見出し画像

【読書】多様性の科学

こんにちは、みずのです。
マシュー・サイド著の「多様性の科学」を読んだのでまとめておきます。
今回は原文の章立ては気にせずに自分なりの理解でまとめています。

昨今、企業や組織において「多様性」が重要視されるようになってきています。しかしながらその論調は、組織における差別や倫理的な問題の解消のためといったものが多いのが現状です。
本書では「多様性」を業績を上げたり、イノベーションを起こす要因として捉え、様々な事例を取り上げながら「多様性」がいかに役立つのか、「多様性」を維持することが難しい理由、そして「多様性」を活かすために意識すべきことを取り上げています。

1.問題解決には多様性が必要

現代社会が直面する課題は個人で挑むには問題が複雑すぎています。
そのような環境下では「多様性」は激しい競争を勝ち抜くカギになります。
例えば以下のような調査結果がでています。

アメリカの経済学者チャド・スパーパーの調査
司法・保健サービス・金融業務において、職員の人種的多様性が
平均より1標準偏差上がっただけで生産性が25%高まった。

マッキンゼーのがドイツとイギリスの企業を対象に行った分析
経営陣の人種・性別の多様性の豊かさが上位4分の1に入っている企業は
下位4分の1の企業に比べて自己資本利益率が66%高い。

集合知は多様な人々が各自の知識を持ち寄ることで生まれるものです。
一人ひとりが間違った情報を出すことはありますが、価値ある情報が正解の一点を向いている一方で間違った情報はそれぞれ違った方向を向いているため、正しい情報が蓄積する一方で、間違った情報は互いを相殺しあいます
また、問題解決のためには発想が数多くでることが必要で、多様性のある集団だと異なる角度からアイデアを出して前進していくことができます。
一方で、仮に一人一人がどれだけ優秀だとしても、画一的なグループでは皆似たような視点で考えてしまい、本来見なければならないデータや観点を見過ごしてしまうことがあります。

とはいえ、短距離走者を選ぶような単純なタスクの場合、多様性は不要で「とにかく足が速い」人を単純に選ぶのが一番良い方法です。ただし、複雑化した現在社会においてはそのような簡単な問題はあまりありません。

2.多様性の種類

ひとくちに「多様性」と言っても、何についての多様性なのかによって意味合いは変わってきます。大きく分けると以下の2種類があります。

人口統計学的多様性:人種・性別・階級などの違い
認知的多様性:ものの見方や考え方の違い

一般的に人口統計学的多様性が高ければ、認知的多様性も高まることが多いはずです。文化的背景が異なれば経験や考え方の枠組みも異なるからです。
ただし、同じ教授から学んだ場合など、肌の色や性別が異なっても同じような考え方を持つ場合もあり得ます。
あくまで重要なのは認知的な多様性の方です。
問題解決にはただ多様な人を集めるのではなく、対処する問題と密接に関連し、かつ相乗効果を生み出す視点を持った人を見つける必要があります。

3.多様性はどうして維持するのが難しいのか

■多様性のある環境はストレス
多様な人が集まると多角的な視点から議論がなされ、反対意見も多くでるものです。そのために多様性のある終電での話し合いはストレスのかかるものになり、メンバーは出した答えにも自信を持ちにくくなります。
一方で、人は同じような考え方の仲間に囲まれていると安心します。
画一的な集団では意見が合いやすいので気持ちよく話し合いができ、自分は正しく頭がいいと感じていられるからです。

■ソロモン・アッシュの「同調傾向」
最初は多様性に富む集団でも、そのうち主流となる考え方に同化してしまうことがよくあります。彼の研究では、「人がほかの人と同じ答えを出すのは他人の答えを正しいと信じるからではなく、自分が答えを出して和を乱す人間だと思われたくないから」だということがわかっています。

■エコチェンバー現象
人は大きなコミュニティに属すると、より狭いネットワークを構築する傾向があります。(交流できる人の数が多いということは、自分と似ている人の数も多いので、自分と似た考え方の人を見つけられる可能性が高いため)
現代社会においては、インターネットの広がりによる多様性とは裏腹に、同じ思想を持つ画一的な集団が点々と存在する場になっています。
エコチェンバー現象とは、同じ意見の者同士でコミュニケーションを繰り返し、特定の信念が強化される現象のことです。
さらに異なる意見を徹底的に攻撃し、反対意見を述べる人物自体の信ぴょう性を貶めて自分たちを正当化するといったことがなされるようになると、集団内に生まれる結束力によってより狂信的になってしまうこともあります。

4.多様性を活かすために必要なヒエラルキーと情報共有

チームで問題解決にあたる際には各自が見えている視点や有益な情報の共有が欠かせません。その際に支配的なリーダーがいると抑圧を招き、意見の表明や情報共有がされなくなって多様性が失われてしまいます。
しかしながら集団にはリーダーが必要不可欠です。リーダーがいなければ何も決断がなされない可能性があり、リーダーが複数いる体制では責任の所在があいまいになってアイデアを殺してしまうことにつながります。
ヒエラルキーと情報共有という相反する2つのバランスが重要となります。
そこで、ヒエラルキーの種類を考える必要があります。

支配型ヒエラルキー:
従属者は恐怖で支配された結果、リーダーを真似るようになる。
誰かの地位が上がれば他の誰かが蹴落とされる「ゼロサム環境」となる。

尊敬型ヒエラルキー:
ロールモデルであるリーダーに対し、自主的に敬意を抱いてその行動を
真似る。リーダーの寛容な態度が従属者にコピーされて集団全体が協力的な 体制を築いていく。「ポジティブ・サム」的な環境が強化される。

新たなアイデアを出したり、複雑な課題に対処する際には尊敬型ヒエラルキーが必要です。自分と異なる意見をリーダーが自分に対する脅威と受け止めず、報復しない。誰もが自由に意見を出し合える環境が重要であり、「心理的安全性」の理論にも符合します。

しかしながら、人は不確かな状況に直面すると、支配的なリーダーを支持して秩序を取り戻そうとする傾向があります。そのような場合にこそ多様な声を聴いて集合知を得ることが肝心ですが、無意識のうちに強力な主導力を求めてしまうパラドックスが生じます。

5.多様性を取り除くことで起きる平均値の落とし穴

我々の社会では様々な物事が標準化されており、そこでは個々の人間を見ずに「平均値」として扱っています。
場合によっては平均値を用いることが理にかなっていることもありますが、無意識にそうしているケースが多いことは問題です。
例えば、ダイエット方法や食事療法には流行りすたりがあり、それぞれ矛盾する内容であることも多いですが、昨今ではすべての人に最適な食事療法があるという前提そのものが根本的に間違っているということが明らかになりつつあります。

6.多様性はイノベーションの源でもある

イノベーションには以下の2種類があります。

漸進的イノベーション
ある程度方向性が決まった中で段階的にアイデアを深めていくタイプのイノベーション。

融合のイノベーション
それまで関連のなかった異分野のアイデアを融合することによるイノベーション。

現代においては融合が進化の原動力になりつつあります。
そこで重要な役割を果たすのは、従来の枠組みを飛び越えて異なる分野間の橋渡しを行い、融合のイノベーションを起こすことができる人々です。
それには当事者の持つ専門知識に加え、そこから距離をとることによる第三者のマインドセットが求められます。

さらにアイデアは共有されると再現なくどんどん広がっていきます。単にその知識を持つ人の数が増えるだけでなく、他のたくさんのアイデアと融合される機会も生まれます。アイデアは新たなアイデアを誘発し、アイデアの共有を促す環境は生産的かつ革新的になるのです。
ただし、アイデアや情報の波及効果は多様な人々がつながって初めてもたらされますイノベーションを起こすためには個々人の頭のよさよりも社交性が重要なのです。

7.多様性のもたらす集合知が人類を繫栄させる

組織や社会の今後の繁栄は、個々人の違いを活かせるかどうかにかかっています。その障害となるのは、複雑で多次元的な問題を一面的・直線的に解こうとする考え方、もしくは全体論的な観点を忘れ個人主義的な観点から物事を見てわかったつもりになる現象です。
実際、今日の社会ではまだまだ個人主義の傾向が強く、個人が知識や洞察力を高める方法や、認知バイアスから逃れる方法を模索してきました。
しかしながら、個人ばかりに焦点を当てて全体論的な視点を失うようなことがあってはならないのです。これからは集合知の時代です。

さらに、そもそも多様性は単に個人や組織の成功を助けるだけのものではなく、人類に進化をもたらしてきた重要な要素でもあります。
人類はここまで繁栄したのは、知恵の高さが要因だと言われることもありますが、その知能の高さをもたらしたのは「アイデアの蓄積」です。
実際、人類学者によって人類の祖先はネアンデルタール人よりも知能が低かった可能性が指摘されています。
しかしながら、人類の祖先はほかの種よりもよりも密につながりあった集団で生活しており、社交性がありました。
それによって仲間同士で学習が進み、さらに自然淘汰で社会的学習能力の高い者が生き残るようになって前の世代で学んだ知恵を共有し、後世に伝えていくことで知恵がどんどん積み重なっていったのです。
一人ひとりの知能はネアンデルタール人よりも劣っていたとしても、集団の中で知恵やアイデアが蓄積され、融合のイノベーションが起きます。
多様性による集合知こそが人類の繁栄をもたらしたと言えるのです。

8.日常に多様性を取り込むために必要なこと

仕事や私生活に多様性を取り込むためには以下の点に意識を向けることが必要だと述べられています。

■「無意識のバイアス」を取り除く
無意識のバイアスとは自分では気づかないうちに持っている偏見や固定観念のこと
です。
才能ある人々が人権や性別に関する無意識のバイアスによって理不尽に
チャンスを奪われるケースが多々あります。

候補者の実力差がはっきりしている場合には無意識バイアスは現れません。
しかし、実力が競っている場合には無意識バイアスが忍び込んで大きな影響力を持つようになります。そして小さなバイアスは積み重なっていきます。こうした問題が社会的・民族的マイノリティに格差をもたらしています。
小さな無意識のバイアスは歴史的に積み重なった結果、人々の意欲を歪め、構造的なバイアスになって社会の一部に大きな壁を作っているのです。

無意識バイアスを取り除くことは公平な社会の実現に寄与するだけでなく
集合知の高い社会に向けての第一歩でもあります。

■影の理事会
無意識のバイアスを取り除くだけでは、認知の多様性を広げることにはなりません。何か重要な決断や判断について、年功序列にとらわれずに意見を述べられる場の設定を行うことを、本書では「影の理事会」と呼んでいます。
異なる世代に育てば文化的な背景も異なります。それがものの見方や考え方に様々な影響を及ぼし、結果的に認知の多様性を広げるのです。

■与える姿勢
多様な社会において他者とのコラボレーションを成功させるためには、自分の考えや知恵を相手と共有しようという心構えが必要です。
そうしたあたら得る姿勢があって初めて受け取る機会も得られるのです。
実際いくつかの研究において、「ギバー」は成功をおさめやすいという結果が出ています。

9.まとめと感想

自分が所属する企業でも「多様性」を推進する取り組みを積極的に
行っていますが、社員からもいろんな意見があり自分でも腹落ちしない
部分があったので、理解を深めるために読みました。
「今後の企業経営には多様性が必要」といったフレーズは昨今よく目にしますが、本書内でもあったように、どちらかというと公平性や倫理的な観点から考えていて企業の成長に直結するという論理に納得できていなかったのが正直なところです。この本を読んで解像度が上がり、多様性の本質は集合知なのだということが理解できてきました。
CIAの組織をはじめ色々な事例を出しながら説明されているので、納得しながら読みたい方は原文を読むことをお勧めします。

最後までお読みいただきありがとうございました!

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?