【シロクマ文芸部】やさしい海風は秋色をしていた
「風の色って目には見えないよね」
「いきなり何?それがどうかしたの?」
「目には見えないけど、なんとなく色があるような気がしない?」
「そうか?俺には分からないよ。でも、ユキがそう言うのならあるのかもね」
ユキは二人で行った海へ一人やって来た。秋の海は静けさを取り戻し、つい最近までの賑やかさはまるでない。誰もいない海岸を俯き加減に歩きながら、いつか二人で交わした会話を思い出していた。
あの時は、とても幸せだった。あの時は、ここを一人で歩く日が来るなど思いもしなかった。彼がいなくなって、彼の存在は日に日にユキの中で大きくなっていく。
ユキを抱きしめて、愛をささやく彼はもういないのだ。彼は夏が終わるとユキの前からいなくなり、他の女性の所へ行ってしまった。彼にとって、ユキは一番の女性ではなかったのだろう。そんな人だと見抜けなかった自分の事をユキは恨めしく思うのだった。
あの時と同じように砂浜で風を感じていると、遠くに彼がいるような気がする。そんな事はある訳がないのに、過ぎた日々を思い出すと胸がずきずきと痛む。ユキは、彼は今頃どうしているのだろうと空を見上げて問い掛けてみる。問い掛けても答えてはくれない空から視線を外す事がいつまでもできなかった。
空には鱗雲が浮かんでいる。もう秋なんだな、季節は移ろっているのだなと思うユキの瞳から涙がぽとりぽとりと落ちて、砂浜にすっと消えていった。海風が涙を拭うようにユキの顔をそっと撫でていく。ユキはその時、風の色を感じた。やさしい海風は秋の色をしていた。
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今週のお題は「風の色」です。
風の色、というお題で思い出したのは、この歌でした。
松田聖子さんの『風は秋色』です。
最初、曲調もあって明るい歌なのかと思っていました。
で、そういう話を書き掛けていたんです。でも、歌詞をよく見ると明るい内容じゃなかったのです。
そこで歌詞を見てさらに思い出したのがこの歌でした。
サザンオールスターズの『海』です。
この歌はすごく好きで、夏の終わりから秋にかけてピッタリだと思います。
今回は、この2曲をミックスしたようなお話を書いてみました。
ちょっとありきたりだったかなぁ。
今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪
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