現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その48)

 権中納言は、見知らぬ者が見ても涙が零《こぼ》れるような姫君の姿をつくづくと見つめた。
「きっと女三宮《おんなさんのみや》もこのように美しい容姿なのであろう」
 やつれた身に藤衣《ふじごろも》(喪服)を纏《まと》った姿を慕わしく思い浮かべながら姫君に声を掛けた。
「このように顔を合わせる間柄となってからは、あなたのことを特別に思い、この上なく親しい人だと思っています。わたし自身は喪中ではありませんが、日頃からいたわしく見える墨染めの色が、あなたとの間に心の隔てがあるような気がしてなりません。

  かぎりありて二人は染めぬ色なれど
  心に深き墨染めの袖
 (世間の決まりで、あなたと同じ色の衣を着ることはできませんが、心の中で墨染めの衣を身に纏《まと》い、袖を涙で濡《ぬ》らしています)

 見ず知らずの他人でさえ心配するのですから、まして実の兄であるわたしがむやみに心を動かされるのは当然のことです」
(続く)

 権中納言は、対屋《たいのや》(別邸)にいる姫君に、いたわりの歌を送ります。相手が妹だと理解した上での歌ですが、恋愛要素を読み取ることも可能な内容になっていて、姫君と女三宮、音羽山の姫君の区別があまりできていないように思われます。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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