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なつめさんのおしごと【ショートショート】

とある町の住宅街。赤い屋根の家。

その家に、ある1匹の猫が迷い込んできました。

その猫は、白黒のはちわれさんです。手足が白くて、まるで靴下と手袋をはいているみたい。胸からお腹も白いので、タキシードを着ているようでした。

その猫はまだ子猫でした。お腹が空いているし、眠たくなった子猫は、ちょっと鳴いてみる事にしました。


「みゃーみゃー」

どこからか猫の声らしきものがします。
お母さんは庭に出て声がする方を探してみました。すると、そこには白黒のはちわれさんの子猫がいました。

「あら、子猫ちゃん。あなたどこから来たの?」

子猫はお母さんを見つめると、足元にすりすりしてきます。そんな子猫を見たお母さんは、子猫を抱き上げます。

「あなた、虹の橋を渡ってしまったみーちゃんそっくりねぇ。」

そう言うと、子猫を抱っこしたまま家の中に入っていきました。子猫は抱っこされながらも舌をペロっと出してニンマリするのでした。


実は、この子猫はただのかわいい子猫ではなかったのです。

子猫には重要な任務が任されていました。子猫はなんと「ぬこぬこねっとわーく」の精鋭部隊の一員だったのです。

ぬこぬこねっとわーくとは
ぬこぬこねっとわーく、略してNNNは「猫の」「猫による」「猫のための生活向上」を目指した秘密結社なのである。
そこに所属する猫は、人間に取り入るため厳しい訓練を受ける。人間をげぼくにするために、かわいく見える仕草や鳴き方などすべてをマスターしなければならない。
そんな訓練を優秀な成績でマスターしたものは精鋭部隊として、人間のもとに送り込まれる。
精鋭部隊の猫は、人間をげぼくにするため日々の仕事を怠らない。
さらに、大勢の人間をげぼくにするため、優良物件をNNNに報告しているのである。一度優良物件としてNNNに登録されたら最後、常に新たな猫が送り込まれる事になる。

子猫は、なんとこのような組織の一員だったのです。今回のこの出会いも、NNNにより仕組まれた事だったのです。


夜になり、家族のみんなが帰ってきました。

「あー、猫!みーちゃんそっくり。」

「名前は何にする?」

などなど子猫を囲んで盛り上がっています。
名前を決めようとするけれど、なかなか決まりません。お姉ちゃんもお兄ちゃんもお父さんも候補を出すけれど、しっくりきません。
すると、お母さんが言いました。

「吾輩は猫である。名前はまだない。ねぇ。」

その言葉に、お姉ちゃんが言いました。

「じゃあさ、なつめさんでいいんじゃない?夏目漱石のなつめ。ちゃんとさんもつけてさ。」

なつめさん。
思ったよりかわいい名前に、家族のみんなも賛成です。子猫の名前はなつめさんに決まりました。

なつめさんは家族のみんなにかわいがられます。
ごはんを食べても、猫じゃらしで遊んでいても。何をしてもかわいいかわいいと言われるばかり。

なつめさんは、みんなが自分に夢中になるのをにこにこしながら眺めています。なつめさんは、重要な任務をひとつ果たしたのでした。この家のみんなは、すっかりげぼくになったのです。


そんなある日。なつめさんは散歩に出掛けました。公園に立ち寄るとNNNに報告をします。

「こちら033です。派遣先の人間はみんなげぼくになりました。今の名前はなつめになりました。仕事は順調です。」

NNNからは、これからも人間をメロメロにさせるように指令が出ました。


公園をのんびり歩いていると、ベンチにひとりの若い男の人が座っています。なつめさんが近づくと、男の人は話し掛けてきました。

「かわいいにゃんこだね。にゃんこ、ちょっと聞いておくれよ。」

男の人はなつめさんに話しかけます。そのお話というのは、赤い屋根の家の女の子が好きな事。でも、話し掛ける事ができない事。どうしようかと悩んでいる、という事でした。

なつめさんは、その女の子はお姉ちゃんの事だと分かりました。なつめさんは、この男の人はいい人だと思いました。NNNで訓練を受けた時にいい人間の見分け方も習っていたからです。


すると、どうでしょう。
公園の前をお姉ちゃんが通りかかりました。なつめさんは一生懸命に鳴いてみました。

「にゃーん!」

泣き声に気付いたお姉ちゃんは、公園にやって来ました。

「なつめさん!散歩?一緒に帰ろう。」

お姉ちゃんは、男の人に気が付くと声を掛けました。

「あれ、松本君。どうしたの?なつめさんも懐いてるね。」

「あ、この子、ゆみちゃんちの猫なんだ。かわいいね。」

お姉ちゃんと松本君は仲良く話しています。そんな様子を見たなつめさんはいい事を思いつきました。


翌朝、なつめさんはNNNに連絡を入れます。

「こちら033のなつめです。げぼく候補を見つけました。精鋭部隊の派遣をお願いします。」

昨日と同じくらいの時間に、また公園に行ったなつめさん。今日も松本君がいました。松本君はなつめさんを見つけると話し掛けてきます。

「なつめさん。昨日はありがとう。おかげで、ゆみちゃんと話す事ができたよ!」

すると、公園のどこかで子猫の声がします。なつめさんはにやにやしながら声の方に行ってみます。後ろからは松本君もついてきます。

「あ!!子猫!!」

松本君は子猫をおそるおそる抱っこします。真っ白な青い瞳の子猫。松本君を見つめてかわいく鳴いてみせる子猫。松本君はすっかり子猫に夢中です。

「なつめさん。俺、この子を飼うよ!!」

なつめさんは、にやにやが止まりません。仕組んだことがうまくいったからです。


それからは。
なつめさんは、あいかわらずお母さんやお姉ちゃんやお父さん、お兄ちゃんにかわいがられて、ぬくぬくと暮らしています。
時々はNNNにげぼく候補の報告をしたり、精鋭部隊としての仕事もしています。けれど、毎日が楽しくて、仕事の事は最近サボり気味なのです。

そして、松本君と子猫は。
子猫はこゆきという名前を付けてもらって、松本君と松本君の家族と楽しく暮らしています。
こゆきも毎日の暮らしが楽しくて、快適でNNNの仕事をサボってばかりいます。だから、NNNから催促の連絡が入ったりするのです。

なつめさんは、こゆきともよく遊びます。そんな時は、お姉ちゃんと松本君も一緒です。いつのまにか、2人はすっかり仲良くなっています。
そんな2人の様子をにこにこしながら眺める、なつめさんとこゆきです。
なつめさんとこゆきは、このげぼくたちと暮らせて良かったと改めて思うのでした。

ーおしまいー


なつめさんは、うちではじめて飼った猫です。はちわれさんのかわいい猫でした。名前を付けるくだりは実話です。夏目漱石から取ったなつめさんなのです。
今は虹の橋を渡ってしまいましたが、なつめさんの事は今でも大好きです。なつめさんの子供が、今いるくろちゃんです。

natsu コピー


そして、NNNは本当に実在するのです。
我が家は優良物件としてロックオンされている模様ですw


⭐今回はえぴさんの企画に参加させて頂きました⭐




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