現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その53)
翌日の早朝、中納言の君のもとに後朝《きぬぎぬ》の歌が届いた。
打ち解けて結ばぬ夢のはかなさに
今朝《けさ》しもものをまた思ふかな
(打ち解けて契りを結ぶこともできなかった夢のような儚《はかな》い逢瀬《おうせ》を思い出し、今朝もまた物思いに沈んでいます)
筆遣いや墨継《すみつ》ぎが見たことのない素晴らしさで、「これこそがこの世の思い出になるものだ」と中納言の君は感動した。
しかし、いつものように女三宮《おんなさんのみや》に宛てた手紙も添えられていた。