あの夏の午後~Memory Flickers【ショートショート】
君とアイツは今頃どこで何をしてるのだろう。
夏の終わりの避暑地は人もまばらで、あの日と同じように太陽は僕を照らしている。駐車場に車を停めて湖までペットボトルのコーヒーを片手に歩き出す。水面を照らす陽の光と青い草いきれが僕を一気にあの日へ誘う。
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ひと夏の恋といえばそれまでの話だ。よくある、ありふれた話なのかもしれない。
僕とアイツで訪れた避暑地で君に出会ってしまった。
同じ所へリゾートバイトに来ていた僕たちと君が親しくなるのに時間は掛からなかった。避暑地の出会いの気軽さと夏の太陽の気まぐれのせいなのだろう。
「俺さ、あの子が気になるんだよな。好き、なのかも」
「お前も?」
「マジかー、お前もあの子の事好きなのか?参ったな」
アイツはしばらくの間うーんと考え込んで、僕に手を差し出した。
「分かった。じゃあ、俺たちはライバルだな。抜け駆けは無しな」
「おう!負けないからな」
僕は差し出されたアイツの手を力いっぱい握りしめた。
それからは仕事の合間に3人で行動するのが常になってしまった。映画、ボーリング、バーベキュー。それから花火もしたっけ。毎日がとても楽しく、こんな毎日がずっと続けばいいのにと思っていたけど、運命はそんなに甘くなかった。
ある日、三人で酒を飲んでいた。アイツは飲み過ぎたらしく、その場で寝てしまった。君はアイツにタオルケットを掛けてあげていた。
「飲み過ぎちゃったのかな。困った人ね」
「明日はバイトも休みだからいいさ。寝かせといてやろう」
アイツが寝てからも僕たちは飲みながら話をしていた。僕も酔っていたのか、アイツとの約束を破ってしまう事にしたんだ。
「ちょっとおいで」
彼女の手を引いて庭へ出てみた。空には星が零れ落ちそうなくらい瞬いている。三日月が僕たちを意味ありげに見ているように見えた。
「わあ、星がきれいね!この手に掬えそうだわ」
僕はそういう彼女を抱きしめた。少し汗ばんだ彼女からはシャンプーのいい匂いがした。彼女は突然の事に驚いて、僕から逃れようと両手で僕の胸を押した。僕は、ますます彼女を抱く腕に力を込めた。
「じっとしていて。僕の心臓の音が聴こえない?僕は君の事が好きになってしまったんだ」
しばらくの間そのままでいたけれど、僕は彼女の顔を両手で包み込んで唇を重ねた。その時、足音がして振り返ると、そこにはアイツが立っていた。
「お前…、約束…」
アイツがくるりと背を向けて立ち去ると、我に返った彼女もバタバタとその場を立ち去った。僕は茫然としながら、しばらくそこから動けなかった。
翌日の昼の列車でアイツは帰る事になった。
臨時駅に列車が滑り込んできた。乗り込もうとするアイツに僕は言った。
「ごめん。僕は約束を破った。ごめん」
アイツは大きな声で笑うと、僕の肩をポンと叩いた。
「いいって事よ。酔っぱらった俺が悪いんだ。お前、上手くやれよ。また学校でな!」
それから、彼女にも笑顔を浮かべて
「コイツの事、よろしくな。コイツ、いい奴なんだよ。本当に。だから、よろしくな」
列車は汽笛を鳴らして走り去る。夏の熱気と青い草いきれでむせ返りそうだ。列車が見えなくなるまで見送ると、彼女が僕に手を差し出した。
「私も明日帰るの。ちょうど今日までの契約だったんだ。あなたともこれでお別れね」
彼女は手を出せないでいた僕の手をギュッと握った。彼女の眼は涙で潤んで、昨日僕たちが見た星のように今にも零れ落ちそうだった。そんな彼女を目にした僕は、悟ってしまったんだ。彼女はアイツとの未来を選びたかったのだと。
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あの夏は僕の中で忘れられない夏になった。いつまでもいつまでも、あの夏に囚われている。心にぽっかりと空いた二つの穴は埋まる事無くそのままだ。
君とは連絡先も交換せずに、それっきりだ。そうするのがアイツと君に対するせめてもの償いだと思ったから。アイツとも学校で顔を合わせても、何となくお互い避けてしまい、そのまま学生生活を送り就職をし、今では音信不通だ。
この避暑地もすっかり変わってしまった。僕たちがバイトをしたペンションも今はもう無い。映画館もボーリング場も駐車場になってしまった。
変わらないものは無いというのに、僕のあの夏だけは変わらずにずっとそのままだ。コーヒーを飲み終わった僕は車に向かって歩き出した。遠い向こうにアイツと君の姿が見えたような気がした。
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昨日、稲垣潤一さんのMariaという曲から創作をしました。
この曲は作曲が林哲司さん、作詞が売野雅勇さんなんですが、このコンビでの曲で好きな曲がある事を発見しました。
Memory Flickers
この曲はHEART & SOULというアルバムのラストを飾る曲です。
このアルバムもすーごくいいです!
騙されたと思って聴いてみてくださいっ!!
ほんといいから。
君に逢いたい午後は『なるほど!ザ・ワールド』のエンディング曲、セブンティ・カラーズ・ガールはCM曲でした。
私、この口紅、デパートに買いに行ったわ。
懐かしいなぁ。
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で、Memory Flickersなのですが。
この曲は、避暑地で出会った女の子(20歳)にひと夏の恋をしたっていうものです。
親友と同じ子を好きになってしまうのですね。
なんか、このメロディも明るいんだけど、ちょっと憂いのある感じもします。で、歌詞がですね、情景が浮かんできて切なくなります。
この主人公は、いつまでもあの夏の午後が忘れられないのでしょうね。
同じコンビの曲ですが、Mariaとは違って胸に刺さります。
で、このシチュエーションの曲はどこかで聴いたような・・・
思い出のビーチクラブ
あらら、こちらの曲も同じコンビでの作詞作曲だったみたいですね。
こちらの曲も避暑地でのひと夏の恋の歌です。
出てくる女の子も20歳なんです。
何となく、同じ様な設定の感じがします。
この曲もいい曲なんですよねー。
ジンジャーエールが飲みたくなります・・・
私は大人だから、モスコミュールの方がいいかな笑
夏の日の夢から覚めたら、悲しい大人になっているのかな。
私、悲しい大人かな?
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