現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その54)

 仏道修行ばかりに心をいれる女三宮は、今朝も早くから手水《ちょうず》で顔を清め、女房たちから離れた場所にいた。中納言の君はいい機会だと、権中納言の手紙に返事をするように急《せ》かしたものの、顔を少し赤らめるばかりで何も言わなかった。黒い数珠《じゅず》に映《は》えた手つきは言うまでもなく、持っている経文にまで光が移るように見え、中納言の君はいっときも目が離せずにいた。
(続く)

 中納言の君は女三宮に対し、権中納言からの手紙を読むように勧めますが、相変わらずまともに読もうともしません。心中が描写されないため、権中納言に対してどのように思っているかは定かではありませんが、母親の皇后宮が死去した直後ですので、デリカシーに欠ける相手だと見なしていた可能性は高いと思われます。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


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