現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その51)

 いつものように権中納言から不愉快な手引きをせき立てられて、中納言の君はいっそう従う気が失《う》せた。
「まったく気のない宮様に、このような恨み言を伝えるのは無駄なことだ」
 ひどく警戒し、以前にもまして返事すらしない相手の態度に、権中納言は不満を抱いた。
「それでしたら、今宵《こよい》を最後に女三宮《おんなさんのみや》への思いはきっぱりと諦めます。古歌で『ありしよりけにものぞ悲しき(以前にもまして悲しくてつらいことだ)』と詠まれたように、わたしの心は悲しみに打ちひしがれています。たとえ我が身が亡きものになったとしても、人伝《ひとづ》てではなく、直接会って気持ちを伝えたいのです。どうか見ていてください。女三宮には決して手を出しません。もし許してもらえるなら、御簾《みす》の外、簀子《すのこ》の前の庭に立ち、空の月日に向かってこの悲しみを訴えたいのです。ただ、御帳《みちょう》のそばで、ほんの少しの間だけいさせて欲しいのです」
(続く)

 女三宮の住まう屋敷に忍び入った権中納言は、女房の中納言の君をつかまえて逢瀬の手引きをするように責め立てます。
 中納言の君は権中納言に気がある上に、主人もまったく気がないので承諾するつもりはありませんが、女四宮との結婚が迫っている権中納言はもう後がなく、必死に食い下がります。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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