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工藤吉生の『未来』の短歌

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歌誌『未来』に掲載された短歌のまとめ。2016年1月号から。彗星集。 投げ銭方式なので、無料ですべて読めます。
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#文芸

レーズン岩

レーズン岩

税抜きにすれば安いが税込みになればそうでもない工藤です

なんのツボなのか忘れた親指と人さし指のあいだ揉みこむ

レーズンの埋まったパンはガキのころさわった岩を思い出させる

雑念というのはオレが普段から寝起きしているぬかるみのこと

木の棒につらぬかれてる塩辛いさかなも食べたお別れの会

文字だけでこんな光の感触を描けぬものかと思いつつ踏む

アンパンマンアンパンマンと呼ぶうちに泣き声になりエン

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泉ヶ池

泉ヶ池

切実がオレには足りてなさそうだ体温38度の仮病

階段のとなりにエスカレーターがあって気楽ないきかた選ぶ

休館の図書館のぞくかたむいたオレを映すなこの窓ガラス

泉区の泉公園内にある泉ヶ池に今朝のしずまり

完全な敗北 ドバと広がった草のかたまりつい見てしまう


プレートに名前が書いてありまして「芝生広場」と呼べば正しい

東京に行って頑張りたいなどと聞こえるベンチにまどろんでゆく

風が出

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ヘナ

未来初掲載
掲載をまずよろこぶが読者にはこれがどう見えてるんだろうか

今うたに詠めば誌面に載るまでに消えていそうなベッキーのこと

本日のトイレのカレンダーは言う「逆境に耐えよ」ハイそうします

宮城県公安委員会指定奥羽自動車学校も朝

踏み切りの不協和音のほのぼのと響いて冬の自動車学校

点滅の青信号に止まろうとするオレ、突っ走ろうとする君

まどぎわの人形たちは一日中そとを見ている窓ガラス

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新年の歌をはじめとして

新年の歌をはじめとして

新年と思えば実にそのような空気でもあり水でもあるよ

動いてる列車のなかを歩いてるおばあさん猛吹雪の車窓

琴の音に雰囲気ひらく店内のテケテケテケテンにオレはなじまず

ビッグマックほどのサイズの赤ちゃんの頭部が動く 見れば目が合う

かなたよりジグソーこぼれ現代の一兆ピースに生き埋めの君

おめん屋におめんはならぶ ドラえもん・仮面ライダー・オレ・お母さん

オレの持つ中心のその中心にぐっと入っ

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億万長者

億万長者

鳴き声が省略形のこの犬を ゥ ゥ 真似したくなる ゥ ゥ 

だいこんもじょうずにそらをとんだならもたらすだろう恐怖トラウマ

6人の億万長者が出たという売場の6人 誰も知らない

カモを見る 今押されたらこの池に落下することなども気にして

カモが二羽いてここで写メ。カモが二羽さらに来て四羽になって写メ。

毛づくろいしている池のカモからの絶え間なく出続ける波紋だ

まっすぐな木とかたむいて生え

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こころをこめて

こころをこめて

立ち止まり眺める踊り おどってる男女は持ち場持ち場の火の粉

パジャマではないと言いきれるだろうか? みたいな服だ3マス戻る

寒さから逃れようとした両の手をふとももとふともも受け入れる

リモコンをテレビに向けて電源のボタン押し消すこころをこめて

浴槽に入って使う水鉄砲、床を撃ち、壁を撃ち、天井を 、

宝くじ売り場はまったく原色のまま立つオレが持たないカラー

幸せで何が悪いと純潔に言わし

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