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「今更」という呪いを捨てて、35歳で上京した話。

2022年8月18日。わたしは35年過ごした故郷の石川県を離れて上京した。

リモートワークになったことにより、東京を脱出して地方移住したというのはよくある話だが、その逆の話についてはあまり体験談やブログがない。

あれから一年が経ったので、30代で上京するまでの経緯から、一年を東京で過ごしてみて現在思うことまで、さまざまなことを思い出しながら綴っていこうと思う。


上京が叶わなかった20代

地方出身者が上京するタイミングといえば、進学や就職。そのあとは転勤、転職、結婚あたりが一般的だと思う。

生まれてからこれまで、石川県を出たことがなかったわたし。東京での暮らしには20代の頃から憧れていて、東京の求人を眺めては何度も検討したことはあったし、実際に応募したこともあった。

しかし今でこそ、コロナ禍を経てオンライン面談などがあるものの、当時はもちろんない。また現在は北陸新幹線が開通し、東京までは2.5〜3時間程度で行けるようになったものの、当時は新幹線もまだなかった。

週5フルタイムで仕事をしつつ、地方から東京へ何度も足を運んで平日に転職活動をすることは、時間の面でも金銭面でも現実的ではなく、結局20代で上京することは叶わなかった。

上京を叶えたのは「フルリモートワーク」への転職

とある日のリモートワークの風景。

2022年3月、勤めていた金沢の会社を退職し、その翌月の4月からフルリモートワークの会社で働きはじめた。(このきっかけをくれた方には本当に感謝しかない)

20代の頃から「どこへ行っても自分の腕だけで稼げる人間になる」ということをずっと目標としてきて、それが一旦形になった。わたしはもう地元に住み続ける必要がなくなり、どこに住んでもよい状態になった。

やっぱり人生で一度くらいは、地元を離れて東京で暮らしてみたい。長い時間がかかったけれど「ようやく上京するときがきた」と思った。

30代を呪う「今更」という言葉を故郷に置いて

海が好きでいつもドライブしていた場所。
「石川に帰る場所はもうない」という覚悟で、大好きだった車も手放した。 

転勤、転職、結婚が理由でもなく「ただ東京に住んでみたかっただけ」で上京してきたというと、大抵の人に驚かれる。謎の行動力を発揮した、変わり者の女でしかないと自分でも思う。

わたしは35歳を迎えたとき、正直その数字に心が重たかった。転職や婚活などにおいてボーダーラインとなる「35歳」という年齢。

何をやるにも「今更」「いい歳して」という言葉や目線を他人からも自分自身からも向けられている気がして、もう「これ以上」を望んではいけないような空気が漂う。

そのような閉塞感の中、これ以上地元にいてももう何の変化も起きない、いや、起こせないこともひしひしと感じていた。

学歴や資格や専門領域があるわけでもないわたしが、地元企業でこれ以上に年収を上げることも難しければ、結婚で人生が大逆転することもない。

いつもと変わらない風景、街並み。観光に来るにはいい場所だが、35年も暮らせば、毎日を過ごすには退屈な街。もちろん、遊びに行きたい最新スポットがバンバン生まれるわけでもない。

観光するにはいい街だと思う。きまっし金沢。

このまま緩やかに降下していくであろう日常は、わたしにとって「退屈」と「不安」でしかなかった。

それに耐えられないとなると、人生を変えるには住む場所を変えるしかない。住む場所を変えれば、人間も環境も強制的に変わる。

30代でそんな挑戦は「今更」だろうか?いや、そんなことはないはず。

わたしは、シケた顔をして生きている自分とこれから一緒に生きて行きたくはないし、そんな自分とは親友にもなれない。

わたしは、自分の中の「今更」という言葉を捨てて、上京することを本格的に決意した。

上京を人生最大の「プロジェクト」に

作成したNotionの一部。

いつも通り仕事をしながら上京の準備を進めたわたしは「東京引っ越しPJT」というプロジェクトを立てて、まずは目的を定義し、すべてのタスクと進捗状況をNotionで管理した。

フルリモートで通勤がないからこそ、土地勘がない中で住むエリアや物件を決めることは非常に難しかったが、「何のために引っ越すのか」「どのように暮らしたいか」を考えることで最適な選択ができたと思う。

こうして順序立てて着実にタスクを消化したことで、7月下旬に1日だけ内見に行き、8月中旬に入居するというスピード感で引っ越しを完了することができた。

すべてが「自分ごと」になるのが東京という場所

大好きなちいかわにもすぐ会いに行ける!
「推し活」が日本一捗る街、東京。

東京で暮らし始めて、あっという間に一年が経った。結論、あのとき思い切って上京してきて本当に正解だったと思う。

あのとき踏み切っていなかったら、一年前の自分とそんなに変わらない日常を現在も送っていただろうと、簡単に想像できる。

東京に来てから何度「上京してきてよかった」と思ったかわからない。

東京に住むと選択肢が圧倒的に増える

上京してよかったことを具体的に挙げると、東京に住むと「自分ごと」になる物事の数が、ものすごく増えるということだ

東京は、遊びに行く場所、転職先、出会う人間など、あらゆる物事の数が圧倒的に多く、人生の選択肢がグッと広がる。それは自分だけでなく、将来自分の子どもに与えてあげられることにも同じことがいえる。

石川県に住んでいた時代は、TVや雑誌、Webメディアなど、あらゆるメディアで取り上げられる物事のほとんどが東京の話題であり「他人ごと」だった。

しかし今は、メディアで見ていいなと思った場所に「今日これから行ってみよう!」ということが、できてしまう。

都内近郊であればどこでも1時間以内には行けるし、交通費だってわずか数百円で済む。このフットワーク軽く生きられる感じが、わたしはたまらなく好きだ。

美しい展示の数々にとても感動したディオール展。
石川にいたらこんなに気軽に行くことはできなかった。

会いたい人に日常の中ですぐに会いに行ける

加えて、人との会いやすさも大きなメリットだ。この一年で、何人の素敵な人に出会ったかわからない。地元にいながらこんなにも多くの人と新たに出会うことは、まず不可能だと感じた。

これまでリモートで仕事をしていた仲間と、気軽に遊んだり飲みに行ったりできるようになったことも、嬉しいことのひとつだ。

大好きなメンバーとの女子会。
リモートでもだいたいみんな都内近郊に住んでいる。

地方から長時間の移動(いわゆる遠征)を伴う大イベントとしてではなく、日常の営みの中で憧れの人に会いに行けることや、あらゆるイベントに気軽に参加できること。

それはやはり、東京に住んでいるからこそ実現できることだと思う。

誰かといても楽しい。
でも、ひとりで楽しめることも無数にある。

それが、わたしから見た東京という街だ。

多くの人が集うイベントに気軽に参加できるのも、
誘ってもらえるのも東京ならでは。

東京の家賃は高いのか問題

また、東京の家賃は高いとよくいうが、わたしはそうは思わない。この圧倒的な選択肢を誇る「環境」をまるごと手に入れられるのだから。

地元の家賃だって、東京と比較してそこまで安いわけではない。生活必需品である車の維持費などを考慮すると、むしろ地方のほうが割高ではないかとすら思う。

住む場所の影響力を侮ってはいけない

初めてスカイツリーにのぼった日。
この街には、圧倒的なエネルギーがある。

30代で上京する人は、あまりいないかもしれない。わたしはこの一年間があまりにも楽しくて「20代で上京していたら人生違っただろうな」と何度も思った。

だけど、20代の頃の自分に比べれば今の自分はお金を稼ぐ力もついたし、物事をより広く深く見ることもできるようになっている。「今だからこそ」この環境を活かして楽しむことができる、とも思っている。

20代の自分は本当に未熟で、もったいない時間の過ごし方や失敗もたくさんしてきた。けれど、それを呪いのようにいつまでも背負い続ける必要はない。

ただ「家」や「土地」のもつ力や、その場所にまつわる「記憶」の影響力は非常に大きく、人は無意識にそのエネルギーに引きずられてしまう。

負の感情や記憶、あるいはセルフイメージをリセットしたいのであれば、やはり住む場所を変えるのは、絶大な効果があると思う。

石川の空っていつもだいたいこんな感じ。

また、実は大きく影響するポイントだと感じているのが「天気」だ。北陸は年間を通して雨や曇天の日がとても多い。日本海側から太平洋側に引っ越してよかったことは、天気がいい日が非常に多いことだ。

天気や日照時間は、気分の浮き沈みや性格に多大な影響を及ぼすと実感している。

大丈夫、どこからでも人生は仕切り直せる

上京した日に乗った北陸新幹線。

「10〜20代に上京できなかったけれど、やっぱりどこか諦めきれない。」

そのような気持ちを心の奥に仕舞い込んで、地元で淡々と日常生活を営んでいる30代以上の方は、実は案外いる気がしている。

わたしは、そのような方に提案をしたい。

「今のあなた」でもう一度、上京を検討してみてはいかがですか、と。

東京に憧れていた「あの頃」とは、自分自身も世の中も、実は随分と変わっている可能性があるから。

人生は、どこからでも仕切り直せるし、いつからでも自分次第でいくらでも彩ることができる。

そんなことを教えてくれたこの街で、わたしはこれからも生きていくのだろうと予感している。今日も、止まらない好奇心をひたひたに満たしながら。


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