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#003 筆箱くんからの手紙
孫達の思いやりに感動して、つい書き綴ったという物語。中学受験を乗り越えた兄と、見守っていた妹のお話です。
ひなこ、ひとり旅を決める
「じゃあ、ひな子、気をつけてね。おばあちゃん、おじいちゃんの言うことをよく聞いてね」
「うん、わかった」
ママが東京駅の新幹線ホームで、両手をふって見送っていた。ひな子はきんちょうして、心配な気持ちと、冒険に出発するような、ワクワクした気持ちが入り交じっていた。
長野行きの新幹線は、新型コロナのせいで、出かける人は少なく車両の中はガラガラだった。話をする人もいなくて、だんだん心細くなり始めた。だれかと話をしたいと思っても、車掌さんが一度だけ切符を見に来ただけだった。
毎年お正月は家族そろって長野に出かけるのに、今年はお兄ちゃんの中学受験のがから始まり、ママも、送り迎えするパパも来られない。
四年生のひな子はどうしようか迷った。今のママやパパはお兄ちゃんにかかりきりで、少しセキをしただけで、薬を飲ませたり、部屋を暖かくしたりしている。ひな子のことは、気にかけてくれないようだ。
(長野に一人で行こう!)
そう決めた。長野のおじいちゃん、おばあちゃんは行くと大喜びで、いつも楽しく遊んでくれたり、おもちゃを買ってくれる。一緒に寝るときは、昔のおもしろい話をしてくれるので、一人で行くことに決めた。
年末にはいとこの二歳のゆりちゃんも、長野に行くというので、ことばの出始めたゆりちゃんと遊ぶのも楽しみだった。
ひなこ、ひとりになって感じたこと
新幹線の中で、一人きりはやっぱりさびしい。去年はみんなでにぎやかに乗ったのを思い出して、どうしてお兄ちゃんが中学受験をすることになったかを考えていた。
明るくてひょうきんなお兄ちゃんは、人気者で、友達に何かいわれるとすぐ調子にのるくせがあった。
お兄ちゃんが五年生の去年の秋だった。ママが学校から呼び出されて、プリプリして帰ってきて、遊んで帰ってきたお兄ちゃんをどなった。
「いたずらが多いと担任の先生から注意されたわ。あんたは授業中もしゃべってばかりいて、消しゴムを友達に投げたり、三角定規の穴にえんぴつを入れて回してとばしているの?
この間は保健室のベットでねてたんだって?保健の先生がびっくりして、あわてて体温をはかったりしたら、お昼食べ過ぎて眠くなったっていったんだって? それから仲間と校長先生の髪の毛をひっぱって、おこらせたんだって!」
「だってさ、おれが眠くなったっていったら、公平と拓也が保健室にべットがあるから、ねてくればいいぜっていったんだ。それから、校長先生の髪の毛をひっぱったらはげ頭になるっていうから、ホントかどうかやってみようと話し合ったんだ。校長室に行って、公平たちが前から声をかけて、おれがすわっている校長先生のかみの毛を後ろからはらったら、ホントにはげ頭になって、びっくりしたよ。校長先生にすごくおこられた」
「なんでそんなことするの」
ママはカンカンになっておこった。(たしかに校長先生の頭は、はげているのに、横から毛を持ってきて、はげをかくしているから、ひっぱりたくなるのはわかるよ)
ひな子はそのときのことを思い出して、クスッとわらった。
ママは公平と拓也が悪ガキで、いつもつるんでいるのが悪いとさらにおこっていた。
「あんたは協調性がありすぎる。友達にえいきょうされすぎて、このままだとどうなるかわからない」
お兄ちゃんはサッカークラブのエースで、パパに似て身長も伸びて、顔もちょっとイケメンだから、ひな子の友だちのさきちゃんやゆみちゃんに、「ひなちゃんのお兄ちゃん、かっこいいね」
とよくいわれる。でも、自分より背が小さいママにおこられて、すぐメソメソ泣くのは、見ていておかしい。
ひな子の前ではえらそうにしてて、ささいなけんかは毎日だし、やさしくしてもらったことはあまりない。
ママはその後、考えた末、こう言った。
「決めた。ジュンは私立中学に行きなさい。サッカーの名門校でがんばるのよ。今のままでは、回り中からいたずらぼうずでばかだと思われて、笑われるわよ」
「ええっ、やだよ、おれ。勉強するなんて」
「どっちみち、高校受験は勉強しなきゃならないんだから、中高一した学校に行けば、高校に行くときそのままいけるよ。受験勉強しなくていいから、サッカーに打ち込めるよ」
パパも中学から高校まで、サッカー選手だったから、大乗り気になって、うれしそうにいった。
「そうだ、そうだ。ジュンにはサッカー選手で活やくしてほしいなあ。サッカー少年団のエースアタッカーなんだから」
そう聞いて、お兄ちゃんは心が動いたらしい。もう五年生の秋だったから、ママはあわてて塾に申し込んだ。中学を受ける子は、四年生から行っているらしい。
それからお兄ちゃんは毎日塾に行っている。公平や拓也と遊ぶ時間がへったと文句をいっていたが、にぎやかでおしゃべりだから、塾で友達もできたらしい。今はいやがらずに行っている。
六年生の今は、最後の追い込みで、ママやパパがつきっきりで世話をやいているのだ。
ふと見ると、新幹線の窓の外は、雪景色になってきた。
(ああ、もう長野が近いんだ)
ひな子はママの持たせてくれた、ライチのペットボトルを飲みほした。
ひなこ、ついに到着!
「おばあちゃーん」 長野駅に着いたひな子は、改札口で待っていたおばあちゃんのむねにとびこんだ。
「ひなちゃん、一人でよく来た、よく来た」
おばあちゃんはひな子を、ぎゅっとだいてくれた。おばあちゃんのむねは、なつかしい、日なたにほしたせんたく物のようなにおいがした。おばあちゃんにしがみついて、やっと安心したひな子は、急におなかがすいてきた。
「ひなちゃん、やきとりが好きだったね」
おばあちゃんは駅ビルのお店で、やきとりを沢山買って、ひな子の好きなケーキやチョコのお菓子も買った。そしておじいちゃんの運転する車で、長野の家に着いた。
夕飯は、ひな子の大好きな手打ちうどんだった。コシがあっておいしいうどんを、おなかいっぱい食べた。
夕飯の後は、ひな子の希望通り、トランプや花合わせで遊んだ。花合わせを何回もやって、点数をつけたら、ひな子が一番勝って楽しかった。
「わーい、わーい、一番勝った」
好きなお笑いのテレビを、だれにもえんりょなく大声で笑って見て、満足だった。そしておばあちゃんのとなりで寝た。
ひなこ、かわいい従妹に会う
次の日の夕方、ゆりちゃんとママとパパが来た。ゆりちゃんのパパはママの弟だ。二歳のゆりちゃんは家中走り回った。
「ゆりちゃん、おいで」
ひな子が手を出すと、だっこしてもらおうと身を乗り出して来てかわいい。果物やジュースが大好き。「バナナ食べる?」と聞くと、かわいくうなずいて「うん」と高い声で答える。
「ゆりこちゃーん」
と呼ぶと、「ハーイ」と答えて手を上げる。
三輪車に乗せたり、ボールで遊んでいたら、あっという間に時間が過ぎる。おばあちゃんは忙しそうに、お正月のお料理を作っていた。夜はおせち料理を食べながら、大人達はお酒を飲み、ひな子はリンゴジュースを飲んで、紅白歌合戦を見ているうちに寝てしまった。
ひなこの願い
よく朝は元旦だった。おじいちゃんがひな子と、来られなかったお兄ちゃんの分もお年玉をくれた。
雪がうっすら積もった中を、神社にはつもうでに行った。お参りの人たちが、はなれてならんでいて、順番にお参りした。ひな子は、おさいせんをふんぱつして、百円あげた。やっぱりお兄ちゃんが心配になり、真剣におまいりした。
「どうか、お兄ちゃんが受かりますように」
そのあと、みんなでおばあちゃんの生まれた家に、あいさつに行った。
一月一日は、毎年その家で、しんせき中そろって、にぎやかに新年会をやっていた。でも、今年はコロナで中止になり、しんせきの人たちも、それぞれ別々に行くことになった。
おばあちゃんのお母さんの、百歳のひいばあちゃんが元気でいて、子供三人、孫七人、ひ孫十二人いるので、いつも二十人以上集まる。ごちそうを食べて、お店屋さんごっこや、トランプや百人一首と、いろいろ遊べて楽しかったのに、残念だった。
それでもひな子達が行くと、ひいばあちゃんはお年玉を用意して、待っていてくれた。ひな子には、ひいばあちゃんはちっともかわらないように見えたが、花札をやると、ときどきやり方を忘れたようで、わからなくなっていた。
ひいばあちゃんは、ひな子たちが帰るときは、いつまでも手をふっていた。ひな子も力をこめて手をふった。
「帰りにおもちゃ屋によって、ひなちゃんとゆりちゃんに、おもちゃを買っていこう」
おじいちゃんがいった。おもちゃ屋さんの中は、明るい音楽がかかり、沢山の物があふれていた。
(やさしい色の、やわらかいぬいぐるみがほしい)
ひな子はずっと考えていたので、うすむらさき色のやわらかいオコジョがあったとき、これだ!と思った。買ってもらったときはうれしかった。ほっぺにあてると、モコモコしていい気持ち。
ゆりちゃんは水色のボールをうれしそうにだっこしたので、それになった。
夜はゆりちゃんが寝た後、みんなでトランプをやって楽しかった。うるさく注意するママがいないので、アイスクリームをいくつも食べて、夜遅くまで起きていた。
ひなこ、ママやお兄ちゃんを思い出す
三日ほどして、ゆりちゃんはママやパパと帰って行った。
高速バスに乗って手をふると、ゆりちゃんも手をふっていた。
長野の家に帰ると、ちょっとさびしくなって、ママに電話すると、ママも元気な声でこういった。
「ひな子がいなくて、しずかでさびしいよ。でもおばあちゃんちは大切にしてくれていいでしょ」
「うん、お年玉をもらって、オコジョも買ってもらったよ。今までゆりちゃんもいて、にぎやかだったよ」
「あと二日だから、楽しんできてね。ジュンは勉強頑張っているからね」
ママやパパに注意されると、時々なみだ声で反抗しながら勉強しているお兄ちゃんを思いうかべた。
ひな子もテレビで好きなお笑いを見て、大声で笑ったりすると、気が散るとおこられるので、こっそり小さい音で見るなど気をつかっていた。
(ああ、長野の家はいいなあ。何でも好きなようにできる)
おばあちゃんは、夕飯にひな子の大好きな焼き肉をやいてくれた。
次の日の午後、年賀状の返事を書きおわった、おばあちゃんがいった。
「わたしは地区の福祉の役員をしてるけど、今年は高齢者の集まりがコロナでみんな中止になって、みんなが楽しみにしてた新年会も中止なんだよ。中止の文書だけしゃ、あじけないと思って、手紙もいっしょに配ろうと思っているの。ひなちゃん絵が上手だから、手紙に絵を描いてくれない」
ひな子はちょっと考えて、返事をした。
「いいよ」
おばあちゃんやおじいちゃんは、三年くらい前から描いた、ひな子の絵を大事に、居間にはってくれてある。女の子の絵や果物やあかちゃんの絵もある。
「やっぱり、手紙は手書きが、心が伝わるよね」
おばあちゃんは白い便せんに、一人一人にあてて、その人に合ったことばを書いていった。
二十人を担当していると言って、二十枚書いた。ひな子は何の絵でもいいといわれて、一枚一枚に、女の子や、花、果物の絵を描いた。クーピーや色鉛筆を使って、色もきれいに描くことができた。
「ありがとね。みんな喜ぶわ。コロナで集まることができないから、きっとさびしがっているから」
おばあちゃんは、早速近所のお年よりの人たちに、配りに行った。
夕方おじいちゃんの車で、回転寿司に行き、好きなお寿司をつめて、家でゆっくり食べた。ひな子はまぐろといくらとたまごやきばっかりつめてきたので、おいしかった。
ひなこ、お礼を言われる
よく日、朝からおばあちゃんに電話がかかってきた。
「お手紙ありがとうって。会って話が出来ないから、うれしかったといってたよ。絵もかわいくてかざっておくって」
ひな子は喜んでもらえて、うれしくて、くすぐったいような気持ちだった。三人くらいから電話が来た後で、午後にまた電話があった。
「孫が絵を描いたっていったら、ぜひ話したいって。どうする?」
おばあちゃんがちょっとこまったように、ひな子を見た。
ひな子は迷ったけど、勇気を出して、電話に出た。
「もしもし、お孫さん。わたしゃ長い間、手紙なんてもらったことないから、とってもうれしかったよ。ありがとね。絵も上手だね。名前はなんていうの?」
「はい、ありがとうございます。ひな子です」
ひな子は何をいわれるか、ドキドキしていた。
「かわいい名前だねえ。もらった手紙を大事にするね。かわいい声が聞けて、うれしかった。これでまた寿命がのびるよ。ありがとね」
おばあちゃんはにっこりしていった。
「よくよくうれしかったんだねえ。ひな子の絵も喜んでくれたよ。今はメールですますけど、手紙は心が伝わるから、いいねえ」
そのあとも、電話が来た。わざわざお礼をいいに来る人もいた。お年よりの人たちがこんなに喜んでくれるなんて、ひな子は満足した気持ちになった。
ひなこの帰り道
次の日のお昼過ぎ、ひな子はキャリーケースいっぱいに、ママの好きなおやきやお兄ちゃんの好きなクッキーや、パパの好きなおそばをもらって、長野駅から帰った。
新幹線は来るときと同じくすいていて、一つの車両に三人くらいしかいなかった。おばあちゃんがホームで、見えなくなるまで手をふって見送ってくれた。
帰りの新幹線は、長野であったいろいろなことを思い出しているうちに、東京に着いた。
駅のホームには、ママが待っていた。
「ひな子、よくがんばって一人で行ってきたね」
ぎゅうっとだきしめてくれた。
家に着くと、パパもお兄ちゃんも待っていた。お兄ちゃんはもらったお年玉に大喜びして、早速長野のおじいちゃん、おばあちゃんにお礼の電話をしていた。
ママはおやきをパクパクと食べて、満足していた。
「ああ、なつかしい長野の味だわ」
ひなこの新学期
それから学校が始まって、いつものような毎日がもどってきた。なかよしのさきちゃんやゆみちゃんと、お正月のことを話した。さきちゃんは、ママの田舎に行かなかったから、スケートセンターに連れてってもらったり、ゆみちゃんはママと映画を見に行ったと話していた。
それからお年玉の金額をこっそりおしえあったら、今年はひな子が二人より少し多かった。去年は一番少なくてさびしい思いをしたから、ちょっと満足だった。
おばあちゃんに去年一番少なくてさびしかったと話したから、今年は多くしてくれたらしい。
お兄ちゃんは、二月の初めに中学入学の試験があるので、毎日塾に行って、おそくに帰ってくる。テストの結果が悪かったときは、ママに注意されていた。
「前と同じまちがいをしてるでしょ。おちついて、よく読んでやりなさい」
「もう、つかれた。ねむい」
「これだけやっておかないと、明日こまるでしょ。さあがんばって」
お兄ちゃんは眠い目をこすりながら、テキストを見ていた。
パソコンを打っていたパパまで、顔を上げた。
「ほら,ジュン、早くそれだけやってしまいなさい」
ひな子は今朝、玉子焼きをとりあって、大げんかしたことも忘れて、お兄ちゃんがちょっとかわいそうになった。
「あと二週間だから、がんばって」
ひな子のことばに、お兄ちゃんは力なくうなずいた。
「うん」
ひな子はこんなにがんばっているんだから,お兄ちゃんに合格してもらいたいと思った。何かできることないかなと考えて、長野のおばあちゃんが、お年よりのひとたちに手紙を書いて喜ばれたことを思い出した。
(そうだ、手紙を書こう)
ふと机の上を見たら、お兄ちゃんの筆箱が目に入った。
お誕生日のお祝いに、ひな子がプレゼントした茶色の筆箱。
ママが買ってくれた二段のりっぱな筆箱は、公平たちと投げ合って、こわしてしまった。ママはカッカとして、
「古いのを持って行きなさい。買ってあげません」
といったけど、ちょうどお兄ちゃんの誕生日前だったから、ひな子がプレゼントしたのだ。
一緒に文房具屋さんに行って、お兄ちゃんは珍しくえんりょしたのか、安いのを選んだ。投げてもこわれない、チャックでしめるだけの簡単な筆箱が気に入ったらしく、あれから二年間ずっと使っている。
お兄ちゃんの勉強の相手を、ずっとしている筆箱くん。
筆箱の気持ちになってはげませば、お兄ちゃんもすんなり受け取ってくれる気がした。
ひな子は筆箱くんからの手紙を書いて、イラストも付け加えて、お兄ちゃんの机の上においてねた。
『筆箱くんからの手紙①』
「ぼくはきみの筆箱です。きみをずっと見守ってきたから、きみはできるってわかってるよ。自信を持ってがんばれ」
よく朝、お兄ちゃんは,朝ご飯を食べながらお礼をいった。
「ひな子、ありがと。がんばるよ」
ひな子はそれから毎日のように、お兄ちゃんのようすを見ながら、筆箱くんからの手紙を書き続けた。
ひなこ、試験前のお兄ちゃんへ
『筆箱くんからの手紙②』
「今日も入れて後一週間あるよ。気になったところをチェックして、最後の復習やって、がんばれ」
『筆箱くんからの手紙③』
「あとで後悔しないように、だめだと思ったりするとやる気をなくすから、そんなこと思わずに、ラストスパートだよ」
『筆箱くんからの手紙④』
「今日入れて三日あるよ。ここまでくると体調が大事。サッカーできたえてあるけど、ムリせずに元気でがんばってね」
『筆箱くんからの手紙⑤』
「当日あせると頭が真っ白になるから、おちついてやったところを思い出せ。おちつけば大丈夫だよ」
『筆箱くんからの手紙⑥』
「明日はいよいよ本番! 明日はしっかり自信もって!自分を信じるんだ!いつも全力で応援してるよ! がんばれ! 」
明日は試験の日には、ママも付け足してくれた。
「前日確認、マスク、えんぴつ、消しゴム、ホッカイロ、お茶、スマホ充電、今までがんばってきたんだから、落ち着いてやれば大丈夫! 筆箱くんも応援してるからね!」
ひなこ、試験前のお兄ちゃんへ
試験の終わったあと、迎えに行ったママが言った。
「ジュンがいい顔して出てきたので、ほっとした」
二日後の合格発表をスマホで見たママが、大声を出した。
「やった、ジュン。合格おめでとう」
お兄ちゃんは、大きく両手でピースして、ひな子の手をにぎった。
「筆箱くんからの手紙、ありがとう。うれしかった。あれで最後までがんばれたよ」
「お兄ちゃんおめでとう! やったね」
ひな子もむねのおくから、じわりとうれしさがわいてきた。
「よかったなあ、未来のサッカー選手誕生だ」
パパもうれしそうだった。
ママはハンカチで涙をふいた。
「長野のおばあちゃんたちに知らせるね」
ひな子がいうと、お兄ちゃんはすぐいった。
「ぼくも出るから、ビデオ通話にして」
おばあちゃんやおじいちゃんのうれしそうな顔がスマホに写った。おばあちゃんの笑顔がいっぱいに広がった。
「うれしくて涙が出そうだよ。よく頑張ったね」
「そうなの。塾の先生にもいわれた。正直いって、どうかなと思っていた。最後の頑張りがきいたんだと思うって」
ママが大声でしゃべっていた。
「家族みんなの、特にひなちゃんの応援が大きかったね」
おばあちゃんのことばに、「うん、ひな子のおかげかも」
お兄ちゃんが素直にうれしそうに答えた。
その夜、ひな子は、お兄ちゃんが合格したうれしさにひたりながら、筆箱くんからの最後の手紙を書いた。
ひなこ、最後の手紙を書く
『筆箱くんからの手紙⑦』
「君はがんばったね。おめでとう。やればできるってことがわかったね。これからも自分を信じて、自分の道を進んでいくんだよ。そして、これからもぼくを大切にしてね」
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