見出し画像

「自分の名前」で仕事をするということ。

去年わたしが本格的にライターとして活動を始めて以来、仕事で書いてきたものはすべて自分の名前が記載されない『無記名記事』だった。

そんなわたしにとってnoteは、自分の名前で記事を発信できる唯一の場所として機能していた。

noteの記事はわたしが書いたものとして読まれ、コメント欄やSNSを通じて読者から反応が得られる。それはやはり非常に嬉しいことだと実感した。「Miyuさんへ」と感想をいただくことは、無記名ライターの仕事では絶対に起きないことだ。

正直、記名記事を書けるライターさんが非常に羨ましかったし、一刻も早く自分もそうなりたいと思っていた。そうなれるように、無記名記事のクオリティをとにかく上げつつ、今すぐ目の前のお金にはならなくても、noteやXで自分の名前で発信を続けてきた。

現在は引き続き無記名記事も制作しているが、個人での発信をキッカケに、仕事として『記名記事』を書く場をいただくことができた。

自分の発信したいテーマとマッチし、そのミッションにも共感できる媒体で記名記事を書けるのは、非常に幸運に恵まれたパターンだと思う。

加えて自分でメディアを立ち上げたことによって、自分の名前で発信できる場がさらに増えた。というよりもこれは、自分でつくりだしたというほうが正しいかもしれない。

今のわたしには、自分の名前を残せる場所が必要だ。

名無しのコンテンツ屋さんへの限界

フリーランスになって以来、当然ながら◯◯社の◯◯ですと名乗ることができなくなった。雇用されている場がないので、今後ライターとして長く活躍していくためには「自分の名前」で勝負するしかない。

しかし昨年のわたしはフリーのライターとして無記名記事を制作しながら、記事の「何が」の部分で自分の強みを発揮できるわけでもなく、自分の名前という「誰が」の部分すら失っている状況に陥っており、不安を感じる日々が続いていた。

来る日も来る日も記事を生み出しているのに、実績として人に示せる名前の載った実例が、何ひとつない。

さらに誰が書いたかわからない記事は、インターネット上にただの情報として放流されたあと、一読されればもう二度と出会うことはないだろうという虚しさもあった。

誰にどう役立っているのか自分で手触り感をもてない仕事は、何も積み上がっている実感がなかった。

名無しのコンテンツ屋さんは、簡単に価格で負けてしまう。クライアントにとって「誰が」の部分が重要でないのであれば、納品物が基準のクオリティに達していれば必ずしもわたしでなくてもいいはずだ。

これまで頼んできた安心感や仕事の勝手がわかっていることよりも、低価格であることにクライアントが価値を感じる場合、より低価格で実現できるライターさんがもし現れれば、わたしはあっという間にお役御免となる。

「誰が」の部分に価値がない仕事というのは、そういうものだ。

自分の名前で仕事をするという覚悟

これまでわたしが自分の名前で書いてきたものは、自分の中の「やりきれなさ」や「どうして」から生まれてきたものだった。

生まれた場所や育った環境による格差の問題。働き方の問題。性別や学歴による機会の問題。そして、大人が学び続けることについて。

特別な専門知識やスキルをもたないわたしは、当事者として自分の中で生じたものや実体験を発信することによって、「何を」の部分の価値を提供できると考えている。

そして、それを自分の名前で発信し続けることによって、ゆくゆくは「誰が」の部分にも意味をもたせることができるようになるはずだ。

自分の名前で仕事をするということは、世に放たれたあと「作ったその先」にも責任をもつことが必要になる。納品が完了したらその仕事は終わり、ではない。

自分が寝ている間にも、どこで誰に自分の仕事をチェックされているかわからない。それは別の仕事につながることもあれば、「この程度か」とひそかにがっかりされることもあるだろう。

さらに、知らないうちに誰かの大切な意思決定に関わり、人生を変えてしまうこともあるかもしれない。

そう思うと、無記名記事を量産するほうがライターとしてはずっと気楽だ。それでもわたしは、記事が「わたしそのもの」であり続ける仕事をしていきたい。

記名記事を書くことは、今後もライターとして食べていくのだという、自分の中での覚悟であったと思う。

そして何より、お金以上に読者からの反応が最も大きな報酬であるわたしにとって、「つくったその先」を手放すことは、どうにも難しそうだ。

これからも「誰が」「何を」の両方で、わたしにしかできない仕事を目指していきたいと、今改めて思う。


Miyuが編集長を務める上京情報メディア『上京タイムズ』は、こちらからご覧いただけます。

この記事が参加している募集

ライターの仕事

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?