現代語訳『さいき』(その24)
対面した正室は、目映《まばゆ》いばかりの相手の美貌に胸を衝《つ》かれた。
「何と気品のある女性でしょう。武帝《ぶてい》の李夫人《りふじん》や楊貴妃《ようきひ》、衣通姫《そとおりひめ》、小野小町《おののこまち》といった伝説の美女たちと比べてもまったく遜色なく、あまりの美しさに茫然《ぼうぜん》とします。殿《との》はこれほどの方を見放したのですから、ましてやこのわたくしのことは、長い在京中に一度たりとも思い出さなかったに相違なく、不得心な人を頼みに思っていた自分が嘆かわしくてなり