予報では雨だけれども降ってくる気がしない昼に青いガム踏む

ヘッドライトは二つの目だと思うとき肛門ふたつの生き物知らず

自動車の中に置かれたティッシュ箱にはなれないよオレは酔うから

小走りをやめてはじめてまたやめるおばあさんに何回も追いつく

ポスターに描かれた空き巣がどう見ても泉谷しげるだ春夏秋冬

ゆず・レモン

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ひしゃげた気分〈短歌10首〉

ひしゃげた気分〈短歌10首〉

「ひしゃげた気分」

バスケットボールを持たぬバスケットボール選手がレジを通った

記入済アンケート用紙が落ちている来店理由は「気分」だという

メーデーのシュプレヒコールはオレの行くほうへと同じ速さで動く

オレよりも微妙に遅い歩行者を追い抜くためのスピードアップ

イメージは実物よりもきれいだなひしゃげたえびフィレオで手を汚す

ポケットに手を入れている全身を入れられるならそうするだろう

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「未来」2017年4月号に載った短歌

「未来」2017年4月号に載った短歌

誰も見てなければ頬にある肉を動かしてみるまだ笑えるよ

モンテスキュー、よかったな女子高生がさっきお前のこと言ってたぞ

ほう、犬の服が光っていることで安全性が高まっている!

一口をかじったら具がみんな出てやがて具のないオレのバーガー

なめんなよぶちかますぞと頑丈な壁を背中でズンと押しやる

歩道橋の上で出くわす細長い影の誰でもどうだっていい

リセッシュの隣に置いたファブリーズ仲の良くない夫

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無音

無音

「無音」

登校の中学生がわめき立つ「今日って席替えじゃん!」そりゃいいな

うすあおく追いかける者逃げる者蝶の世界に食い逃げあるか

つらすぎて笑っちゃうよというふうに朝の車道を枯葉ふらつく

通販のサイト見ている妹の背中しなやかアニマルに似る

ケーキ屋のケーキをおいしく見せるのは下からの白い照明とみた

厨房から客の様子を知るための窓であろうかタオルが見える

スーパーを出れば夜空の冷え込み

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「未来」2017年1月号

ひとすじの飛行機雲がのびてゆき秋のあおぞら完全となる

警官が近づいてきてオレの持つ夢想とびちる日暮れの街に

暮れかけの芝生に犬と飼い主はとどまっている時間とともに

日の沈むほうへ歩いて太陽のスパートにあう 秋のはじまり

内側の疲れほぐしている道を簡易トイレは運ばれてゆく

帯分数は習う必要ないという意見も載ってこども新聞

光源のせいで三つの影を持つ自分に慣れて中年になる

全力の声

全力の声

灰色とにぶい緑の取り合わせを良いと思った帰りの道で

トラックに積まれた土砂をまじまじと見て納得に似た胸の内

とりたてて急ぐ用事のない道のうしろから鳴る濃いクラクション

真似をしているのではなく平凡なオレの出しうる全力の声

とりあえず「だって」と言ってみたものの特に言い訳できることなし

絶対に猫はインターネットでは非難されない エサをあげます

「しね」とのみ書かれた『お客様の声』事務所に

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未来 2016年9月号

未来 2016年9月号

もう五月なんて言ってるうちにもう六月なんて言ってるうちに

ひげそりのひりひりとして今日一日耐える痛みのまずは一つ目

くもりぞら ここから今日が始まるというんじゃ先が思いやられる

よく見てはいないがきっと犬だった繋がれて四つ足のハアハア

工藤さんは何を食べてもおいしいと言う、ってだってそうなんだもの


孫どころか子も妻もなく取り出した定規で背中がしがしと掻く

眠ったと思った人が起きてい

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新年の歌をはじめとして

新年の歌をはじめとして

新年と思えば実にそのような空気でもあり水でもあるよ

動いてる列車のなかを歩いてるおばあさん猛吹雪の車窓

琴の音に雰囲気ひらく店内のテケテケテケテンにオレはなじまず

ビッグマックほどのサイズの赤ちゃんの頭部が動く 見れば目が合う

かなたよりジグソーこぼれ現代の一兆ピースに生き埋めの君

おめん屋におめんはならぶ ドラえもん・仮面ライダー・オレ・お母さん

オレの持つ中心のその中心にぐっと入っ

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億万長者

億万長者

鳴き声が省略形のこの犬を ゥ ゥ 真似したくなる ゥ ゥ 

だいこんもじょうずにそらをとんだならもたらすだろう恐怖トラウマ

6人の億万長者が出たという売場の6人 誰も知らない

カモを見る 今押されたらこの池に落下することなども気にして

カモが二羽いてここで写メ。カモが二羽さらに来て四羽になって写メ。

毛づくろいしている池のカモからの絶え間なく出続ける波紋だ

まっすぐな木とかたむいて生え

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