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【読了 2024 No.15】山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?-経営における「アート」と「サイエンス」-』(光文社新書)読了。

【読了 2024 No.1】【読了 2024 No.14】と、山口周氏の本が続いたが、この『世界のエリートは…』こそ、山口氏の代表作中の代表作である。読んでる間、山口氏の高く洗練された表現力に痺れまくりだった。本を読んで、「痺れる」という感覚を覚えたのは初めてだった。

なぜか偏差値の高いエリートが多数在籍しているのにも関わらず、コンプライアンス違反をしてしまう組織、オウム真理教のように暴走してしまう組織があるのか?

それらと旧livedoor、さらにナチスの“陳腐な悪人”アインヒマンの残虐性などには、一つの共通点があった。

一言でいえば、「美意識の欠如」。

要するに自分たち自身の内部に「真・善・美」を測るモノサシが内在していないということである。

大学入試等の受験勉強というのは、「こうすればうまく行く」という分かりやすい成功の公式がある世界である。だから、分かりやすい成功の公式に、盲目的に従って進んでいける者が有利な世界である。

予備校講師の私からしたら、いくら「こうすればうまく行く」って教えても、その通りにしてくれる生徒が少ないのが悩みなんだけどね😅

いくら分かりやすい成功の公式を示しも、それに従える者が少なければ少ないからこそ、盲目的に従える者は容易には結果を出すことができる。

だが、分かりやすい成功の公式に思考を停止して盲目的に従って成功した者は、大学で一筋縄に行かない学問の世界や、様々な人間が絡んで複雑化する社会などファジーな世界に飛び込んだときに途方に暮れやすい。

そんな彼らだから、やがて分かりやすい成功の公式に飢えるようになる。

オウム真理教に跳びついて信者になった偏差値エリート達の行動の根っこには、どうもそんな公式への渇望があったと推定されているらしい。何故なら、オウム真理教では「奇妙な位階システム」がとられ、それこそまさに「分かりやすい成功の公式」であったからである。オウムでは、「単純でわかりやすい階層」が提示され、教祖の指示する修行を行えば「あっという間に階層を上りきって解脱することができ」たそうである。
「大学を出た後に社会に出たものの、世の中の不条理さに傷つき、憤り、絶望して」分かりやすい成功の公式に飢えていた彼らにとって、オウムのシステムはとても心地よかったわけである。

そして、オウムに走った偏差値エリート達にはもう一つの傾向があった。

彼らの殆どは、勉強ができるくせに文学に全く親しんでいなかったそうだ😱。

これは意外だし、大切な指摘かも知れない。

かく言う私も文学は苦手な方で、実際noteの感想文を見直して見る限り、小説は一つもない。それでも、昨年に一冊詩集を読んでいる(【読了 2023 No.39】)。

また、大学を出て一般企業の営業をしていた一年間は、生きる意義を見失い、それを探そうと模索したらしく、人生で一番小説を読み漁った。(営業先の喫茶店☕でサボってたついでに読んでいたって面もあるけどね😅)

こうすればこうなる的な公式のない世界を生きるための道標ってのは、データの蓄積等ではなく、実は文学も含めた芸術や哲学書等によって磨いた己の「美意識」なのだというのが作者山口氏の主張なのだ。

己の中に内在する確固なる「真・善・美」のモノサシ。それ即ち美学”なのである。これを「身につける」レベルではない「鍛える」レベルの教養なのである。だから、そのためにも哲学を学び、美術鑑賞を意欲的に行い、文学に親しまなければならないのである。

でも、ここで疑問。

クラシカルなアートやミュージックの鑑賞にこだわる必要はないのではないか?

ポップミュージックやダンス、それから漫画の鑑賞だって美意識は鍛えられるのではないか?漫画の主人公ってのは必ず強いだけではなく、潔くて優しい。「不正」からは最も遠い人たちである。彼らの生き方を学ぶことは有効ではないのか?

山口氏はその点をどう思われるか?

…と疑問が湧いたときふと気がついた。この本って2017年初出で、HRアワード(書籍部門)で最優秀賞獲ったのは2018年であること。この頃はまだジャーニーズ全盛で、日本の特に男子のポップアートが伸び悩んでいた時期だったよね。

ジャニーズの不祥事なんて、肥大化した組織が、美学の無いトップやトップの一族に私物化された結果崩壊した実例。この本は、いわばジャニーズ崩壊の予言書でもある。

ジャニーズ崩壊と平行して、BE:FIRST のような本格派ボーイズグループが台頭してきたのも象徴的かも知れない。彼らを率いるSKY-HI社長自身がアーティストとしての実績があり、高い美学と教養を持っている。その上、未だプレーイングマネージャーなわけだから。

このような「美意識」を鍛えたトップが率いる組織が台頭し、「美学」の無いトップに率いられた組織が崩壊する。

もう既に山口氏の予言通りの世の中が日本のポップアートの世界でははじまっているのかも知れない。

それに比べ、美意識に欠けるトップに率いられた多くの日本の組織に所属する者はどうすべきなのだろうか?

それこそBE:FIRST の曲『Milli-Billi』の歌詞に「美学の無い亡者たちは彼方」ってのがあって、この歌詞はSKY-HI社長の作詞で、なかなか深くて考えさせられるものがある。

美学の無いトップをクーデターを起こして遠い彼方に追い出すことなのか?

それとも、こちらが組織を見限って、「そんなのは遠い彼方」とばかりに飛び立つべきなのか?

「世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」
『万葉集』所載の山上憶良の歌。

この問題は、なかなか答えが出ないのは、今も昔も同じってことだよね🤪


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