現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その50)

 三月十日の夕月夜《ゆうづきよ》がほのかに霞《かす》み渡り、寂しげな心尽くしの雲の様子に、権中納言はとりとめもなく物思いにふけりながら感じ入り、身動き一つできないでいた。長年、甲斐《かい》のない独り寝も当たり前になっているため、いまさら女四宮《おんなよんのみや》と寝屋《ねや》を共にするのも胸が痛く、流れる涙が止まらない。いつもの垣間見《かいまみ》で心を慰めようと、女三宮《おんなさんのみや》のいる三条の宮に忍び入った。
(続く)

 女四宮との婚約が憂鬱《ゆううつ》な権中納言は、気持ちを慰めるために女三宮の屋敷に忍び入ります。これは前回、姫君の美しさに心を奪われ、容姿が似ている女三宮(姫君の姉妹)を思い出したことが影響しているのは間違いありません。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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