【演劇】『VIVA LA VALENTINE』を観ました【感想の類】

VIVA LA VALENTINE
㈱サンリオエンターテイメント/劇団ノーミーツ
オンライン劇場「ZA」

※この感想はネタバレを含みます。
※画像の掲載は公式が許可しているため行なっています。


私はサンリオのエンタメが好きだ。

大人になってから初めて友人に連れられてサンリオピューロランドに足を踏み入れた時の衝撃は忘れられない。
どこもかしこも「KAWAII」に満ちていて、パレードやショーの類は子ども向けながら強いメッセージを放っている。大人のファンが多いのも、キティちゃんをはじめとしたキャラクターが発する「決して子ども騙しではない台詞」に込められている"想い"が、社会に出た大人の方に刺さってしまったりするからだと思う。

今回観たものは通称「ビバラバ」。

キャッチーなフレーズに、なんとなくTwitterをスクロールする指が止まった。演劇もピューロランドも好きな私からしてみれば"閉園後のピューロランドでオンライン演劇"というパワーワードに動かないわけにはいかない。

コロナ禍で足が遠のいていた多摩センターへ想いを馳せながら、チケットを購入した。


サンリオが発信するキャラ付けへの問題提起

ビバラバは「バレンタインは女の子が男の子に気持ちを伝えてチョコをあげる日」というイメージに対し「男の子から女の子に気持ちを伝えたっていいじゃないか!」というメッセージをぶつけている。

サンリオのいいところは、こういうアプローチが説教臭い表現に落ちないところだ。子どもも楽しむコンテンツとしての意識もあるからだろうが、シンプルに、素直に、「世界はこうあったらいいのに」という言葉を投げかけてくれる。日々、インターネットやテレビで繰り広げられている強い言葉の議論よりも遥かに共感しやすい。


さて、それはそれとして、サンリオのキャラクターがビバラバをやったことで生まれたインパクトは強烈だった。


冒頭、菓子メーカーとのタイアップによるバレンタインがテーマの劇中劇『ビバラバ』のリハ風景。終了後、サンリオ側の現場責任者(と言っていいかはちょっと分からないが)のもてぎさんから釘を刺されるダニエル
どうやら、ラストシーンでキティがダニエルにチョコを渡すシーン、ダニエルが指定の演出と違うことをしようとしていたようで「勝手なことは駄目だよ」と怒られているようだ。

というのも、今回のお芝居の演出はダニエルで、元々は彼が考えた「素直」がテーマの演出になる筈だった。ところが、メーカー側からバツを喰らい、メーカー意向を優先した結果、ダニエルの納得のいかない仕上りになっているようだ。

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一人落ち込み、自販機で飲み物を買うダニエル。そんなシブい後ろ姿初めて見た。残業を終えて終電で帰宅するサラリーマンとかでやる演出。

そんな彼が落ち込んでいる理由は、納得のいくことをやらせてもらえない、という点だけではない。

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そう、ビバラバを通してキティへ想いを伝えたいのだ。

これ、ちょっとだけびっくりした。
というのも、ダニエルはキティに対してスマートにエスコートしている印象が強い。
それなのにビバラバでは結構フクザツな心境の中、キティに想いを伝えるということに対して強く葛藤を抱いている様子が描かれる。

登場人物に菓子メーカー企画担当・こむろさんという女性がいる。彼女は終盤で大きな活躍を見せてくれる人だが、サンリオキャラクター達が自分が思っていた以上に様々な想いを抱えていることへの意外性について言及している。

例えば、マイメロの敵役であるクロミちゃんは、ふわふわの白いドレスでヒロインになりたい!という想いを持っていたり。

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また、シナモンはいつも周りから「可愛い」と言われているが、たまには「カッコいい!」と言われるため、DJプレイをかましながらヒップホップをしてみたいと思っていた。

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それもこれも、実はダニエルが当初演出予定だった「素直」のテーマに含まれていた。しかし「女の子は可愛いものが好き」「悪役のクロミをキティが倒す分かりやすい構図」がウケると思っている菓子メーカーのお偉いさん・よしいけさんに却下されてしまったというわけだ。

このキャライメージへ反発するという描写、何気にすごい一石を投じた感がある。


いわゆる”キャラ付け”というものは、古い言葉になりつつある。
これまでは、芸能人やアイドルには必ず「イメージ」というものが付いて回り、それが○○キャラとして一般化されていく。そこでキャラと違うことをすると「キャラ(イメージ)が違う」と批判される。これが世間 対 芸能人の図式だった。

しかし、最近は"本人の意志"が重視されるようになり、その一例として、ついこの間はアイドルの恋愛禁止令についてネット上で議論が上がっていた。
とはいえ、テレビでは「男"なのに"可愛いものが好き!」みたいな言い回しの方が繁茂している気がするし、そもそも世代で大きく認識のずれがあるため、そういう価値観が当たり前になるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

だが、ビバラバではそれをサンリオキャラクターが主張している。

言ってしまえば、キャラクターとは架空の存在。だからこそ需要に合わせた幻想を作れるし、もっとえげつない表現をするならば、商売的に都合がいい存在だ。架空のキャラは、スキャンダルは絶対に起こさない。

そのキャラクターが「本当はイメージと違う○○がしたいんだ!」と語るのは、コンテンツを根本から揺るがす危うさすら感じるセンセーショナルな場面である。
イメージから生まれたようなキャラクター達がそれを訴え、大人の事情によって抑圧される…なんとも言えないリアルなエグみがある。

アイドルに恋人がいてショックを受けるのは、これまでのイメージを信奉してきたファンからすると裏切られたような気持ちになるからだろう(もちろんルールを破ったということもあるだろうが)。
でもこれからは、エンターテイナーだろうと一個人としての人格を尊重することがファンの形になっていくのかもしれない。


思い通りにいかない大人たち

私も日々サンリオからメッセージを受け取っているが、現実にそれを持ち帰るのはなかなかしんどい。
世の中はそう簡単に人の気持ちを汲んでくれないし、相手に一生懸命伝えようとしても上手く伝わらないことの方がほとんどだ。相手も相手で長年凝り固まっている本人なりの考え方があるし、それに対して主張をする自分自身にもそういうものがないとは言い切れない。

ビバラバでは思い通りにならないまま働く大人たちが出てくる。
その代表が菓子メーカーの企画担当・こむろさんだ。

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業を煮やしたダニエルに「本来のテーマでビバラバをやりたい」と主張され「そんなこと言われても自分の立場上無理なものは無理!」という態度を返すこむろさん。その表情からも、サンリオを愛しながらコンテンツを尊重出来ないことへの自己嫌悪や戸惑いが見てとれる。

また、一方ではポムポムプリンと何度か会話を重ねることになる、舞台スタッフのすずきさん。彼は夢を追うことよりも、役者だけでは食っていけない現実を見た結果、スタッフ側の仕事に就いたのだ。しかし、その選択に本人が納得していないことをあっさりプリンさんに見抜かれ、最後はビバラバのステージに立つ決意をした。
※この辺夢中で全然スクショを撮っていない

他にも、冒頭ダニエルに釘を刺したもてぎさんも、実はメーカー側のキャラクターの扱いには納得がいっていなかったことが分かる。そんな彼も本番はきちんとお客さんを最優先にするプロ意識を見せてくれた。

こういう働く大人たちの葛藤は、様々な取捨選択をしてきた大人にしかきっと分からないことだろう…。毎日納得のいかないことが連続しているような現実に生きる人は、ダニエルの主張に反発するこむろさんのことは絶対に憎めない筈だ。

そうはいっても、やっぱりすぐ行動するのなんて難しい。それでもこむろさんに声を掛けたキティのような存在が一人、二人と増えていけば、本当に素直な気持ちのまま生きやすくなるのかもしれない。

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「世界を待たなくていいよ」

このフレーズに強く惹かれた。
自分が自分らしく素直に生きることに罪悪感や抵抗は要らないのだ。

ラストでメーカーお偉いさんのよしいけさんが、キティの言葉とビバラバに影響されたのか、ピューロの可愛らしいお菓子のお土産を奥さんに買っていくシーンが入る。

「柄じゃないって笑われると思う」

という彼の言葉に店員さんは

いいじゃないですか。笑われても」と。

私だったら「きっと笑いませんよ」と返してしまいそうなところだ…いやはや、あっぱれ、サンリオ。


これからのこと

私は女の子キャラクターがメインコンテンツのソシャゲをいくつかプレイしているが、時期も時期なのでちょうどバレンタインイベント限定のストーリーが配信されていた。
少し驚いたのが、どちらも「本命チョコ」の括りに、同じユニットメンバーだとか友達とか、いずれにしても女の子へあげるチョコを本命扱いしていた。ゲームによっては「友チョコ」というワードが出たにも関わらず、それと「本命」は区別化されていたのだ。
もしかすると"百合狙い"とか言われているのかもしれないが、公式の意向に関わりなく、そういう「本命」の使い方はアリだな、と初めて思った。

ダニエルのように男の子から女の子へ、もそうだし、「本命」で想いが強いからって必ずしも恋愛に結び付けなくていいし。

伝えたい気持ちに嘘がないのなら、「男があげるのおかしいじゃん!」とか「女同士なら友チョコでしょ」とか、言われる筋合いはない筈だ。

かと言って、これをリベラルな考えとして一般化するというのは行き過ぎかもしれないが、もっと自由で素直な気持ちが拡がることで、ようやくその日が特別になれるのかもしれない。


VIVA LA VALENTINE!!!

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